伸縮するIoTデバイスとAI技術の統合で新たなシステム実現の可能性、GMOペパボと横国大が共同で開発

ムコハタワカコ

AIGMOインターネットグループIoT・モビリティテクノロジー
GMOペパボでインターネットに関する新技術の創造と実践に取り組む研究開発組織「ペパボ研究所」は、横浜国立大学で先進スマートデバイスを研究する太田研究室との共同研究により、ストレッチャブルデバイスとAIを統合した柔軟な動作認識スマートシステムを開発したことを明らかにしました。

ストレッチャブルデバイスとは、電子回路や基板、パッケージなどの部品それぞれが伸縮性を持つように作られた電子デバイス。人体などの柔らかな面や大きく変形する対象の動きを妨げずに密着できることから、次世代のウェアラブルデバイスとして研究されています。

AIと伸縮するデバイスで生体の動きをスマートに認識するシステム

工学分野では近年、伸縮性を持つゴム材料や導電性材料を活用した「ストレッチャブル(伸縮可能な)エレクトロニクス(電子光学)」の研究が広く進められてきました。デバイスレベルで開発が進められてきたこれらの技術は、社会実装に向け、さらに高度なシステムに昇華させることが期待されています。

システムの高度化に向け、ストレッチャブルデバイスから得られたデータを解釈するためには、大量のデータからコンピュータがパターンを見いだすことが可能なAI技術が注目されています。ただし従来の伸縮可能なストレッチャブルセンサーは、繰り返しの使用による劣化や個体差により測定結果が大きく変動し、不安定なことが課題。データの再現性が重要であるAI分野とストレッチャブルデバイスとの統合は、これまで進められてきませんでした。

今回、横浜国立大学大学院工学研究院の太田裕貴准教授が率いる太田研究室と、GMOペパボの栗林健太郎取締役CTO率いるペパボ研究室が共同で取り組んだ本研究では、硬い集積回路(IC)にゴムのように柔軟な基板と液体金属配線を組み合わせ、高いデータ再現性を両立できる「ストレッチャブルハイブリッドデバイス」を実現しました。

《図1》液体金属を用いた伸びる電気回路と、柔軟性が部位によって異なる基板を用いて、既存の硬質な回路素子を柔軟なデバイスに組み込む技術を開発

《図2》デバイスを2.5倍の長さまで伸ばした際も、硬質な慣性センサICと同等のデータ計測精度・再現性を有するストレッチャブルハイブリッドデバイスを実現

【図2解説】
図2-A:検証に使用した1素子デバイスの画像。元の長さと液体金属配線を2倍の長さまで伸長した際の画像
図2-B:液体金属配線とフレキシブル回路基板の間の抵抗変化率。保護構造がある場合は250%(3.5倍)まで伸長しても断線しない
図2-C:デバイスを伸長しながら慣性センサICと通信を行い、計測された加速度。保護構造がある場合は150%(2.5倍)まで伸長してもデバイス上のICと通信できた


このデバイスを用いて、人がひもを結ぶ際の動き、空中に文字を書いた際の手の動き、手話を行った時の手の動きのデータを収集し、AI技術の手法の1つ「教師あり学習」(教師データと呼ばれる大量の参考データをコンピュータに学習させてパターンを見いだし、未知のデータと学習したパターンを比較して結果を出力する)によって分類を行いました。

《図3》ストレッチャブルハイブリッドデバイスを用いた動作認識システムの概要

その結果、動作のパターンから10種類の結び目の形状、空中に筆記した26種類のアルファベット、65種類のアメリカ手話の単語について、それぞれ87%、98%、96%の正答率で分類することに成功しました。

《図4》動作分類用デバイスとAIによる分類の結果

【図4解説】
図4−A〜C:結び目、指文字、手話の分類に使用したデバイス
図4-D〜F:取得したデータをそのままクラスタリングした結果。データがばらばらに分布しており、分類できていない
図4-G〜I:ニューラルネットワークにより取得したデータを処理した後のクラスタリング結果。データが種類ごとにクラスタを形成しており、特徴ごとに分類できている

最先端のエレクトロニクスとAI技術で新たな知的システム実現も

研究に参画したペパボ研究所は、ミッションに「研究開発により『事業を差別化できる技術』を生み出す」を掲げ、GMOペパボがこれまでさまざまなサービスの開発・提供で培ってきたノウハウを活用し、インターネットの可能性を広げる「なめらかなシステム」というコンセプトの実現に向けた新技術を研究・開発する組織です。

