「きかんしゃトーマス」じゃダメなの?
まったく理解しがたい未知の存在と出合ったときに、どういう反応を示すかで、その人の心の器のサイズ感がわかるんじゃないかなあと私は思います。できれば大きくありたいが、実際に相対してみると両手を上げてウワ〜〜〜と逃げ出してしまうこともあります。
未就学児や小学生の子どもを持つ大人たちから立て続けに「いやあ、子どもが最近どハマりしちゃって……」と教えてもらった「イタリアンブレインロット」なるシリーズのキャラクターを初めて見たときの私の反応は、まさにウワ〜〜〜でした。
いや、だって、これですよ?
未就学児や小学生の子どもを持つ大人たちから立て続けに「いやあ、子どもが最近どハマりしちゃって……」と教えてもらった「イタリアンブレインロット」なるシリーズのキャラクターを初めて見たときの私の反応は、まさにウワ〜〜〜でした。
いや、だって、これですよ?

「トゥントゥントゥンサフール (Tung Tung Tung Sahur)」。「こんちわー!」みたいなポーズに腹が立ってくる ※筆者が生成AIで作成
きかんしゃトーマスじゃなくて、ほんとにこれがいいの!? にわかに信じがたく、保育園、小学高学年、そして中学生の息子をもつ親友に「あのさ、急にごめんなんだけど、トゥントゥントゥンサフールっていうの、知ってる? 好き?」と連絡すると「好きも何も、うちの5歳がどハマり中だよー」と即レス。マジだった!
さらにi4U編集主幹の鷹木創さんのお家でも爆発的に流行中だそうで、鷹木家のリビングルームでは、来る日も来る日も子どもたちが「トゥントゥントゥン……トゥントゥントゥン……」とつぶやいたり、「チンパンジーニ・バナニーニ!」と叫んだりしているそうです。語感が面白いのかもしれません。
さらにi4U編集主幹の鷹木創さんのお家でも爆発的に流行中だそうで、鷹木家のリビングルームでは、来る日も来る日も子どもたちが「トゥントゥントゥン……トゥントゥントゥン……」とつぶやいたり、「チンパンジーニ・バナニーニ!」と叫んだりしているそうです。語感が面白いのかもしれません。

