ChatGPTの開発で知られるOpenAIで起こったサム・アルトマンCEOの解任と復帰を巡る騒動。そこで大きな争点となったと見られるのが「AGI（汎用人工知能）」だ。前編では、AGIの歴史と定義を紐解き、現在利用されているChatGPTなどのAIとの違いを紹介する。

2023年11月17日、衝撃的なニュースが世界を駆け巡った。リリースから1周年を迎えようとしていた話題の生成AI「ChatGPT」の開発企業、OpenAIにおいて、同社の顔として活躍してきたサム・アルトマンがCEOの座から電撃解任されたのである。その2日後の11月19日には、アルトマンのMicrosoft入社が決定したと報じられた。ところが急転直下、さらに2日後の21日には、同氏のOpenAI CEO復帰が発表されている。

このわずか4日間のお家騒動は、クーデターとも、関係者のスキャンダル隠しとも噂されたが、その中でひとつの説に注目が集まった。今回のアルトマンCEO解任の一因に、「AGI」を巡る意見対立があったのではないか、という憶測が流れたのである。

AGIとは「Artificial General Intelligence」の略で、直訳すれば「人工汎用知能」となるが、日本では「汎用人工知能」と訳されることも多い。それが何かは後ほど解説するとして、ここでは極めて優秀なAIのことを指していると考えていただきたい。ちなみにOpenAIの中でも、AGIはシンプルに「平均的な人間を上回るパフォーマンスを発揮できるAI」と定義されていたと報じられている。

性能という点では、ChatGPTも非常に優秀なAIだ。実際、発表直後から大きな注目を集め、リリース後およそ2カ月となる2023年1月にはアクティブユーザー数が1億人に達したと報じられている。ユーザー数が1億人を突破するまでには、Instagramで2年半（30カ月）、TikTokでも9カ月を要しており、これがいかに驚異的な速さか分かるだろう。AGIは、そんなChatGPTをも凌駕する超高性能AIというわけだ。その開発を巡り、考え方の深刻な相違があったことで、アルトマン解任という事態にまで至ってしまったのではないかというのである。

この説が正しいという証拠として、アルトマン解任の直前、OpenAIの研究者チームが同社の取締役会に「ある書簡」を送っていたことが挙げられている。ロイターの報道によれば、この書簡は「Q*（Qスター）」と呼ばれるプロジェクトに関するもので、研究者らはこのプロジェクトが開発しようとしている技術が「人類を脅かす可能性のある強力なAI」であるとして、取締役会に警告していたという。そしてその内容は、「ビジネス路線を走るアルトマン氏に対する取締役会の不満や懸念を反映」したものだったそうだ。

OpenAIはもともと、非営利のAI研究機関として立ち上げられた組織で、そのミッションを追求しようと考える人びとが（少なくとも今回のお家騒動以前には）社内に残っていたとされる。しかしChatGPTを実現したような最先端のAIモデルを開発するには、当然ながら莫大な費用がかかる。そこで近年、アルトマンCEOは「ビジネス路線」に舵を切り、Microsoftから巨額の出資を受けて同社との製品開発を模索するなどの活動を行ってきた。そうした路線は、AIのリスクを重視し、その研究や高度化、そして製品化には慎重に取り組むべきだという考えとは対立する。それが研究チームからの書簡で表面化して、アルトマンCEOを解任するという決断に至ったというわけだ。

ただ、会社経営は子供のお遊びでも、クラブ活動でもない。意見の対立があったからといって、いきなりクーデターまがいの解任騒動を起こしてしまうほど、AGIというのは特別な存在なのだろうか？

AGIとは何なのか