IoTのその先は?「行動のインターネット(IoB)」の可能性

1999年のこと。当時MITで研究員をしていたケビン・アシュトンという英国人エンジニアが、「モノのインターネット(IoT:Internet of Things)」という言葉を初めて使った。当時彼はRFID(Radio Frequency Identification:Suicaなど、非接触でデータを読み書きするシステム)の研究開発をしており、それをさまざまなモノに埋め込んで情報を取得する世界を夢見た。このコンセプトを「モノのインターネット」という言葉で表現したわけだが、それから20年以上が経過したいま、人間以外の機器や設備でもネットにつながるのが当たり前の話になった。総務省の情報通信白書によれば、2019年の時点で、全世界のIoTデバイス数は253億台を突破している。現在の世界人口はおよそ78億人であるため、仮に赤ちゃんからお年寄りまであらゆる人々がインターネットを使ったとしても、その3倍以上のモノがネットに接続している計算だ。

こうした状況から、既にIoTではなく「IoE(Internet of Everything)」、すなわち「あらゆるモノがネットにつながる」時代が到来していると言われる。「あらゆる」というのは誇張表現だとしても、「これがネットに接続していたらうれしい」と感じられるモノには、当然のようにIoTの仕組みが実装されるようになっている。テレビやエアコンといった家電製品はもとより、自動車や航空機、設備機器などもネットにつながって、リアルタイムにデータをやり取りすることが当たり前になった。

こうしたIoTの仕組みやシステムを使い、機器の操作や故障の検知などさまざまな価値が生み出されているわけだが、そこに新たな一面が加わろうとしている。それが「IoB」と略される、「行動のインターネット(Internet of Behavior)」の概念だ。

「行動(Behavior)」という言葉が示唆しているように、IoBは人間を対象としている。歩く、食べる、笑うなど人間のさまざまな行動や振る舞い(どちらも英語では“Behavior”だ)をIoT機器で把握・分析し、そこから知見を得る仕組みがIoBである。人間の身体(Body)に関する情報も収集することから、IoBは“Internet of Bodies”の略であるとの解説もある。

それでは具体的に、IoBではどうやって人間の行動を計測し、そこからどのような価値を生み出しているのだろうか。これらは切り離してしまうよりも、一緒に考えた方が理解しやすいため、具体例をいくつか挙げてみよう。

従業員に望ましい行動を促す

「行動のインターネット」という言葉を初めて公の場で使ったのは、心理学者のイエテ・ナイマンであるという説があり、実際に彼のブログで2012年にこの言葉を使っている。誰が生みの親であるかは別にして、IoBは早くから心理学と結びつき、人間の行動を把握すると同時にそれを(IoBプログラムの運営者にとって)望ましい方向に変えることを目的として行われるケースが多い。

IoBを「2021年の戦略的テクノロジーのトップ・トレンド」のひとつと位置付けている調査会社ガートナーは、IoBを解説した記事の中で、パンデミック対策として「センサーやRFIDタグを使って、従業員が定期的に手を洗っているかどうかを確認され、監視カメラの映像で従業員がマスクに関するルールを守っているかを判断し、違反者にはスピーカーで警告される」というIoBの事例を紹介した。

この例でIoBシステムが行っているのは、ある程度限定された行動の把握と対応だ。マスクの着用や手洗いの実施など、新型コロナウイルスの感染防止に有効とされる行動を従業員が取っているかどうかを確認し、取っていなければ警告するわけである。

とはいえこれらの行動の把握には、比較的高度なテクノロジーも活用されている。そのひとつが、AI(人工知能)による画像分析だ。ある人が手洗いしているかどうか、さらには手を流水に数秒かざして終わりではなく、石鹸をつけて正しい洗い方をしているかは、人間が見れば一目で分かるが、機械に判別させるのは難しかった。しかしAI技術が進歩したことで、静止画や動画の中に何が写っているかを一定の精度で把握することが可能になった。たとえば次の動画は富士通が自社技術を紹介しているものだが、どのような手洗いが行われているのか、詳しく判別できているのが分かる。

正しい手洗い動作を判定する映像認識AI技術を開発
こうした画像分析用のAIと、ネットワークに接続し、適切な場所に設置された一定数の防犯カメラがあれば、それだけでもIoBシステムを構築できるわけだ。もちろんそれが補足できる範囲は限定的だが、従業員の感染防止というのは決して小さな価値ではない。IoTで人間の行動を把握し、変化させるIoBがいかに大きな可能性を秘めているか、このシンプルな例からも分かるだろう。
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小林 啓倫

経営コンサルタント
1973年東京都生まれ、獨協大学外国語学部卒、筑波大学大学院修士課程修了。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米バブソン大学にてMBAを取得。その後外資系コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業などで活動。著書に『FinTechが変える!金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』(朝日新聞出版)、『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『ソーシャル物理学』(アレックス・ペントランド著、草思社)、『シンギュラリティ大学が教える 飛躍する方法』(サリム・イスマイル著、日経BP)など多数。

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