AIエージェント格差社会の到来 ——経済力×スキルが決める「新たなヒエラルキー」

小林 啓倫

AISpecialテクノロジー
AIは日常に浸透しつつある。多くはウェブサイトのチャットボットやスマートフォンのアシスタントなど、ユーザーの指示を待って反応する「アシスタント」だ。厳格に命令に従う反応型ツールであり、本質的には受動的な存在だ 。しかし今、その常識を覆す存在が広がり始めた。ユーザーが示したゴールに向けて自律的に考え、行動できるアプリケーション、「AIエージェント」だ。

ただ、AIエージェントの普及は、すべての人に平等な恩恵をもたらすとは限らない。むしろ新たな格差を生み出す可能性がある。私たちの助けになるはずのAIエージェントが、なぜ格差の要因となり得るのだろうか。

AIエージェントが生み出す新たな格差(筆者がWhiskで生成)

目的を達成するために自律的に動く「AIエージェント」

「今日の会議資料を作って」「競合他社の最新動向を調べて」「このコードのバグを修正して」――こうした指示を与えるだけで、自律的に考え、判断し、目標やタスクを完遂することができるアプリケーション。それがAIエージェントだ。

従来のチャットボットとは根本的に異なり、環境を認識し、複数のステップを計画して実行し、外部システムと連携しながら複雑な作業をこなせる。

AIエージェントの仕組みを、人間の体に例えて説明してみよう。それは大きく分けて「頭脳」と「体」から構成される。

AIエージェントの中核をなす「頭脳」は、OpenAIのGPTシリーズやAnthropicのClaudeといったLLM(Large Language Model:大規模言語モデル)で、自然言語を理解し、複雑な指示を解釈して推論や計画を担う。

一方、その計画を実行に移す「体」は、ウェブ検索やデータベースへのアクセス、メール操作などを可能にする外部ツール群だ。

この頭脳と身体が巧みに連携することで、AIエージェントはデジタル空間や現実世界に働きかけ、さまざまなタスクを自律的に遂行する。

つまりAIエージェントの革新性は、LLMという「頭脳」そのものにはない。頭脳を駆使して自ら計画を立て、体が外部ツールを活用し、試行錯誤しながら自己修正するという一連のプロセスを自律的に統括できる点にある。この能力によって、AIエージェントは単なる情報処理装置から、目的達成のために能動的に行動するアプリケーションへと進化したのだ。

2025年、AIエージェントは急速に実用段階に入ろうとしている。IT系調査会社のGartnerは2025年を「エージェンティックAI(エージェント型AI)の年」とし、2026年までに企業アプリの40%がタスク特化型エージェントを搭載すると予測する。市場拡大も続き、一部予測では2024年の51億ドルから2030年に471億ドルに達する見込みだ。

生成AIが広げた「キャリア格差」

AIエージェントはさまざまなタスクを自律的にこなす。使いこなせる人ほど恩恵が大きく、使えない人との間で生産性の差が開く。

生成AIの導入では、既に職場で活用できる人とできない人の間に差が広がっている。

コンサルティングファームのボストンコンサルティンググループ(以下、BCG)の調査によれば、経営層や管理職の4分の3以上は週に複数回生成AIツールを使う一方、現場では半数近くが未利用だ。こうした格差はAIエージェント時代にさらに拡大し、生産性やキャリアの差につながる。

ある調査では、GitHub Copilotを使った開発者チームは、未利用のチームよりタスク完了が55%も速かったと報告されている。文章作成や顧客対応でも生成AIで業務スピードと質が向上し、あるコールセンターでは生産性が平均14%上がり、特に未経験者の成長が顕著だった。反対にAIを使えない人は手作業で時間を浪費し、成果物の質でも不利になりかねない。こうした差は、積み重ねればキャリアや収入面で大きな隔たりとなり得る。

これらの事例が浮き彫りにするのは、AIエージェントを活用できる個人とそうでない個人の間に、明確な差が生まれつつあるという現実だ。速度、コスト、品質、顧客満足度のあらゆる面で、AIエージェントの支援を享受できない従業員は競争力を失っていく。

ただし、AIエージェントが普及してもその恩恵は均等ではない。優秀なAIエージェントであるほど費用がかかり、使いこなすためには新たなスキルがいるだろう。導入資金と学習機会を確保できる人や組織ほど先に成果を出し、そうでない側との格差は広がる。
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小林 啓倫

経営コンサルタント
1973年東京都生まれ、獨協大学外国語学部卒、筑波大学大学院修士課程修了。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米バブソン大学にてMBAを取得。その後外資系コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業などで活動。著書に『FinTechが変える!金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』(朝日新聞出版)、『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『ソーシャル物理学』(アレックス・ペントランド著、草思社)、『シンギュラリティ大学が教える 飛躍する方法』(サリム・イスマイル著、日経BP)など多数。

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