AI同士が行う代理戦争
前述の通り、これからAIエージェントは大きく普及すると予測され、同時に格差も広がるはずだ。高度なエージェントほど価格は高騰し、「とりあえずAIエージェントを使える」だけでは十分ではない。肝心なのは、どれだけ優秀なAIエージェントを使えるかだ。
実際、AIエージェントの利用コストには既に大きな開きがある。小規模なもので月額33ドル程度に収まる一方、大規模向けの高度なAIエージェントは月額5万ドル以上に達する。こうした価格差が、経済力による利用環境の格差を直接生んでいる。
そしてこの価格差は、簡単に埋まるものではない。背景にはAIエージェントの「頭脳」にあたるLLMの利用料がある。
複雑な推論や長い計画立案を行うほど消費するトークン量が増大し、コストは青天井に膨らむ。またモデルが新しいほど単価は高い。LLMの開発企業はこの利用料を収益源としているため、より高度なモデルを発表し続けて売り上げを維持しようとするからだ。そして経済力を持つ個人や組織ほど最新モデルに高い利用料を払い続けるため、競争で優位に立つ構図が生まれる。
さらに高性能なモデルは、ユーザーの経済的な利益・損失に直結することが各種調査によって明らかになっている。
マサチューセッツ工科大学やトロント大学、ならびにGoogleのAI研究部隊として知られるDeepMindなどの研究チームが行った実験では、性能の低いAIエージェント(古いバージョンのLLMを実装したエージェント)が、高性能なAIエージェント(優秀なLLMを「頭脳」として実装したエージェント)に「説得」されたり、予算上限のような秘密情報を漏らし、高値で商品を買わされる事例が確認された。さらにユーザーが結果をチェックせずに、仕事をAIエージェントに任せきりにすれば、損失が積み重なるリスクさえあるという。
実際、AIエージェントの利用コストには既に大きな開きがある。小規模なもので月額33ドル程度に収まる一方、大規模向けの高度なAIエージェントは月額5万ドル以上に達する。こうした価格差が、経済力による利用環境の格差を直接生んでいる。
そしてこの価格差は、簡単に埋まるものではない。背景にはAIエージェントの「頭脳」にあたるLLMの利用料がある。
複雑な推論や長い計画立案を行うほど消費するトークン量が増大し、コストは青天井に膨らむ。またモデルが新しいほど単価は高い。LLMの開発企業はこの利用料を収益源としているため、より高度なモデルを発表し続けて売り上げを維持しようとするからだ。そして経済力を持つ個人や組織ほど最新モデルに高い利用料を払い続けるため、競争で優位に立つ構図が生まれる。
さらに高性能なモデルは、ユーザーの経済的な利益・損失に直結することが各種調査によって明らかになっている。
マサチューセッツ工科大学やトロント大学、ならびにGoogleのAI研究部隊として知られるDeepMindなどの研究チームが行った実験では、性能の低いAIエージェント(古いバージョンのLLMを実装したエージェント)が、高性能なAIエージェント(優秀なLLMを「頭脳」として実装したエージェント)に「説得」されたり、予算上限のような秘密情報を漏らし、高値で商品を買わされる事例が確認された。さらにユーザーが結果をチェックせずに、仕事をAIエージェントに任せきりにすれば、損失が積み重なるリスクさえあるという。
AIエージェント時代に「不可欠なスキル」とは?
