パラリンピックに見た「オレたちはすでに未来に生きている」感:アカザーの125cmからの目線だもんね!

どうもi4U読者の皆さん、はじめまして。車いすの編集者ことアカザーです。昨年まで週刊アスキーという雑誌で「カオスだもんね!」と「カオスだもんね!PLUS」という体験レポート漫画など担当していました。「カオス アカザー」あたりでググっていただけると出てくる、車いすに乗った目つきの悪いキャラがオレです。電子版単行本も出ているので、ついでにポチってもらえると漫画家のミズグチさんが喜びます。

え~、今回はi4Uの編集T氏から「i4Uのファンを増やしたいので、テクノロジーを軸に車いす視点をインクルージョンした記事をひとつ」とのリクエストをもらったので、テクノロジーをインクルージョンした記事となります(笑)。

ていうか真面目に説明すると、この連載は“ITガジェットや新しいテクノロジーにより豊かになるであろう、半歩先の未来への希望”を込めた意識高い感じのコラムです。あと、オレ自身が20年前に怪我で車いすになったオタクなので、その視点からの感じたコトも入れたいな、と。

というワケで記念すべき1回目は、この夏の話題だった「東京パラリンピック」です!

ドイツの義足ジャンパー、マルクス・レーム選手を知ってる?

東京オリンピックも連日仕事をサボって見まくっていたんですが、オレ自身が車いすというコトもあり、開催前からオリンピック以上に楽しみにしていたのが東京パラリンピックです。

中途障害で車いすになったあとも別段パッとしない自分なりに、パラアスリート達のまぶし過ぎる活躍に、その裏で費やしたであろう努力を垣間見て、尊敬の念と感動を抱かずにはいられませんでした。その結果、連日ウルウルになり原稿が遅れました! ええ、言いわけです(笑)。

日本のパラアスリート界をけん引してきた、車いすテニス国枝慎吾選手の金メダルをはじめ、国内選手の活躍に感動した数を挙げればきりがないのですが、このパラリンピックが始まる前からオレがワクワクしていたのが、ドイツの義足ジャンパー、マルクス・レーム選手が出場する走り幅跳びでした。
Markus Rehm - Leistungssport mit Prothese - Markus Rehm (2864)

マルクス・レーム選手
けっこうニュースにもなっていたので、ご存じの方も多いと思いますが、マルクス・レーム選手は陸上男子走り幅跳び(義足T64クラス)で、ロンドンとリオデジャネイロの2大会連続で金メダルを獲得している王者。しかし、オレがレーム選手に熱視線を注ぐいちばんの理由は、彼のジャンプが“パラスポーツはあくまで障がい者のリハビリで健常者のそれには遠く及ばない”という常識を覆した点であります!

今年6月のパラ欧州選手権でレーム選手が出した8メートル62センチという記録は、今回の東京オリンピックの金メダル記録8メートル41センチを21センチも上回っているんです。

やばくないですか! ていうか21センチも上回るって、チートにしても程があるやろ! でもそれが本当なら、義足のジャンパーがオリンピックで健常者の選手と競うところを見たい! とは思いませんか? 当然、思いますよね~。

それは当のレーム選手も同じで「私はパラリンピアンであることを誇りに思います。しかし、オリンピアンとパラリンピアンをもっと近づけたいとも考えています」とコメントしているように、リオオリンピック前からオリンピックへの出場許可を打診。もちろん今回の東京オリンピックにも出場を打診していたのですが……両オリンピックにレーム選手の姿はありませんでした。彼がオリンピックへの出場を拒まれた理由は「義足がテクニカルドーピングにあたる可能性がある」というものです。

「え~! オリンピック・パラリンピックのスローガンに多様性とか共生社会的なやつなかったっけ~!?」というオレの愚痴を吹き飛ばすかのように、レーム選手は「目標は東京パラリンピックで東京オリンピックの記録を超えること」とコメントし、国立競技場の舞台に立ったのでした。

テレビやネットでは金メダルを獲った5本目の8メートル12センチのジャンプが繰り返し流れましたが、オレの心に刻まれたのはラスト6本目のジャンプ!

雨が降る決してベストとは言えないコンデションのなか見せたラストジャンプ。まるで重力を無視したようなジャンプは、それを見た誰もが「東京オリンピックの金メダル記録8メートル41センチを超えた!」と思ったのではないでしょうか? 結果は惜しくもファウルでしたが、障害を持ったとしても諦めなければ、人間の限界はずっと先にあるというコトを現実に見せてくれたジャンプでした。

走り幅跳び専用のカーボン義足

そんな彼の超人的なジャンプを支えているのが、これまた人間の英知と努力の結晶のような走り幅跳び専用のカーボン義足。レーム選手が走り幅跳びを始めた頃はまだ陸上用の義足しかなく、彼自身が技師装具士の免許を取得し、ドイツのオットーボック社と共に開発したものです。

ちょうどオリンピック期間中に流れていた、グーグルのCMで“義足の板バネ ドイツ製”と検索していたのが、このオットーボック社の義足であります。

分からないことを、分かりたいから。|Google
オットーボック社の歴史は古く、1919年のベルリンで創業し、第一次大戦で負傷した軍人のための義足開発をスタート。パラリンピックへの参加は1988年のソウル大会から。最初はたった4人のスタッフだったテクニカルサポートも、東京大会では100人を超えました。オットーボック・ジャパンのブログによれば、東京パラリンピックでは1000件を超える用具の修理に対応したそうです。
オットーボック社のプレスリリース (2768)

リオ大会でのサポート風景

まるで攻殻機動隊⁉

私も車いすユーザーの端くれとしてその名は以前から知ってはいたのですが、OXエンジニアリング製車いすに人生を救われた経験が大きすぎて、オットーボック社の義足はノーチェック。今回、レーム選手の義足をきっかけに同社の義足を調べて驚きました!