ペパボ研究所ではインターネット基盤技術や機械学習・AIを主な研究テーマとし、研究開発から実装、その後の効果測定までを一貫して行い、「事業を差別化できる技術」を生み出す研究開発と情報の発信を行っています。

今回の研究では、既存の硬質センサと同等の計測能力を有する柔軟デバイスを開発。高性能な柔軟デバイスをAI技術と統合することで、動作認識のような知的システムが実現可能であると立証されました。今後は、既存のさまざまなセンサーを組み込んだ高性能なストレッチャブルデバイスが開発されることが期待できます。

また、ストレッチャブルエレクトロニクスが主なターゲットとする生体は、動作分析や音声認識、健康状態の推測など、AI技術によるデータ解析が活用しやすい対象です。研究の成果を活用し、柔軟エレクトロニクスと先進情報技術を統合することで、動作認識に限らず、新たな知的システムの実現にもつながると考えられます。

AI技術を取り込んだストレッチャブルデバイスは、健康モニタリングやスポーツ分析、リハビリテーションなど、幅広い分野での応用が期待される分野。将来的にはソフトマテリアルや液体金属など、生体との親和性が高い素材を活用したセンサーを用いてデバイスを作成し、人の動きを邪魔することなく、体の動きを読み取れるウェアラブルデバイスも夢ではありません。

こうしたデバイスに今回の研究結果を応用・進化させれば、例えば、人の手や口の動きのセンシングにより、意志の伝達やウェブサービスの操作ができたり、VR空間上で物理空間上の動きの再現を行ったりするようなウェアラブルデバイスの開発なども考えられます。現実空間とVR空間、障がいの有無などの区別なく、あらゆる空間でさまざまな人の表現活動が可能な世界が、近い将来に実現するかもしれません。

ムコハタワカコ

編集・ライター
書店員からIT系出版社、ウェブ制作会社取締役、米系インターネットメディアを経て独立。現在は編集・執筆業。IT関連のプロダクト紹介や経営者インタビューを中心に執筆活動を行う。企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)、組織づくりや採用活動などにも注目している。

ranking

  • 1
    サムネイル

    クラフトビールをおいしくテイクアウトできる!つい持ち歩きたくなる「真空断熱炭酸ボトル」

  • 2
    サムネイル

    どの位まで聞こえるの?徹底性能比較!100円ショップの「防犯ブザー」&「ホイッスル」4選

  • 3
    サムネイル

    「現在も人が住んでいる、世界で一番古い都市ランキング」どこ?いつからあるの?

  • 4
    サムネイル

    ダイソー・セリア・キャンドゥ 100円ショップのパソコン周りクリーナーおすすめ6種を試してみた

  • 5
    サムネイル

    逸品発見!100均電子レンジ調理器6選。焼き魚にだし巻き卵、マカロニまで!

  • 1
    サムネイル

    クラフトビールをおいしくテイクアウトできる!つい持ち歩きたくなる「真空断熱炭酸ボトル」

  • 2
    サムネイル

    ダイソー・セリア・キャンドゥ 100円ショップのパソコン周りクリーナーおすすめ6種を試してみた

  • 3
    サムネイル

    「現在も人が住んでいる、世界で一番古い都市ランキング」どこ?いつからあるの?

  • 4
    サムネイル

    逸品発見!100均電子レンジ調理器6選。焼き魚にだし巻き卵、マカロニまで!

  • 5
    サムネイル

    どの位まで聞こえるの?徹底性能比較!100円ショップの「防犯ブザー」&「ホイッスル」4選

  • 1
    サムネイル

    研究者のマニアックな視点と五感でムシを知る—— 上野の国立科学博物館 特別展「昆虫 MANIAC」

  • 2
    サムネイル

    大きなくしゃみと小さなくしゃみ、なぜ人によって音の大きさが違うのか?

  • 3
    サムネイル

    ダイソー・セリア・キャンドゥ 100円ショップのパソコン周りクリーナーおすすめ6種を試してみた

  • 4
    サムネイル

    クラフトビールをおいしくテイクアウトできる!つい持ち歩きたくなる「真空断熱炭酸ボトル」

  • 5
    サムネイル

    逸品発見!100均電子レンジ調理器6選。焼き魚にだし巻き卵、マカロニまで!

internet for you.