現代社会における情報伝達のためのメディアは、紙からデジタル技術へとその中心を移しつつある。まさにこのi4Uもそのひとつだが、インターネットのようなデジタルメディアを通じて、さまざまな知識や情報を得ているという人が多いだろう。
その一方で、紙のメディアは低迷の一途をたどっている。たとえば日本新聞協会が公表しているデータによれば、日本国内における新聞の発行部数は、2001年には約5368万部だったものが21年には約3303万部と、20年間でおよそ4割も減少している。また1世帯当たりの部数で見ても、同期間で1.12から0.57へと減少しており、衰退傾向にあることがうかがえる。
このようなメガトレンドがある中で、多くの新聞社が経営不振に陥っている。日本を代表する新聞社のひとつである朝日新聞社は、2020年度の連結決算において、創業以来最大となる赤字を記録した。また同社と並ぶ大手である読売新聞社も、連結決算は公表していないものの、一部の試算で赤字に転落したと推察されている。同様の傾向は他の先進国でも見られ、多くの著名新聞社が苦境に立たされている。
そんな中、いわゆるDX、すなわち「デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation、デジタル技術を活用した経営改革)」を通じて経営の立て直しに成功した新聞社が注目を集めている。それは2013年にジェフ・ベゾスによって買収された、米国のワシントン・ポスト紙だ。
その一方で、紙のメディアは低迷の一途をたどっている。たとえば日本新聞協会が公表しているデータによれば、日本国内における新聞の発行部数は、2001年には約5368万部だったものが21年には約3303万部と、20年間でおよそ4割も減少している。また1世帯当たりの部数で見ても、同期間で1.12から0.57へと減少しており、衰退傾向にあることがうかがえる。
このようなメガトレンドがある中で、多くの新聞社が経営不振に陥っている。日本を代表する新聞社のひとつである朝日新聞社は、2020年度の連結決算において、創業以来最大となる赤字を記録した。また同社と並ぶ大手である読売新聞社も、連結決算は公表していないものの、一部の試算で赤字に転落したと推察されている。同様の傾向は他の先進国でも見られ、多くの著名新聞社が苦境に立たされている。
そんな中、いわゆるDX、すなわち「デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation、デジタル技術を活用した経営改革)」を通じて経営の立て直しに成功した新聞社が注目を集めている。それは2013年にジェフ・ベゾスによって買収された、米国のワシントン・ポスト紙だ。
ワシントン・ポストを救ったAmazon流DX
ジェフ・ベゾスと言えば、言わずと知れたAmazon.comの創業者で、フォーブスの世界長者番付において2018年から21年にかけて4年連続で第1位だったことでも知られている(ちなみに2022年にトップに立ったのはテスラCEOのイーロン・マスク)。彼はその資金力にものを言わせ、2013年8月、当時倒産の危機に直面していたワシントン・ポストを2億5000万ドル(約360億円)で買収した。
買収当初、ベゾスの行動に疑問を投げかける者もいた。確かに彼はAmazonを世界最大のオンラインコマース業者へと育て上げ、クラウド事業「AWS」のような派生ビジネスも大きく成功させている。しかしワシントン・ポストという新聞業界における老舗中の老舗を、おいそれと立て直すことなどできるだろうか──結論から言えば、この懸念はまったくの的外れだった。
CNNの報道によれば、ベゾスの買収からたった3年で、ワシントン・ポストのウェブサイトに流れ込むトラフィックは3倍に達している。そして2016年には黒字へと復帰し、CNNの調べでは、続く2017年、18年も黒字を続けていると見られる。つまりベゾスは立て直しに成功しただけでなく、ワシントン・ポストを成長軌道に乗せているのだ。
この奇跡的な復活劇の裏にあったのが、ベゾスによるワシントン・ポストのDXである。
彼は買収後にさらに5000万ドル(約72億円)を投じ、テクノロジー面での強化を遂行。それにより、エンジニアリング・チームの規模は3倍となり、デジタル版読者の顧客体験は大きく改善された。一方で編集業務には介入せず、編集者たちを守ることで記事のクオリティを維持する姿勢を示した。その結果、デジタル版の有料購読者数は150万人を超えるまでに至っており、この数も増加を続けていると見られる。
単純比較はできないが、日本の主要紙の中でいち早くデジタル版の展開に取り組んだ日本経済新聞でも、デジタル版有料会員数は2022年7月の時点で約83万人となっている。ワシントン・ポストが取り組んだDXの成果がいかに大きなものか分かるだろう。
買収当初、ベゾスの行動に疑問を投げかける者もいた。確かに彼はAmazonを世界最大のオンラインコマース業者へと育て上げ、クラウド事業「AWS」のような派生ビジネスも大きく成功させている。しかしワシントン・ポストという新聞業界における老舗中の老舗を、おいそれと立て直すことなどできるだろうか──結論から言えば、この懸念はまったくの的外れだった。
CNNの報道によれば、ベゾスの買収からたった3年で、ワシントン・ポストのウェブサイトに流れ込むトラフィックは3倍に達している。そして2016年には黒字へと復帰し、CNNの調べでは、続く2017年、18年も黒字を続けていると見られる。つまりベゾスは立て直しに成功しただけでなく、ワシントン・ポストを成長軌道に乗せているのだ。
この奇跡的な復活劇の裏にあったのが、ベゾスによるワシントン・ポストのDXである。
彼は買収後にさらに5000万ドル(約72億円)を投じ、テクノロジー面での強化を遂行。それにより、エンジニアリング・チームの規模は3倍となり、デジタル版読者の顧客体験は大きく改善された。一方で編集業務には介入せず、編集者たちを守ることで記事のクオリティを維持する姿勢を示した。その結果、デジタル版の有料購読者数は150万人を超えるまでに至っており、この数も増加を続けていると見られる。
単純比較はできないが、日本の主要紙の中でいち早くデジタル版の展開に取り組んだ日本経済新聞でも、デジタル版有料会員数は2022年7月の時点で約83万人となっている。ワシントン・ポストが取り組んだDXの成果がいかに大きなものか分かるだろう。
ベゾスがワシントン・ポストで推進したDXは、もうひとつ大きな成果を生み出している。それはワシントン・ポスト版のAWSとでも呼ぶべき「Arc XP」である。
小林 啓倫
経営コンサルタント
1973年東京都生まれ、獨協大学外国語学部卒、筑波大学大学院修士課程修了。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米バブソン大学にてMBAを取得。その後外資系コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業などで活動。著書に『FinTechが変える!金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』(朝日新聞出版)、『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『ソーシャル物理学』(アレックス・ペントランド著、草思社)、『シンギュラリティ大学が教える 飛躍する方法』(サリム・イスマイル著、日経BP)など多数。