なんとオットーボック社は1997年からコンピューター制御の義足「C-Leg」を発売していたんです。1995年に映画「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」が公開され、劇中に登場するサイボーグ化された人類の姿に、皆が数十年後の未来を思い描いていたわずか2年後に、そのSF的な未来はすでに始まっていたみたいです。

コンピューター制御の義足「C-Leg」は、以降進化を続け現在は4代目の「C-Leg4」というモデルが発売中。足、下腿、大腿などモジュール化した義足に内蔵された各種センサーやジャイロなどから100分の1秒ごとに取集した情報は制御チップに送られ、安定した歩行をサポートする仕組み。
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リアルライフ C-Leg4 Bailey
これにより不整地や階段の上り下りでも、歩行速度にかかわらず路面を追従することが可能になり、まるで自分の足のように友達と会話しながら街を歩いたりすることができるようです。しかもスマホと連携し各種歩行モードの切り替えやセッティングの微調整、バッテリー残量の確認までもが可能って、もうサイバー過ぎる未来が始まっているとしか!


しかし、驚くのはまだはやいです! さらにこの上をいく、まんま攻殻機動隊から出てきたような外見を持つハイエンドモデル「Genium X3」てのがあるんです~。
 (2770)

Genium X3 | Croatia adventure | review episode
紹介動画は完全にSF映画のワンシーン! CGやろこれ! みたいなレベルじゃないですか? ちなみに、Genium X3は完全防水防塵(IP68)で、海水でも水深3メートルまでなら60分間の活動が可能らしいのです。ていうか、この活動限界のスペック設定とかまんまSFでありそうなやつやん! なんて妄想が膨らんだところで、Genium X3の値段が770万円って聞いて、コレが現実であることを痛感しました(笑)。

と、熱くなりすぎてちょっと脱線しましたがオレが言いたいコトは、障害を持ってもテクノロジーがそれを補って余りあるものを与えてくれる未来が、もう既に始まっているというコトです!

「志があれば道は拓ける」と「オレたちはすでに未来に生きている」

レーム選手が金メダルを取る4日前の8月28日に、同パラリンピック男子走り幅跳び(義足T63クラス)に出場し、7メートル17センチの世界新記録で金メダルを獲った両足義足のヌタンド・マラング(南アフリカ)という選手がいます。
マラング選手は本来なら、義足T61という障害が重い両足義足のクラスですが、義足T63というクラスで、片足義足の選手に交じり競技を戦いました(たぶん義足T61クラスの出場選手が少なかったため)。その難易度がより高いクラスで、自身のもつT61クラスの世界記録を70センチも上回る跳躍をみせての金メダル! 限界を突破したロマンあり過ぎの胸熱展開がここにもあったんです! ちなみにマラング選手は本職の男子200m T61義足クラスでも金メダルを獲得しています。

そんなマラング選手は両足に障害を持って生まれ、10歳のときに「足を切断し義足をつければ歩くことができる」と言われて両足を切断する決断をしたそうです。その後、金メダルと獲得するまでの9年間は、想像を絶する努力をしたのは間違いないと思うのですが、彼の笑顔のジャンプを見た後にそんな話を聞くと、膝のサポートをしてもらってもヨロヨロと歩行器でしか歩くことしか出来ないオレは、不謹慎だとは思いつつも色々と妄想してしまうのです。

【再生医療】20年間車椅子だった編集者が再生医療で再び歩く!【アカザー自己紹介】 Regenerative medicine
オレも両足をGeniumX3を付け変えれば、すぐにでも自由に歩き回れちゃうかも~みたいな(笑)。なんてさらにググっていくと、「C-Brace」というコンピューター制御の長下肢装具を発見! ちょ、コイツがあればオレ歩けちゃうのでは!?的なかなり興味深いガジェットだったので、試しに使ってみたい! 使えるのかな? というかいくらなんだろうか? そもそも取材できるのかな? えーい、ごちゃごちゃ考えてもしかたない、後日取材を申し込んでみて、あらためて紹介したいと思います!
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いや~しかし、今回の東京パラリンピックからは「志があれば道は拓ける」というコトと、「オレたちはすでに未来に生きている」というコトに気付かされました。国を挙げてのお祭りが終わっちゃって少し寂しい気持ちはありますが、3年後のパリパラリンピックではどんな未来が現実になるのか? 今からワクテカな自分がいます。



著者プロフィール:
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赤澤賢一郎(あかざわ・けんいちろう):アカザーの愛称で週刊アスキーなどの編集者として活躍、現在は車いすのフリー編集者・ライター。2000年にスノーボード中の事故で脊髄を損傷(Th12-L1)し、以来車いすユーザーに。しかし、2018年に再生医療の治験を受け、2年間の歩行トレーニングを経て20年ぶりに歩き、クララの記録を更新!

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