PVだけ追う「指標ジャンキー」になってない?メディアは“身の丈運営”が大事:鵜の目「鷹木」の目

鷹木 創

Speciali4Uインターネットネットサービス

Yahoo!ニュースの影響力は大きいが……

ネットメディアのPVに関しては、「Yahoo!ニュース」への転載と、そこからの流入が重視されてきました。

メディアがYahoo!ニュースに記事を配信し、トップページに掲載される「トピックス」になると、配信元のメディアにYahoo!ニュース読者がかなり流入します。自社媒体だけだと10万PVぐらいだった記事が、Yahoo!ニュースからの流入で100万PVになるなど、かなりの影響力があります。

するとどうなるか。PVがほしい編集者は、Yahoo!に載ることばかり考えてしまうんですよね。

僕は2010年前後にITmediaで記者をしていましたが、Yahoo!ニュースからのトラフィックに目がくらんで、ITmediaの読者ではなくYahoo!ニュースの編集者が採り上げやすい記事を書こうとしていたことがあります。でもそのうち白けてきて、「俺は何のためにメディアをやっているんだっけ」と思うようになりました。テクノロジーが好きで記者をやっているはずなのに、ヤフーの編集者の方を向いて記事を書いてどうする、と。

Yahoo!ニュースに載ることによって、問題が起きることもあります。まず、ターゲットではない読者に届いてしまい、お門違いの批判をされること。ITmediaのような技術系専門媒体の読者層は本来、Yahoo!ニュースの読者よりも狭いはずなんです。でも、Yahoo!ニュースに載ってPVの下駄を履いちゃうと、ターゲットじゃない人が読んでしまい、「難しすぎる」とか「長い」とか、ネガティブコメントが付いたりするんですね。

その記事へのトラフィックが増えすぎて、メディア側のサーバが落ちることもあります。これは、ビューアブルインプレッションと逆の現象です。本来の読者層以外の人が見て、PVも増えますが、クレームも増えるみたいな状況は、僕が望んでいる状況とは違うなと感じるようになりました。

Yahoo!ニュースから配信元媒体にやってきて読者になる人もいるので、媒体の立ち上げ期に二次配信を頑張るのはアリだと思いますが、ネガティブ面を考慮して、二次配信をやめた専門媒体もあります。僕は「Engaget」の編集長をしている時、二次配信をやめましたが、PVにもそんなに影響がなくて、やめても問題なかったですね。

Google依存の恐ろしさ

Yahoo!ニュースだけでなく、Google検索やGoogle Discover(検索の一部に関連コンテンツが表示される機能)からの流入も、メディアのPVを支える生命線になっています。

ただ、Googleはしょっちゅうアルゴリズムを変えるので、対応がとても大変です。SEOで頑張って流入を増やしても、アルゴリズムが変わった瞬間に急に流入が激減してしまう。そういう“他人のふんどし”に振り回されると疲弊するんです。

SEOとかPVとかを追いかけるのは、一定程度はやるべきだと思うんですが、そこばかりだと、プラットフォーマーの変化に耐え切れず、気候変動に負ける恐竜みたいになっちゃう可能性があります。

増える会員制メディア

ではプラットフォーマーに左右されず、読者を定着させるために、メディアはどうすればいいのでしょうか。

今増えているのが、会員制のメディアです。Cookieと違って、メールアドレスなどのIDでユーザーを識別できるため、読者の数をより正確に把握できますし、メールマガジンなどからの流入も見込めます。会員を増やせば増やすほど媒体の力も増すというのは、一定の納得感があるかなと思います。

ただ今後、AIが普及していくと、また新たな指標が出てくる可能性もある、と思っています。

「指標ジャンキー」を超えた「身の丈戦略」

それを分かった上で、あえて「指標ジャンキー」になってそっちに寄せていくのも、1つのビジネスのやり方です。

ただメディアは一般的に、運営することで果たしたい目的、やりたいことが、指標とは別にあるはず。PVやUU、会員数という指標は、目的に向かうための間接的な指標でしかないはずなんです。だからこそ、適切な指標を慎重に考えて検討して決めていくべきです。

結局、コンテンツは「身の丈戦略」が大事だと思います。

「@IT」(アットマークアイティ)というテクノロジーサイトにかつて、Windowsに特化したチャンネルがありましたが、そのビジネスを見ていてそう思いました。

そのチャンネルは、PVだけで見ると非常に小規模だったんですが、Windowsの開発に関わっているエンジニアが読者としてたくさん集まっていました。マイクロソフトも自社製品の開発者が集まっていると知って、かなりの額のスポンサー料を支払っていたんですね。狭くても、適切なクライアントがいるところは、ビジネスとして成立するんです。

指標ジャンキーにならなくても、読者がロイヤリティを感じてくれるようなコンテンツを出して、その読者にクライアントが適切にコミュニケーションを取ることで、メディアも読者もクライアントも満足するかたちができる。

小さい媒体でも、やり方によってはビジネスになるし、編集部を養っていくぐらいのお金にはなると思っていて、これが僕なりのヘルシーな結論です。僕が運営するメディア「テクノエッジ」もそういう方向性でやっています。実現は簡単ではないですけどね。
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鷹木 創

編集主幹
2002年以来、編集記者や編集長などとしてメディアビジネスに携わる。インプレス、アイティメディアと転職し、2013年にEngadget日本版の編集長に就任。 その後スマートニュースに転職。国内トップクラスの機械学習を活用したアプリ開発会社においてビジネス開発として活躍。2021年からはフリーランスとして独立、IBM、Google などのオウンドメディアをサポートしている。

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