ガンダムやジークアクスの技術はどこまで実現可能か考察 Vol.4「モビルスーツ」と「巨大二足歩行ロボット」

小林 啓倫

Specialカルチャー映画・音楽

巨大ロボットを戦争以外で何に使うか

戦闘用に開発された兵器であるモビルスーツを、現実の世界で、兵器以外の用途でどう使うか——この問いにそもそも無理があると感じる人もいるかもしれない。だがその前提はいったん脇に置いて、モビルスーツが戦闘以外に活用される可能性を探ってみたい。

まず考えられるのは、災害対応と極限環境での活用だ。巨大ロボットは、人間にとって致死的な環境、例えばメルトダウン後の原子力発電所や大規模な化学プラント事故、あるいは土砂災害の現場などでも活動できる可能性がある 。約20mの高さは広範囲の状況把握に役立ち、その動力は重いがれきの撤去などで力を発揮するだろう。

建設現場での利用も有望だ。整地されていない建設現場に直接歩いて入り、人間では持ち上げられないような巨大な構造物や重いプレハブ部材を運び、精密に設置する。これにより、従来の重機だけでは作ることが難しかった自由な建築デザインが可能になり、工期の劇的な短縮も期待できる。ただし前述の通り、数十tものロボットが歩き回れる環境となると、都市部での運用はまず不可能だ。例えば、へき地でのダム建設や、荒野でのシェルター設置といった用途に限定されるだろう。

宇宙領域、エンタメ領域での用途は?

自重を気にせず動ける環境、すなわち宇宙空間での利用も、有望な用途として考えられる。無重力の宇宙空間はもちろん、月や地球の6分の1、火星は3分の1の重力しかないため、地球では自重で崩壊してしまうような巨大なロボットでも、問題なく機能できる可能性がある。例えば第2回で取り上げた「スペースコロニー」の建設に巨大ロボットが使われる、あるいはそのために巨大ロボットの技術開発が進む——そんなSF的展開も期待できるかもしれない。

あるいはいっそのこと、エンターテインメントに振り切ってしまう発想もあるだろう。実際、日本では既にいくつもの「実物大ガンダム」が建造され、大勢の観光客を集めてきた。これまでは「動く」といってもほんのわずかだったが、少しずつ稼働範囲を増やしていければ、そのたびに新たな集客が見込めるだろう。

またジークアクスの世界では、モビルスーツ同士が戦う「クランバトル」という違法エンターテインメントが行われていた。いささか不謹慎ではあるが巨額の費用を掛けて建造された巨大ロボットを乱暴に扱うことに疑問は残るが、こうしたクランバトル的なエンターテインメント用途も意外に発展するかもしれない。歴史をひも解くまでもなく、格闘技はいつの時代も大勢の人びとの心を引きつける存在だからだ。

「巨大ロボットビジネス」の可能性

最後に、巨大ロボットを一時的な見せ物や道具ではなく、身の回りで日常的に活用される存在にするためのビジネスモデルについて考えてみよう。

まず、巨大ロボットの製造コストは天文学的な額になると考えられるため、1つの建設会社が1つのプロジェクトのために購入するのは非現実的だ。ここでヒントとなるのが、建設機械レンタルの市場。日本国内だけでも年間1兆円以上の巨大市場であり、大手企業がさまざまな建機をレンタル、リースしている。

巨大ロボットも同様に、専門企業が所有・維持管理し、建設会社などにプロジェクト単位で貸し出すビジネスモデルが成り立つ可能性がある。

つまり、巨大ロボットを「モノ」として売るのではなく、それが実現する「機能」をサービスとして提供するRaaS(ロボット・アズ・ア・サービス)モデルだ。このビジネスには、ロボット本体の提供に加え、輸送、認定オペレーターの派遣、専門メンテナンス、そして保険までを含んだ包括的なサービスが必要になる。この点でも、既存の建機レンタル業界のビジネスモデルが参考になるだろう。

「操縦が必要な新技術」という観点では、ドローン(小型UAV)産業も参考になる。現在、ドローンは普及期にあり、操縦やメンテナンスを教える教育ビジネスや、訓練されたパイロットや整備士の派遣、機体のレンタル、撮影などのサービス提供型ビジネスが既に存在する。また、機体に対する保険や、万が一の損害に備えるための補償サービスも登場しつつある。巨大ロボットの場合も、同様の保険が必要になるはずだ。

