CES 2026で“歩み出した”ロボットの未来──工場を変えるHyundaiのAtlasは、人の仕事をどう再定義するのか

土江錠

AISpecialイベントテクノロジー
2026年1月5日、コンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)開催中のラスベガス・マンダレイベイ・コンベンションセンター。満席の会場に衝撃が走りました。

「ラボから出て、初めて公の場に姿を現すAtlasを拍手でお迎えください」

韓国・Hyundai Motor Group傘下でロボットを開発するBoston Dynamicsの副社長兼Atlas部門ゼネラルマネジャー、Zachary Jackowski氏がそう告げると、ステージ上に奇妙な格好で横たわっていた人型の機械がゆっくりと起き上がりました。

「CES 2026」メディアデー | Hyundai Japan
身長は約1.9メートル、成人男性とほぼ同じです。2本の脚で立ち上がり、数分間にわたってステージを歩き回りつつ、時折、観客に向かって手を振り、フクロウのように首を回転させました。

誰もがスマートフォンを構えて壇上を撮影する会場は、まるでフェスのような熱気に包まれ、写真や動画が瞬く間にSNSを駆け巡りました。

これまでBoston Dynamicsは、動画でバク転、パルクール、箱の上でのジャンプといったAtlasのパフォーマンスを披露してきました。そして今回は、このプロトタイプのAtlasが観客の目の前で歩き、しゃがみ、棚から物を取ったり収めたりするような動作をスムーズに見せています。デモの最後、Atlasが両腕を大きく広げてステージの上手側を指し示すと、そこには量産モデルの青い新型Atlasが静かにたたずんでいました。

「これは我々が今まで作った中で最高のロボットです」

壇上に現れたBoston Dynamics CEOのRobert Playter氏は、新型Atlasをそう紹介しました。

新たに発表された量産モデルのAtlas

「人と働くパートナー」へ──Hyundaiが描くAIロボティクス戦略

Atlasを開発したBoston Dynamicsは、2021年からHyundai Motor Groupの傘下にあります。Googleによる買収、ソフトバンクグループへの売却、そしてHyundaiへ。評価額約11億ドル(株式の80%を約8億8000万ドルで取得)という取引を経て、この数奇な運命をたどったロボット企業は、ついに「量産」という新たなステージに立ちました。この量産化は自動車レベルのサプライチェーンの活用や、油圧システムではなく完全電動システムを採用した設計変更などによって実現に近づいています。

Hyundaiが今回のCESで掲げたテーマは「Partnering Human Progress」──人類の進歩とともに歩む、です。これは単なるマーケティングスローガンではなく、自動車メーカーがロボット企業を買収した理由が凝縮されています。

「ロボットは人間と競争しない。人の安全・効率・幸福のために協働する」

これがHyundaiのロボティクス哲学だといいます。Atlasは人間を置き換えるためではなく、人間を支援し、安全性と効率を高める「同僚」つまり「協働ロボット」として位置づけられています。

重要なのは、Atlasが汎用ヒューマノイドとして設計されている点です。さまざまな既存の工場環境に、特定の作業に限定せずにそのまま導入でき、業務の変化にも柔軟に対応できます。

従来の産業用ロボットは、特定のタスク専用に設計されていました。ラインが変われば、ロボットも入れ替えなければなりません。しかしAtlasは違います。人間と同じ作業空間で、人間と同じ道具を使い、必要に応じて異なるタスクをこなします。標準的な110Vまたは220Vの電源で動作。人間が近づくと自動的に一時停止する安全システムも搭載されており、安全柵なしで人間と同じ空間で作業できるよう設計されています。

Hyundaiのビジョンは明確です。危険な作業、重労働、単調な繰り返し作業をロボットが担い、人間はより創造的で付加価値の高い仕事に集中する。そしてロボットが工場データを学習し、より賢く安全に稼働することで、より良い職場を生み出す、という好循環を目指しています。

さらに注目すべきは「Software-Defined Factory(SDF)」という概念です。従来の工場は、特定の製品を作るために設計された「ハードウェア中心」の施設でした。しかしSDFでは、ソフトウェアが工場の機能を定義します。ロボットは新しいタスクを学習し、その学習結果は、Boston Dynamicsが提供するOrbitプラットフォームを通じて全ロボットに即座に共有されます。つまり、1台のAtlasが覚えた作業は、世界中のAtlasが同時に実行できるようになるのです。

1台の学習結果が即、全ロボットに共有される

Atlasの“知性”と“身体”──人間を超える設計思想

CES 2026でのもう1つの大きな発表は、Boston DynamicsとGoogle DeepMindとのパートナーシップでした。

前述したようにBoston Dynamicsは2013年にGoogleに買収され、その後売却された経緯があります。今回の提携は、そのGoogleのAI研究部門であるDeepMindが、Atlasに「知性」を与えるために戻ってきたともいえるような、ちょっと感慨深い再会となりました。

従来のロボットは、プログラムされた動作を正確に繰り返すことは得意ですが、人間のように「考えて動く」ことは苦手でした。棚の位置が数センチずれただけで、物をつかめなくなります。予期せぬ障害物があると、立ち往生してしまいます。

DeepMindのGeminiベースのAI基盤モデルは、この限界を突破しようとしています。Atlasに搭載されるAIは、環境を「知覚」し、「推論」し、「判断」します。棚の位置がずれていれば、自ら調整します。障害物があれば、迂回(うかい)ルートを計算します。そして何より、失敗から学びます。

「Physical AI(物理的AI)」と呼ばれるこのテクノロジーが示唆するのは、AIが画面の中だけでなく、物理世界で身体を持って行動する時代の到来です。

人型に縛られない、人間を超える身体

Atlasの設計思想で特筆すべきは、「人型でありながら、人型であることに縛られてはいない」という点です。

「私たちはロボット開発を長年続けてきて、自然をただコピーするだけでは不十分だと学びました」とJackowski氏は語ります。

「自然の良いところを取り入れつつ、それを超えることもできるのです」(Jackowski氏)

確かに、見た目は人間に似ているAtlasですが、その動きは人間の限界を超えています。関節は360度回転可能で、人間には不可能な角度で動作します。狭いスペースでの作業、背面への手の回し込み、頭上への長時間リーチ──人間工学的な制約を超えた効率的な動作が可能になっているのです。上半身を180度回転させることも可能で、両脚の軸は回転させずに持ち上げた箱を背後の棚に置くといった動作もできます。

工場での作業を前提に設計されている

CES会場をざわつかせたのも、スムーズでありながら人間離れしたこうした動作によるものだったのかもしれません。

Atlasの公開されているスペックは以下の通りです。
CESのデモでは、エンジニアがVRヘッドセットを装着してリモートで操縦していましたが、実際の運用では完全自律動作が基本です。自律モード、VRヘッドセットによる遠隔操作(テレオペレーション)、タブレット操作の3つのモードを切り替え可能で、状況に応じて柔軟に運用できます。
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土江錠

ガジェットのほか、各種AIや先端技術を追いかけるテックウォッチャー。
ゲームと食べ歩きも少し詳しい。

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