AI普及のカギは“ノーコード”にあり

まるで人間のように会話できるチャットボットから、次のパンデミックを予測するアルゴリズムまで、いまやありとあらゆる場面でAI(人工知能)を活用するようになっている。現時点で十分な機能が発揮できているかどうかは別にして、AI活用を推進していない分野はないと言っても過言ではないだろう。

しかしそうした「AIブーム」とでも呼べるような状況は、逆に問題も引き起こしている。AIの活躍が期待される課題の数に対して、圧倒的に技術者の数が少ないのだ。たとえばよく引き合いに出される数字として、経済産業省が発表した資料「AI人材育成の取組」の中に登場する予測があるが、そこでは2030年までに国内で約79万人のIT人材が不足すると見込まれている。仮に日本が高い技術力を維持できたとしても、それをさまざまな現場に実装する人材がなければ、AIの普及は遅れてしまう。

そのために国は技術者の育成に力を入れているが、超少子高齢化が進む日本では、残念ながら短期間で技術者を大幅に増やすことは難しい。そこで注目されているのが、コーディング(プログラムを組むこと)なしでAIが開発できる「ノーコードAI」プラットフォームと、それを駆使する「市民開発者」の育成だ。

「ノーコードAI」とは何か

まずは「ノーコード(No-code)」の説明から始めよう。この言葉は文字通り、「コーディングがいらない」ことを意味する。新しいソフトウェアを開発するには、人間がプログラムを組む、すなわちコーディングすることが求められる。しかしそれは絶対ではない。たとえば職場でお馴染みの表計算ソフトウェアであるExcelには、「マクロの記録」機能が設けられている。ユーザーはこれを使うことで、(Excel上での動きに限定されるものの)一定の操作を実際に行ってみるだけで、その操作を繰り返すマクロ(プログラミング言語「VBA」で書かれたプログラム)を自動で生成できる。

最近話題を集めるRPA(Robotic Process Automation、人間が使用するアプリケーションを人間に代わって自動で操作してくれるアプリケーション)やコボット(コラボレーション・ロボット、人間と同じ空間で動かしても危険のないように設計された産業用ロボット)にも同様の機能を持つ製品があり、ユーザーが繰り返したい操作を実践してやるだけで、RPAやロボットにその操作を「覚え込ませる」ことができる。

もちろんこうした機能で自動生成できるのは簡単なプログラムで、複雑な操作をさせようとすれば、改めて人間がコーディングする必要がある。しかし簡単な内容でも「コーディングがいらない」を実現しているのは事実であり、「ノーコード」はプログラムを開発する際の選択肢として、既に一般的なものになっている。

このノーコードをAI開発において実現したのが、文字通り「ノーコードAI」だ。実際にどのようなものか、Googleが提供するノーコードAIプラットフォームのひとつ「Teachable Machine」のデモを見てみよう。

Teachable Machine 2.0: Making AI easier for everyone
このデモでは、「自分の顔と飼い犬の画像を見分ける」というAIをノーコードで実現している。操作は極めて単純で、それぞれの画像のサンプル(サイト上からその場で撮影できる)をアップロードして、「モデルをトレーニングする(Train Model)」というボタンを押せばOK。すると新たな画像や映像が与えられた際に、どちらの画像かを判別してくれるモデルが出来上がるという仕組みだ。同じような機能を提供するノーコードAIプラットフォームが続々と登場しており、それぞれの使い方を覚える必要はあるものの、高度なプログラミング・スキルを身につけなくても一定のAIを開発できる時代が到来している。

とはいえこんな簡単なAIを作れても……と思うかもしれないが、後は使い方次第だ。たとえばMicrosoftでソフトウェアエンジニアとして働くショーン・キューザックという人物は、同社のノーコードAIプラットフォームである「Lobe」を使って、”BeeTracker”という装置を開発した。これは小型の据え置き型カメラで、ミツバチの巣箱の前に置いておくと、撮影された映像を解析して巣に入るハチがミツバチかそうでないか、特にミツバチを捕食するオオスズメバチがまぎれていないかを判別してくれるというものだ。この映像解析に、Lobeで開発したAIが利用されているというわけである。

なぜキューザックはこのようなAIカメラを自分で制作したのか。実は彼はMicrosoftで働く傍ら、養蜂も営んでおり、ミツバチの巣箱に侵入する外敵をチェックして対処する必要があった。しかし兼業である以上、それに長い時間をかけたり、大規模な設備投資をしたりするわけにはいかない。そこで簡単に利用できるテクノロジーを活用して、極めて限定的な用途にしか使えないものの、自らの目的には十分に対応してくれるAIカメラを開発したというわけだ。ちなみに筐体は3Dプリンターを使って作り上げたそうである。

他にも同じLobeを使い、カメラの前にゴミをかざすだけで、その分別を行ってくれるAIを開発した人もいる。

Raspberry Pi ML Trash Classifier Demo
これらはいずれも、開発した当人たちの個人的な悩みを解決してくれる、立派なAIと言える。しかし大手のAIベンダーから見れば、多額の開発予算をかけて製品化しても、その元が取れるかどうか怪しい案件と見なされてしまうだろう。そうでなくても貴重なAI開発者は、より高度で複雑な、そしてビジネス的にも魅力的な案件に投入する方が望ましい。

そこでTeachable MachineやLobeのようなノーコードAIプラットフォームの出番というわけだ。こうしたサービスやアプリケーションを利用して、特定の機能を実現するAIを自ら開発する人々を「市民開発者」と呼び、彼らの存在は社会的にも重要なものになりつつある。
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小林 啓倫

経営コンサルタント
1973年東京都生まれ、獨協大学外国語学部卒、筑波大学大学院修士課程修了。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米バブソン大学にてMBAを取得。その後外資系コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業などで活動。著書に『FinTechが変える!金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』(朝日新聞出版)、『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『ソーシャル物理学』(アレックス・ペントランド著、草思社)、『シンギュラリティ大学が教える 飛躍する方法』(サリム・イスマイル著、日経BP)など多数。

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