巨大ロボットが「国の産業」として立ち上がる日

さらに、巨大ロボットは「巨大」であるがゆえに、格納スペースの確保も重要になる。専用の格納庫を建築し、その周辺に広場や滑走路のような専用道路を整備することで、安心して巨大ロボットを輸送・保管できる「巨大ロボット保管サービス」も考えられる。そうした格納庫には整備機能も備えられ、常駐する専門の整備士たちが定期的なメンテナンスを行うようなサービスも想定される。

そのメンテナンスには、無数の専用パーツを製造・提供する中小企業が連なり、さらに巨大ロボットの開発・整備・運用に関わる人材が集まる――そんな風に考えていくと、「巨大ロボット産業」は、まるで現代の自動車産業のように、一国の繁栄を左右するほどの巨大産業に成長するかもしれない。

もしかしたら、日本の自動車産業に代わるのは、巨大ロボット産業かもしれない。そう言うと冗談が過ぎるかもしれないが、そもそもガンダムという不朽のロボットアニメを生みだしたのは日本だ。巨大ロボットが産業として立ち上がる日が来たなら、そこで日本が重要なプレーヤーになっていることを願いつつ、本シリーズを締めよう。
27 件

小林 啓倫

経営コンサルタント
1973年東京都生まれ、獨協大学外国語学部卒、筑波大学大学院修士課程修了。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米バブソン大学にてMBAを取得。その後外資系コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業などで活動。著書に『FinTechが変える!金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』(朝日新聞出版)、『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『ソーシャル物理学』(アレックス・ペントランド著、草思社)、『シンギュラリティ大学が教える 飛躍する方法』(サリム・イスマイル著、日経BP)など多数。

ranking

  • 1
    サムネイル

    日傘愛用者による「モンベル」と「サンバリア100」徹底比較レビュー、折り畳み傘がいい?それとも長傘?

  • 2
    サムネイル

    急激に伸びるツルにアワアワ……ベランダで挑む初めてのグリーンカーテンづくり(カーテン化編)

  • 3
    サムネイル

    「近所の本屋さん」は減っているというのに、私がオンライン書店でめっきり本を買わなくなった理由

  • 4
    サムネイル

    ダイソー・セリア・キャンドゥ 100円ショップのパソコン周りクリーナーおすすめ6種を試してみた

  • 5
    サムネイル

    クラフトビールをおいしくテイクアウトできる!つい持ち歩きたくなる「真空断熱炭酸ボトル」

  • 1
    サムネイル

    日傘愛用者による「モンベル」と「サンバリア100」徹底比較レビュー、折り畳み傘がいい?それとも長傘?

  • 2
    サムネイル

    急激に伸びるツルにアワアワ……ベランダで挑む初めてのグリーンカーテンづくり(カーテン化編)

  • 3
    サムネイル

    お台場発着に決定!日本でも“豪華客船体験”ができる?「ディズニークルーズライン」の価格・アトラクション最新情報

  • 4
    サムネイル

    寝落ち率100%?Netflixの“爆睡先生”こと『ヘッドスペースの睡眠ガイド』に今夜も夢中

  • 5
    サムネイル

    ダイソー・セリア・キャンドゥ 100円ショップのパソコン周りクリーナーおすすめ6種を試してみた

  • 1
    サムネイル

    日傘愛用者による「モンベル」と「サンバリア100」徹底比較レビュー、折り畳み傘がいい?それとも長傘?

  • 2
    サムネイル

    Nintendo Switch2当選確率は16.2%?本当に買えるのは“いつ”なのか問題

  • 3
    サムネイル

    お値段相応のリッチな質感!!究極の折りたたみスマホ!スマホとタブレットの完全融合、三つ折りスマートフォンのメリット

  • 4
    サムネイル

    お台場発着に決定!日本でも“豪華客船体験”ができる?「ディズニークルーズライン」の価格・アトラクション最新情報

  • 5
    サムネイル

    寝落ち率100%?Netflixの“爆睡先生”こと『ヘッドスペースの睡眠ガイド』に今夜も夢中

internet for you.