産官学一体で“褒めて伸ばせ”! 日本の“サイバーセキュリティ”が集結した「GMOサイバーセキュリティ大会議&表彰式 2025」レポート

宮田 健

GMOインターネットグループセキュリティ

さまざまなパネルディスカッションを開催

GMOサイバーセキュリティ大会議では、企業のトップリーダーや現場の最前線にいる方を集めたパネルディスカッションが複数行われました。その様子も紹介しましょう。

経営者たちが語る「セキュリティ投資」の難しさ

トップリーダーズ・サミット パート1では「事業成長とセキュリティ投資のバランス」をテーマにパネルディスカッションが行われました。登壇したのは、LINEヤフー 代表取締役会長の川邊健太郎氏、ドリコム 代表取締役社長の内藤裕紀氏、dely 代表取締役CEOの堀江裕介氏。モデレーターは熊谷氏です。

熊谷氏はまず、企業におけるセキュリティ投資の難しさについて「政府は、サイバーセキュリティ投資を“企業価値向上のための投資”というが、企業にとってはコストでしかない。セキュリティ投資ほど難しいものはないというのが本音」と言及しました。

その上で、大前提として熊谷氏が一番大事だと思うのは「お客様と会社の情報や資産を守り、結果として企業のブランドを守ること」とし、「悪いのはもちろん犯人。そして、年間4万件もの脆弱性を生み出すベンダーにも責任がある」と述べ、現状を以下のようにまとめます。

1. 費用対効果が見えない(「漏らした、漏らしていないか」でしか評価できない……)
2. 投資をしても見えない=お客様に褒められない(「漏らさなくて当たり前」とされ、評価されにくい……)
3. いくら投資して良いかわからない(企業から見て「セキュリティ対策(投資)」はコストで、利益を出すことと相反する……)

熊谷氏の指摘に対し、川邊氏も同意しつつ「LINEヤフーはB2Cの企業なので、当然セキュリティは最も注力しなければならないところという認識」と述べ、「経費削減という時代になってしまったとしても、セキュリティが削られることはしたくない」と意気込みを語ります。

内藤氏は今回の登壇にあたり、事前に自社の情報システム部にも話を聞いたとのこと。自社がサイバーセキュリティ対策で何をやっているかを外部に公表することもリスクになり得る中、「社外の方も含めてガイドラインを策定し、『ここまでは必要、ここまでがベター』といった指針を作り、定期的に監査を受けるような形が必要ではないか」と述べます。

ベンチャー企業の立場として、堀江氏は「スタートアップであっても、エンタープライズ企業に導入してもらうには、一定のセキュリティ基準を満たすことが必須。そのためには、しっかりセキュリティ投資していることを相手に知ってもらうためのコミュニケーションが必要ではないか」と述べます。

さらに川邊氏はパネルディスカッションの直前に行われたGMO Cybersecurity Award 2025授賞式に触れ、「今回のようなアワードは本当に重要。世界的に見ても、セキュリティエンジニアの離職率は高い。さらに、セキュリティ以外の職種に転向してしまう人も多い。“やって当たり前”というきつい状況で、褒められない職種はそうなってしまう。GMOさんがこのように褒めることはすごいことだし、政府ももっと奨励して褒めるといい」と述べました。

議論の締めくくりとして、熊谷氏は次のようにまとめました。
「企業が“うちはちゃんとやっているよ”と示し、信頼につなげ、セキュリティ投資を“ポジティブなもの”として頭を切り替えることが重要。投資の可視化を進め、結果としてお客様からの信頼を獲得し、価値とブランド向上につなげる。これが経営者が考えるセキュリティ投資の非常に重要なポイントだ」

セキュリティ投資は“ポジティブなもの”として頭を切り替えることが重要と語る登壇者たち(左から熊谷氏、川邊氏、内藤氏、堀江氏)

“セキュリティ人財”をどう育てるか?

次のパネルディスカッションではGMO Cybersecurity Award 2025の受賞者を含め、「サイバーセキュリティ人財育成で日本の未来と企業を守る」をテーマに議論が行われました。
現在、セキュリティ人財が不足しているといわれる中、どのように育成していくべきか、登壇者が意見を交わしました。

企業を守り、日本を守るホワイトハッカーに求められる要素について園田氏は「セキュリティはある種の“オタク的な情熱”がないとなかなか追求できないもの。情熱を傾けられる人はそう多くはないかもしれない」と語ります。

そして「やはり、セキュリティを好きになってもらうこと。人は面白いと思うことに突き動かされるはず。だからこそ、セキュリティはこんなに面白いよ、ということを掲げてきた」とこれまでの取り組みを振り返りました。
篠田氏も、セキュリティ人財の不足は世界共通の課題だと指摘します。韓国では「ベスト・オブ・ザ・ベスト」という官民連携の取り組みがあり、9カ月で高度なセキュリティ人財を育てる取り組みが進められているとのことです。「このプロジェクトの背景には、人財をたくさん作るというよりも、“一騎当千の人財”を育てれば、組織や社会を救えるという考え方があるのかも」と述べました。