AIエージェントが進化を続ければ、実行できるタスクの種類や難易度も拡大する。複雑なタスクを正しく実行させるには、人間の側にも一定のスキルが求められる。
IBMは公式ブログ上で、従業員がそれぞれの業務において、どうすればAIを最適な形で活用できるかどうかを判断できるようにならなければならないと指摘している。そしてAIが正しく活用されれば、それは人間を補完する存在になるが、間違った形で活用されると、逆に人間がAIを補完しなければならず、効率化は達成されないという。
また世界経済フォーラムは、AIエージェントにどこまで任せ、どこから人間が介入すべきかを見極める判断力が必要になると述べる。AIは訓練された範囲内でしか能力を発揮できないため、その限界を理解し、どのタスクをAIエージェントに任せ、どの部分に人間の監督や判断を残すかを、戦略的に決定する能力が必要になるのだ。
そのため、今後特定の目標を達成するには、単体のエージェントでなく、複数のエージェントや人間のタスクを組み合わせる場面が増えるだろう。その結果、高度なAIエージェントを使う側には、複数AIエージェントの連携や、人間とAIが協働するワークフロー全体の設計・管理が求められる。つまり、個々のタスクだけでなく、プロセス全体を俯瞰して最適化する——「監督者」としてのスキルだ。
これらはAIエージェントという優秀なチームを率いる「マネージャー」や「指揮者」の資質に近い。個々の作業能力以上に、プロジェクト全体の目的を定め、各エージェントの得手不得手を見極めて適切に割り振り、人間とAIが織りなす複雑な流れを設計・管理する力が重要になる。
これは単なるツール操作の習熟ではなく、より高次の戦略的思考とマネジメントであり、その巧拙が個人や組織の生産性を大きく左右する。ただし、この能力は一朝一夕に身に付くものではなく、各人の継続的な努力が必要だ。
IBMは公式ブログ上で、従業員がそれぞれの業務において、どうすればAIを最適な形で活用できるかどうかを判断できるようにならなければならないと指摘している。そしてAIが正しく活用されれば、それは人間を補完する存在になるが、間違った形で活用されると、逆に人間がAIを補完しなければならず、効率化は達成されないという。
また世界経済フォーラムは、AIエージェントにどこまで任せ、どこから人間が介入すべきかを見極める判断力が必要になると述べる。AIは訓練された範囲内でしか能力を発揮できないため、その限界を理解し、どのタスクをAIエージェントに任せ、どの部分に人間の監督や判断を残すかを、戦略的に決定する能力が必要になるのだ。
そのため、今後特定の目標を達成するには、単体のエージェントでなく、複数のエージェントや人間のタスクを組み合わせる場面が増えるだろう。その結果、高度なAIエージェントを使う側には、複数AIエージェントの連携や、人間とAIが協働するワークフロー全体の設計・管理が求められる。つまり、個々のタスクだけでなく、プロセス全体を俯瞰して最適化する——「監督者」としてのスキルだ。
これらはAIエージェントという優秀なチームを率いる「マネージャー」や「指揮者」の資質に近い。個々の作業能力以上に、プロジェクト全体の目的を定め、各エージェントの得手不得手を見極めて適切に割り振り、人間とAIが織りなす複雑な流れを設計・管理する力が重要になる。
これは単なるツール操作の習熟ではなく、より高次の戦略的思考とマネジメントであり、その巧拙が個人や組織の生産性を大きく左右する。ただし、この能力は一朝一夕に身に付くものではなく、各人の継続的な努力が必要だ。
これからは「エージェント使いこなし力」が成否を分ける
BCGの調査も、この見通しを裏付ける結果となった。労働者の75%が「AIエージェントが今後の成功に不可欠」と考える一方、現時点で本格活用できている職場は13%にとどまり、仕組みを理解する一般社員も全体の3分の1にすぎない。つまり今はまだ黎明期であり、優秀なAIエージェントを自在に操れる人材は希少だ。
だからこそ、いち早くスキルと環境を手にした人ほど大きなアドバンテージを得る。いつの時代も、最先端のツールとそれを使いこなす力への投資は、ビジネスパーソンの要件だった。これからの数年間は、AIエージェントがその最重要の対象となるに違いない。
だからこそ、いち早くスキルと環境を手にした人ほど大きなアドバンテージを得る。いつの時代も、最先端のツールとそれを使いこなす力への投資は、ビジネスパーソンの要件だった。これからの数年間は、AIエージェントがその最重要の対象となるに違いない。

小林 啓倫
経営コンサルタント
1973年東京都生まれ、獨協大学外国語学部卒、筑波大学大学院修士課程修了。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米バブソン大学にてMBAを取得。その後外資系コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業などで活動。著書に『FinTechが変える!金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』(朝日新聞出版)、『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『ソーシャル物理学』(アレックス・ペントランド著、草思社)、『シンギュラリティ大学が教える 飛躍する方法』(サリム・イスマイル著、日経BP)など多数。