2025年、企業におけるAI活用の成否を分けたものは何か

小林 啓倫

AISpecial
生成AIの登場から3年が経ち、AIはもはや先進企業だけの技術ではなくなった。かつて専門家やテック企業が利用者の中心だったAIが、今では多様な業種に広がり、業務のどこかで日常的に使われている。ただ「導入」から一歩進んで、「AI活用」で成果を上げている企業はどれほどあるのか?

米マッキンゼー・アンド・カンパニーが気になるレポートを発表している。「The state of  AI in 2025(2025年におけるAIの現状)」という、世界105カ国・1993名のビジネスリーダーへの調査をもとに、企業が直面するAI導入の実態と、AIが価値を生む条件を分析したものだ。これによると、世界の企業の88%が「少なくとも1つの業務領域でAIを定常的に利用している」と回答した。この数字だけを見ると、各国がAI導入の波に乗っているように映る。

しかしこの数字には別の現実がある。AI導入が進んでいるように見えても、実態は一部部署でのテスト導入が中心で、企業全体の利益に結びつく本格運用には至っていない。AIの可能性が語られる一方で、業務変革や収益改善につなげている企業はごく少数。「AIが話題になること」と「AIが価値を生むこと」の距離は依然大きい。

このレポートで示される「AIハイパフォーマー」の行動様式は、今後のAI活用を考える上での示唆に富む。本稿ではこのレポートを手がかりに、2025年時点のAI活用の実情と成功要因を見ていく。

AI導入の多くは「実験・試行」にとどまる

AI活用が広がっているように見えても、それが企業の成熟度を示すわけではない。AIを使っていると答えた企業の約3分の2は、いまだ「実験」や「パイロット段階」にあり、全社展開には至っていない日常的にAIを使う場面があっても、その多くは限定的な導入であり、企業の中核プロセスには深く入り込めていない。

この「導入の壁」には、いくつもの要因がある。多くの企業は効率化を目的にAIを導入するが、効率化は業務フローや組織構造を大きく変える必要がないため、AIの価値が限定されやすい。また、IT部門に導入を任せきりにするケースも少なくない。しかし、本格的なAI活用は業務の再設計を伴うため、経営陣や事業部門の関与が欠かせない。現場任せのままでは、成功に必要な行動すら取りにくい。

調査では、企業規模によってAI活用の成熟度に差があることも示されている。年間売上50億ドル以上の大企業では、AIを全社展開できている企業が約半数に達する一方、1億ドル未満の企業では29%にとどまる。リソース、人材、データ基盤の差が進度を左右している。

急伸する「AIエージェント」だが、本格導入はまだ少ない

AI導入の質的変化として、今年特に注目されたのが「AIエージェント」だ。従来のAIが単一の回答を返すのに対し、エージェントは目的を理解し、自ら複数のステップを計画・実行する自律型AIを指す。企業にとっては業務の一部を丸ごと任せられる可能性があり、生産性を大きく変える技術として期待されている。

しかし導入状況を見ると、AIエージェントはまだ黎明期にある。調査では23%の企業が社内展開を始めているものの、多くは一部部署に限られる。業務領域別でも展開率は各領域で10%未満だ。IT部門や知識管理で活用が進んでいるが、これはAIが適応しやすい領域のためで、エージェントを全社へ広げるにはワークフローの高度な再設計が欠かせない。

それでもAIエージェントへの期待は大きく、多くの企業が既に探索段階に入っている。調査では、実験段階の企業が39%に上り、導入意欲の高さがうかがえる。AIが情報処理ツールから、自律的に業務を遂行する「同僚」へと変化しつつある現場の感覚が表れている。

AIは利益を生んでいるのか──「イノベーション効果」が先にくる

では、AI導入は企業の利益にどれほど寄与しているのか。結論からいえば、まだ明確な効果が出ているとは言い難い。調査では、企業全体のEBIT(利払い前・税引き前利益)に「AIが何らかの影響を与えている」と答えた企業は39%に過ぎず、その大半は「影響は5%未満」としている。収益へ大きく作用するには、時間と組織的な準備が依然必要だ。

一方、AIが企業文化や業務品質に与える影響はすでに表れている。調査では64%が「イノベーションが向上した」と回答し、従業員満足や顧客満足の向上を挙げる企業も多い。AIがまず生み出す価値は、コスト削減や利益増大ではなく、創造性や競争力の上流部分だ。短期的な収益効果は限定的でも、長期的には企業の差別化や競争力に大きく寄与しうる。

ソフトウェアエンジニアリングや製造、IT領域ではコスト削減の報告が多く、過去12カ月で20%以上の削減例もある。AIが成熟しやすい領域では効果が表れやすいことを示す結果であり、AI導入の価値は業務領域によって大きく異なる。
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小林 啓倫

経営コンサルタント
1973年東京都生まれ、獨協大学外国語学部卒、筑波大学大学院修士課程修了。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米バブソン大学にてMBAを取得。その後外資系コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業などで活動。著書に『FinTechが変える!金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』(朝日新聞出版)、『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『ソーシャル物理学』(アレックス・ペントランド著、草思社)、『シンギュラリティ大学が教える 飛躍する方法』(サリム・イスマイル著、日経BP)など多数。

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