セキュリティ人財に関していえば、GMOインターネットグループは日本のホワイトハッカーが集結している組織で知られています。そのため人財の宝庫かと思いきや、それらを率いる同グループの牧田氏は「300人のセキュリティエンジニアが集まったが、今の方が忙しい」と述べます。

その理由として、スーパーハッカーは他の人財とは異なる評価が必要であり、集中できる時間を作るための下地も必要であると説明。

さらに牧田氏は「一般的な企業では減点方式での評価になりがちだが、セキュリティ人財は加点方式で評価した方がいい。好きなことに対しては誰にも負けない人財を、しっかり褒める。お客様が求めているものは、そうした才能と情熱だから」と述べます。
「褒める」ことの重要性に関連して、園田氏は野球監督の野村克也氏による次の言葉を引き合いに出しました。

「プロ野球選手に憧れてもらうには、目に見えてわかる“いい暮らし”が必要」

セキュリティ業界でも、わかりやすいコンペティションや表彰、「クールな人たちとコミュニティで育っていきたい、一緒にいたい」という原動力も重要だとの声も上がりました。

これを受けて、牧田氏は「子どもたちがユーチューバーに憧れるように、ホワイトハッカーに憧れる社会にしたい」と展望を述べると、登壇者全員が大きくうなづきました。

左からGMO Flatt Security 社外取締役 OWASP Japan 代表 上野宣氏、園田氏、篠田氏、牧田氏

「シートベルトをしないと気持ち悪いじゃないですか」——“たかぽん”こと堀江貴文氏と語るセキュリティの世界

GMOサイバーセキュリティ大会議では、多くのゲストが登壇しましたが、最も注目を集めたのは堀江貴文氏と熊谷氏の対談だったかもしれません。

ライブドアやオン・ザ・エッジなどで活躍し、「ホリエモン」の愛称で親しまれている堀江氏。旧知の仲である熊谷氏は、堀江氏を「たかぽん」と呼び、サイバーセキュリティに関する対談を行いました。

SNS media&consulting ファウンダー 堀江貴文氏

熊谷氏がセキュリティ投資の難しさについて本音を語ると、堀江氏は「(サイバーセキュリティは)自動車に乗るときのシートベルトみたいなものですよね」と切り出します。

タクシーでもシートベルトを必ずするという堀江氏は「これをしなければ事故の際に、死なないまでも重症で悲惨なことになる」と述べ「シートベルトをしないと気持ちが悪い。それが習慣になった」と続けます。

そして「例えばセキュリティ投資でも、事業のかなり早い段階からHTTPSやSSHなど暗号化したものじゃないと気持ち悪いという“習慣”にしてしまえばいいのでは」と持論を展開しました。

さらに堀江氏は、「クラウドサービスを徹底的に活用するべき」と推奨します。「私は顧客データを持たず、プラットフォーム側に任せている。セキュリティ対策を怠って得た利益は、本来の利益ではないくらいに思っている。経営者が内容を理解せずに投資するのも愚の骨頂。最低限、経営者もRSA暗号がどういうものかを知るくらいは理解してから、セキュリティ投資をするべきだ」と述べました。

セキュリティ投資に関する堀江氏の指摘に同意する熊谷氏

そして「私は過去、1年9カ月ほど“某所”にいたんですが」と会場の笑いを誘った堀江氏は、その当時に“悪い奴ら”と会話をし、気がついたことがあるという。「彼らは、次に悪いことをするなら東京ではやらない。監視カメラのない地方の田舎町でやる、というんです。監視カメラがあったり、SECOM(セコム)やALSOK(アルソック)のシールが貼ってあったりするだけでも犯罪に遭う確率が低くなる」と指摘。

熊谷氏は堀江氏の指摘に同意し、ネットの世界でも同じと述べます。GMOインターネットグループは、これまで提供してきた「GMOグローバルサイン」によるシールに加え、熊谷氏が発案したGMOサイバーセキュリティ byイエラエによるシール(サイバー攻撃対策済みサイトの証明)、そしてGMOブランドセキュリティのシール(なりすまし対策済みサイトの証明)を紹介しました。

堀江氏はこれを受けて「ちゃんとフリになりましたね」と笑いながら締めくくり、対談は和やかな雰囲気の中で終了しました。

今回のGMOサイバーセキュリティ大会議を通じて、事業成長とセキュリティ投資のバランス、人財育成の課題、そして社会全体での意識改革の重要性が改めて明らかになりました。
セキュリティ対策は、企業価値を守るための大切な投資です。今後、こうした議論がより多くの場で交わされ、具体的な取り組みへとつながっていくことが期待されます。
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宮田 健

ライター
2012年よりITセキュリティのフリーライターとして活動するかたわら、個人活動として“広義のディズニー”を取り上げるWebサイト「dpost.jp」を1996年ごろから運営中。テーマパークやキャラクターだけではない、オールディズニーが大好物。2020年、2022年には講談社「ディズニーファン」に短期連載も。
Webサイト:https://dpost.jp/
X:@dpostjp

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