北京ロボットハーフマラソン──表彰台を独占したHonor社の野望

土江錠

AISpecialテクノロジー
2026年3月、スペイン・バルセロナのMWC(モバイル・ワールド・コングレス)2026。世界最大級のモバイル業界の見本市で、1台のヒューマノイドロボットがムーンウォークを披露し、会場を沸かせました。発表元は中国のスマートフォンメーカー、Honorです。

MWC2026でムーンウォークを披露するHonorのロボット

同社が同時に発表した、世界初のAIと3軸ジンバルカメラを融合したスマホ「Robot Phone(ロボットフォン)」もそれなりに話題にはなりましたが、ニュースの中心はあくまで「スマホメーカーがロボットを発表した」という点でした。

Honorは同イベントで、AIスマホ、AIアプリストア、ヒューマノイドロボットの3領域を束ねる戦略「Alpha Plan」を発表。同社CEOのJames Li氏はこう語っています。

「Alpha Planという3つの波によって、必要なピースはすべてそろいました。私たちはこの取り組みを全速力で進めていきます」(James Li氏)

そして翌月の4月19日。再び世界がHonorに注目することになりました。

中国・北京の経済技術開発区、E-townで開催された第2回ロボットハーフマラソン。1万2000人の人間ランナーに並走するかたちで、300台を超えるヒューマノイドロボットが一斉にスタートを切りました。

この大会でHonorの「閃電(Lightning)」が50分26秒を記録。人間のハーフマラソン世界記録を約7分上回り、1位から3位までをすべて「閃電」が独占するという圧倒的な結果を残しました。

2026年、北京で開かれたロボットハーフマラソンではHonorのロボットが表彰台を独占した

低価格スマホブランドからAI企業へ

スマホメーカーが自社ブランドのヒューマノイドロボットを発表する──この光景の背後には、世界的スマホメーカーHuawei Technologies(華為技術)の一部門から独立したHonorの生存戦略と、100億ドルのAI投資計画がありました。

HonorはもともとHuaweiの低価格ブランドとして、2013年に誕生しました。

しかし2020年11月、Huaweiが米国から受けた規制の影響で、Honorの全事業をコンソーシアムShenzhen Zhixin New Information Technology(深圳市智信新信息技術有限公司)に売却する形で独立させます。

独立後、Honorは低価格路線を捨てました。プレミアムスマホと折りたたみ端末に軸足を移し、急速にポジションを確立。そして2025年3月のMWC 2025において、5年間で100億ドルをAIに投資すると発表し、「スマホメーカー」から「AI企業」への転換を宣言します。

「Alpha Plan」は「スマホ」「マーケットプレイス」「研究所」の3本柱

MWC 2026で発表されたHonorのAI・ロボット戦略「Alpha Plan」は、3つの柱で構成されています。

第1の柱「Alpha Phone」は、AI統合型の次世代スマートフォン。前述したようにMWC 2026ではアーム付き「Robot Phone」のコンセプトモデルが公開されました。200メガピクセルカメラを搭載したジンバル式アームがスマホから伸びる──スマホそのものをロボット化する、挑戦的な設計です。

Honorの「Robot Phone」コンセプトモデル

第2の柱「Alpha Store」は、AIアプリのエコシステム。第3の柱「Alpha Lab」は、ヒューマノイドロボットを含む「フィジカルAI」の研究拠点です。

Li氏が掲げる「Augmented Human Intelligence(AHI:拡張人間知能)」は、IQとEQの2軸でAIを発展させるという思想です。デジタルと物理の両面でAIを展開するこの構想で、ヒューマノイドロボットはその物理側の最前線に位置づけられています。

「ドタバタ劇」から「人類超え」へ──1年で起きたこと

閃電の記録がいかに偉大かを理解するには、1年前を振り返る必要があります。

ロボットハーフマラソン大会では自律走行と遠隔操縦の両方が認められており、自律走行に高い配点を置く加重採点制が採られています。完走可否、タイム、自律性の3つが評価軸です。

2025年4月の第1回大会では、参加21体のうち完走はわずか6体。優勝タイムは2時間40分42秒でした。転倒、壁への激突、逆走が続出し、SNSには「ドタバタ劇」との投稿があふれました。

それが1年後──参加は300台超、100チーム以上に膨れ上がり、優勝タイムは3分の1以下に。完走率も29%から46%へと増加しています。その中でHonorのロボットは、1位(50分26秒)、2位(51分台)、3位(53分台)を独占しました。

ハーフマラソンのコースを駆け抜けるHonorのロボット

人間のハーフマラソン世界記録は57分20秒(ヤコブ・キプリモ、2026年3月・リスボン)。Honorのロボット3体すべてが、人間の限界を超えたことになります。
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土江錠

ガジェットのほか、各種AIや先端技術を追いかけるテックウォッチャー。
ゲームと食べ歩きも少し詳しい。

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