IoTのその先は?「行動のインターネット(IoB)」の可能性

スムーズな都市交通を実現する

もうひとつ、今度はずっと大きな規模の例を紹介しておこう。それはIoBを都市全体に応用するというアイデアだ。

人間が生み出すものの中で、もっとも複雑な存在と言えるのが都市である。人間は多くの他人との交流を繰り返しながら、その結果として巨大な都市を生み出す。そのため都市の機能を最適化するのは非常に難しく、さまざまな先端技術を駆使して「スマートシティ」を実現しようとする試みが各地で行われている。そうした試みで注目される技術のひとつがIoBというわけだ。

都市は人間の「行動」であふれており、その意味でIoBが都市の管理に応用されるのは必然と言えるが、中でも取り組みが進んでいるのが交通の分野である。

米国の3大自動車メーカーの一画を占めるフォードは、自社が出資する自動運転スタートアップのArgo AIと共同で、自動運転車両の開発を行っている。Argo AIは既に、カリフォルニア州の公道で一般客を乗せて走行する許可を取得しており、また今後米国の主要都市において、1000台を超える自動運転車両を投入する計画を発表している。

A Fourth-Generation Self-Driving Test Vehicle from Ford and Argo AI | Innovation | Ford
彼らの目標は、単に自動運転車両を完成させることではない。単体で安全に走行できる車両を開発するのは当然として、都市全体としてスムーズな交通を実現できるような自動運転システムを実現することを目指している。そのために彼らは、都市インフラから収集される交通量に関するデータや、歩行者や自転車等の軽車両の状況に関するデータ、また都市内を走行する各種車両が生成するデータを集めて、それに応じて自動運転車両の走行パターンを変えることを計画している。

たとえばArgo AIが、別のスタートアップであるRapid Flow Technologiesと共同で実施したパイロットプロジェクトでは、Rapid Flowが開発したセンサーを都市内の信号機に設置し、交差点に接近する車両や歩行者などのデータを収集した。そこにArgo AIの自動運転車両から得られるデータを組み合わせたものをAIがリアルタイムに分析し、交通の流れを最適化するために使用する予測モデルを生成。それに基づいて車両の動きを制御し、さらに信号機の切り替えタイミングを調整したところ、遅延時間を40パーセント削減できたそうである。

デジタル技術の急速な進化により、膨大な量のデータを収集し、それを瞬時に分析することが可能になりつつある。IoBが管理の対象とする規模も、社会全体へと広がってゆくことだろう。

どこまで普及するのか

このように、社会レベルで変化をもたらす可能性のあるIoBだが、いったいどのくらいのスピードで普及するのだろうか。IoBを戦略的テクノロジーと位置付けるガートナーは、2025年の末までに、世界人口の半数以上が少なくとも1つのIoBプログラム(それを実施するのが企業か政府かを問わず)の対象になると予測している。また同じく調査会社のIDCも、2025年までに、平均的な人間が何らかのIoTデバイスとのやり取りを行う頻度は、18秒間に1回になるだろうと予測している。もはや気づいていないだけで、これを読まれている皆さんも、何らかのIoBシステムにトラッキングされている可能性が高い。

しかし行動を把握されるというのはあまり良い気分はしない、というのが正直な反応ではないだろうか。いわゆる「ビッグ・ブラザー(ジョージ・オーウェルの小説『1984年』に登場する絶対的権力者)」的な監視・管理社会が到来するのではないかという不安を人々が抱えていることは、それをテーマとした数々のSF作品が作り続けられていることからも分かる。また意図的な管理でなくても、蓄積された個人情報が事件や事故で流出するのではないかという懸念もぬぐい切れない。そうした人間の直感的な反発が、IoB普及の上でハードルになると考えられる。

とはいえ、一定の理由から反感が和らぎ、それをきっかけとして人々がIoBに慣れていく可能性もある。その理由のひとつが、今回の新型コロナウイルスがもたらしたパンデミックだ。

HR TechサービスベンダーのKronosが実施し、2020年8月に発表されたアンケート調査結果によれば、回答者(企業の従業員)の約半数(世界全体で48%、米国で50%)が、雇用主が従業員のスケジュールに関する記録をトラッキングし、職場で新型コロナウイルス感染者が出た場合には濃厚接触者を特定するなど、感染の防止に向けた取り組みを行うことについて、「非常に」あるいは「かなりの程度」賛成であると答えている。雇用主による接触者の追跡に対して、まったく賛成しないと回答したのは、世界全体で14%だけだった。監視や管理に対する不安よりも、感染リスクに対する不安の方が上回っているわけである。

最初に紹介した、マスクや手洗いのチェックにIoBを活用するというアイデアであれば、それほど反感を抱かないという方が多いのではないだろうか。さらに、それによって感染症の拡大が抑制できたという実感が得られれば、IoB型の管理を行うことへの抵抗感が薄まる可能性が高い。もちろん、何らかの抑圧や差別を目的としたIoBシステムが社会に導入されることへの警戒をなくしてはいけないが、具体的なメリットの実現とセットでIoBの普及が進んでいくと考えられる。人口の半分がIoBと関わりを持つようになる2025年には、目に見える価値が私たちにもたらされていることを期待したい。
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小林 啓倫

経営コンサルタント
1973年東京都生まれ、獨協大学外国語学部卒、筑波大学大学院修士課程修了。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米バブソン大学にてMBAを取得。その後外資系コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業などで活動。著書に『FinTechが変える!金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』(朝日新聞出版)、『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『ソーシャル物理学』(アレックス・ペントランド著、草思社)、『シンギュラリティ大学が教える 飛躍する方法』(サリム・イスマイル著、日経BP)など多数。

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