Twitter対抗SNS「Threads」の登場であらためて考えた「SNSって何のためにやるんだっけ?」

花森 リド

Specialインターネット使ってみた

SNSの地殻変動は、ある日突然やってくる

FacebookやInstagramを提供するメタが7月6日にスタートさせた新しいSNS「Threads(スレッズ)」は、たったの2日でユーザー数が7000万人に達したそうです(7月10日には1億人を突破)。私もその7000万人のうちの1人。ちょっと早めの夏休みってことで山奥のリゾートの温泉でデジタルデトックス……と思っていたら、ちょうど温泉宿に着いたタイミングで「Threadsすごいぞー!」みたいな連絡がドカドカと来てしまい、ウッカリ使い始めることに。デジタルデトックスもへったくれもない。だから私のThreadsへの第一印象は最悪ですよ、「メタのお手並み見せてもらおうじゃないの」みたいな少し意地悪な気持ちでアプリをインストールしました。

で、2日間を共に過ごしてみて「これは来月も再来月も使っているかもしれない」と思うようになりました。もっと言うなら、私はTwitterやInstagramと同じように、Threadsを自分のメインSNSとして使っていくかも。

思えば音声SNSのClubhouseも3DアバターがかわいいBondeeも決して嫌いではなかったし、むしろチャーミングだなと思うのですが、私の日常の一部にはなり得ませんでした。Clubhouseで「誰かの話をずっと聞く」のは私が毎日やりたいことじゃなかったし、Bondeeを使いこなす友達が私には少なかったからです。

これに対し、Threadsのコミュニケーションは文字と画像を使うので、Twitterと非常によく似ています。UIも似てる。つい「私が今いるのは、ThreadsだっけTwitterだっけ?」と迷うほど。だから「Twitterの仕様変更が最近激しいし、今後どうなっちゃうかわかんないし、別のSNSに避難するか」なんて困っている人にとって、Threadsはお引っ越し先の有力候補です。

それにThreadsでは、世界中の大手メディアの公式アカウントがすぐに出そろいました。日本音楽著作権協会(JASRAC)の利用許諾も取得済み。何よりすごみを感じさせるのはその堅牢さです。一気にユーザーが集まったのに動作が不安定になることもなく、ビクともしない。さすがSNS界の巨人、こなれてる〜!

さらにInstagramのアカウントからThreadsへの導線もなめらか。Threadsの投稿をInstagramのストーリーズへ転送するのも簡単。

そんなこんなで、7月8日時点のThreadsは、「Twitterからの避難民」と「Instagramからの越境民」と「とりあえず来た人」でごった返す、真新しい大通りのような状態です。

たったの2日で7000万人、5日で1億人も集まっちゃったのだから、これからどんどん変わっていくはず。でも「私がSNSに求めているのは何なのか」は、たぶんあんまり変わらないんです。

そもそもの話、およそ10年ものあいだTwitterとInstagramとFacebookをメインのSNSとして使い分けてきて、「SNSとは?」なんてこと、そんなに考えもしませんでした。なぜなら、使い分けて、どうにかなっちゃっていたから。でもこんな時代が永遠に続くとも思えない。

そんなカオスのなか、新しいメインSNSとしてのポテンシャルを秘めたThreadsの登場は、いろんな人にとって「自分の居場所」を確かめるきっかけになるかも……というのが、本稿のテーマです。

なお、Threadsの使い方については、マーク・ザッカーバーグが言ったという “Done is better than perfect.(意訳:たぶん動くと思うからリリースしようぜ)”にならって「たぶん、さわればどうにかなるぜ」とだけお伝えします。実際私もどうにかなってます!

Instagramに文章はいらない

私がThreadsを使い始めて最初にショックを受けたのは、「インスタ映え」なんて冷やかされても輝くことを決してやめないSNS界のオシャレ番長・Instagramに対して、自分が求めていたものが何だったのか露骨にわかっちゃったことです。オシャレ番長にはオシャレだけを求めてた!

そう、私はInstagramの90%の投稿を「ビジュアルの好み」だけで選んでいたのです。画像に添えられた文章まで一語一句キチンと読んでいたのは、親しい友達と、動物園(赤ちゃんカバの体重とかを教えてくれる)と、我が心のアイドルのブリトニー・スピアーズの投稿だけ。ほかは50文字も読んでない!