鷹木家でその名が連呼されている「チンパンジーニ・バナニーニ (Chimpanzini Bananini)」。チンパンジーとバナナのハイブリッドだそう。ひねりがなさすぎる ※筆者が生成AIで作成
それにしても、一体これのどこがいいんだ。繰り返し問うが、きかんしゃトーマスじゃダメなのか。疑問は浮かび続けます。でも、きかんしゃトーマスが世界にデビューしたとき、コンサバな大人たちは度肝を抜かれたんじゃないでしょうか。だって機関車に人間の顔面がくっついていて、機関車同士が自然言語でコミュニケーションをとるんですよ。アンパンマンだって、ちいかわだって、よくよく考えたらアバンギャルドな姿と設定です。
そう、この世の誰かがトゥントゥントゥンサフールやジブラ・ズブラ・ジブラリーニを大好きならば、私は「そうなんですね」とシンプルにうなずけばいいだけの話、ともいえます。だって、自分のお気に入りのTシャツや、大切なお友達のことを、赤の他人から「ダサい」なんて言われたらとても悲しいですよね。
とはいえ、イタリアンブレインロットのキャラクターたちには、アバンギャルドやナンセンスでは片付けられない、独特の圧迫感と空疎さがあります。作者はどんな人なんだろう、一体何を食べて生活していたらこんな世界を作れるのだろう……と思ったら、なんと「作者は存在しない」のです。
そう、この世の誰かがトゥントゥントゥンサフールやジブラ・ズブラ・ジブラリーニを大好きならば、私は「そうなんですね」とシンプルにうなずけばいいだけの話、ともいえます。だって、自分のお気に入りのTシャツや、大切なお友達のことを、赤の他人から「ダサい」なんて言われたらとても悲しいですよね。
とはいえ、イタリアンブレインロットのキャラクターたちには、アバンギャルドやナンセンスでは片付けられない、独特の圧迫感と空疎さがあります。作者はどんな人なんだろう、一体何を食べて生活していたらこんな世界を作れるのだろう……と思ったら、なんと「作者は存在しない」のです。
生成AIで作っているから「版権」がない
イタリアンブレインロットとは、TikTok発の“脳が溶けるほど中毒性がある(=brainrot、ブレインロット)”タイプのネットミームです。生成AIで作られたヘンテコな動物がイタリア語っぽい名前を名乗り、ナンセンスな語りや歌を歌いまくる動画と、そのキャラクター群を指します。
ネットミームとは、お約束の「型」があり、そこから不特定多数の人がマネ&変形させて、どこまでも広がっていくインターネット上のネタのことをいいます。「型を守りながらマッシュアップしていくコンテンツ」という点のみでいうなら、俳句の季語や和歌の本歌取りとも似ています。もともと人間はそういうものが本能的に好きなのかもしれません。
で、イタリアンブレインロットならば「AI生成で作った動物と何かを合わせたキャラクター」で、「『〜ini/〜ella/〜oro』のような“イタリア語風”の名前」で、「早口・繰り返し、意味がないナレーションや言葉遊び」という型さえ守ればOK。そのキャラはめでたく、イタリアンブレインロットのネットミームの仲間入りです。
つまり「なんだか気持ち悪い」ことは、イタリアンブレインロットの条件ではないのです。そのことを理解していなかった私は「不気味なクセして、みんなちゃんと目玉は2つなのだな」と不思議に思っていました。どうして『エイリアン:アース』に出てくるような複眼の強烈なヤツとかがいないんだろう、と。なんのことはない「目玉が5つか7つほどある『動物』」はそもそもおらず、AIに生成させるとそういうものが出てこないからなんですよね。
「AとBを掛け合わせた画像を作って」といったオーダーは、生成AIの得意分野。誰でも作れます。なので2025年9月時点で130体以上のイタリアンブレインロットの仲間たちがいます。
その中でも特に人気なイタリアンブレインロットたちは、どんどんグッズ化され、当たり前のように市中で売られています。ショッピングモールに入っている小学生向けのグッズショップに行けば、キーホルダーやぬいぐるみをたくさん見つけられるはずです。
ネットミームとは、お約束の「型」があり、そこから不特定多数の人がマネ&変形させて、どこまでも広がっていくインターネット上のネタのことをいいます。「型を守りながらマッシュアップしていくコンテンツ」という点のみでいうなら、俳句の季語や和歌の本歌取りとも似ています。もともと人間はそういうものが本能的に好きなのかもしれません。
で、イタリアンブレインロットならば「AI生成で作った動物と何かを合わせたキャラクター」で、「『〜ini/〜ella/〜oro』のような“イタリア語風”の名前」で、「早口・繰り返し、意味がないナレーションや言葉遊び」という型さえ守ればOK。そのキャラはめでたく、イタリアンブレインロットのネットミームの仲間入りです。
つまり「なんだか気持ち悪い」ことは、イタリアンブレインロットの条件ではないのです。そのことを理解していなかった私は「不気味なクセして、みんなちゃんと目玉は2つなのだな」と不思議に思っていました。どうして『エイリアン:アース』に出てくるような複眼の強烈なヤツとかがいないんだろう、と。なんのことはない「目玉が5つか7つほどある『動物』」はそもそもおらず、AIに生成させるとそういうものが出てこないからなんですよね。
「AとBを掛け合わせた画像を作って」といったオーダーは、生成AIの得意分野。誰でも作れます。なので2025年9月時点で130体以上のイタリアンブレインロットの仲間たちがいます。
その中でも特に人気なイタリアンブレインロットたちは、どんどんグッズ化され、当たり前のように市中で売られています。ショッピングモールに入っている小学生向けのグッズショップに行けば、キーホルダーやぬいぐるみをたくさん見つけられるはずです。

「トララレロ・トラララ (Tralalero Tralala)」はトゥントゥントゥンサフール に次ぐ人気者だそうで、ゲームセンターの景品にもなっています ※筆者が生成AIで作成
ライセンス料が発生せず、版元からの許可やデザイナーによる監修もないままに作られるキャラクターグッズがこの世にこれほどあまた存在し、TikTokやYouTubeのショート動画でオリジナルソングが大量に作られ、そしてそれらが人気という状況に私は驚きます。しかし、令和のネットミームことイタリアンブレインロットはそんな話では収まりません。
なんと、イタリアンブレインロットの「実際には存在しないグッズ」の開封動画までYouTubeで出回っているのです。まあ、確かに開封動画にも「型」がありますもんね……。
なんと、イタリアンブレインロットの「実際には存在しないグッズ」の開封動画までYouTubeで出回っているのです。まあ、確かに開封動画にも「型」がありますもんね……。

花森 リド
ライター・コラムニスト
主にゲーム、マンガ、書籍、映画、ガジェットに関する記事をよく書く。講談社「今日のおすすめ」、日経BP「日経トレンディネット」「日経クロステック(xTECH)」、「Engadget 日本版」、「映画秘宝」などで執筆。
X:@LidoHanamori