だからThreadsで人気インスタグラマーが長い文章を投稿し始めると、思わずThreads上でのフォローを外しました。こちらの都合で申し訳ないのですが、文章を読んで「こんな人だったんだ」なんてガッカリすることだけは絶対に避けたかった。愛しいインスタグラマーは、私にとってInstagramの中だけで輝く星。

ちなみに7月8日時点では、Threadsのサジェスト機能はまだまだ発展途上のようで、私が全く興味を持っていないアカウントもたくさん登場します。だから、朝でもないのに「おはよう」といったコメントと一緒に水着姿のお嬢さんがニッコリ微笑みかける画像が突発的に乱立することも。たぶんInstagramの特定の界隈では大人気なのでしょう。Instagramのアクティブユーザー数は10億人だそうなので、世界の広大さがうかがえます。

Twitterは「ツイート検索」がおもしろい、だが火種にもなる

長らくテキストSNSのトップランナーを張ってきたTwitterは、Threadsの猛追でその存在意義を問い直されるかもしれません。でも、現時点では「Twitterやーめた」なんて私は言うつもりはないです。Twitterがんばれ!

なぜなら災害や電車遅延といった「今」の話をちょっと知りたいときに、これ以上のSNSがほかにまだないから。昨今の仕様変更やAPIの制限で、公的機関が使う情報インフラとしての地位は危うくなりましたが、民草のささやき声に耳を澄ます空間としては、Twitterは今も健在だと感じます。

それに「昨日買ったコスメ、みんなも使ってるのかな?」ってツイート検索をするのが楽しいんですよ。「ナスが安かったけど、いい食べ方あるかな?」とかを調べるのも楽しい。無数の人たちが匿名で好き勝手におしゃべりしています。

Twitterでは「誰が発言しているか」よりも「何がどんなふうに言及されているか」が私にとって重要です。なぜなら、Twitterは自分がフォローしている人以外のツイートも目に入りやすいから。その弊害で「炎上」も見つけやすいし、わざわざツイート検索をしてまでケンカをふっかける辻斬りみたいなアカウントも増えました。Twitterが始まったばかりの十数年前と比べると、なんだかずいぶん、おっかない戦場になっちゃったなあ。

ちなみに、Threadsには、7月8日時点ではポスト(Twitterでいうところのツイートのようなもの)を検索する機能がありません。エゴサ大好き人間には厳しいSNSです。ただ、ポスト検索機能はやがて実装される予感がします。

ある言葉を「誰が言っているか」だけで味わうには、1億人がぺちゃぺちゃ喋る土俵は、あまりに巨大すぎるからです。たとえば、アイドルのドーム公演で5万人が集まっているときに、「キャー」と叫ぶファンの名前なんて誰も知りません。でも、そこがドームじゃなくて教室だと、「キャー」と言った人の顔がハッキリします。それと同じです。無数の人間が参加する空間がどういうものかを知るには、「何がどんなふうに言及されているか」に手がかりがあるはずです。で、人はそれを必ず、知りたくなるんです。

「Threadsは炎上しないから気が楽だ」という人もいますし、私もそう感じています。でもそれは、「ポスト検索」や「人気のポストを表示させる仕組み」、さらに「特定のポストをあえて表示させない仕組み」の登場前夜だからこその穏やかさなのかも……とも思います。このあたりのさじ加減と舵取りは、Threadsの“快適さ”や“清潔さ”の鍵となりそうです。

Facebookは義理

かつて、FacebookとInstagramを連携させるうえで、1つだけ悩みがありました。繊細なプライバシーコントロールを得意とするはずのFacebookなのに、Instagramからの投稿だけは、すべての友達にフル公開されていたのです(今年の7月に入ったあたりから「ユーザーが決めたデフォルトの公開範囲」でInstagramも共有されるよう、そっと修正されました!)。

「Facebookの友達は、友達ではない」が私の持論です。仕事で知り合った方も多いし、とはいえ学生時代の友人ともFacebookでつながっているから、たまにはInstagramも連携させておきたい。でも、ビーチでビキニ姿でイエーイみたいな私を、こないだ仕事で会った人にも堂々と見せるわけ? ……そんな義理と人情と友情と見栄がとぐろを巻くオトナのSNS、それが私にとってのFacebookです(とある日本の大企業では「社員同士のSNSのつながりは控えて」という不文律があるのだとか。そうしたい気持ちはよくわかる)。

そんなこんなで、FacebookとThreadsの棲み分けについては、私はまだ決めかねています。自分のThreadsも念のため非公開アカウントのまま。ただ、たとえ非公開だろうが誰かに読まれて困るものはどんなSNSにも投稿するべきではないし、「見たけりゃどうぞ。こちらも見たくないものはそっとミュートします!」という距離感で使うのが良さそうです。
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花森 リド

ライター・コラムニスト
主にゲーム、マンガ、書籍、映画、ガジェットに関する記事をよく書く。講談社「今日のおすすめ」、日経BP「日経トレンディネット」「日経クロステック(xTECH)」、「Engadget 日本版」、「映画秘宝」などで執筆。
X:@LidoHanamori

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