CES 2026で“歩み出した”ロボットの未来──工場を変えるHyundaiのAtlasは、人の仕事をどう再定義するのか

土江錠

AISpecialイベントテクノロジー

実証から量産へ──動き始めた導入計画

Atlasはもはや「未来の夢の技術」ではありません。すでにHyundaiの米国工場で、実際の自律搬送作業を実証済みです。

最初の本格導入先は、米国ジョージア州にあるHyundai Motor Groupの電気自動車製造拠点です。2026年中に、同工場近くにRobotics Metaplant Application Center(RMAC)が開設されます。ここでAtlasは職業訓練を受け、実際の製造ラインでの作業を学びます。

訓練方法も革新的です。VRヘッドセットを装着した人間のオペレーターがテレオペレーションでAtlasを操縦し、タスクを成功させるまで繰り返します。そのデータが自律動作のAIモデル訓練に使われます。また、モーションキャプチャースーツを着た人間の動きを記録し、Atlasの異なる身体構造に適応させる手法も用いられます。さらに、数千のデジタルコピーがシミュレーション環境で同時に訓練を受け、最適なアプローチを発見します。

ほとんどのタスクは1日以内で習得可能だとBoston Dynamicsは述べています。

2026年に生産するAtlasはすべて、すでにHyundai Motor GroupおよびGoogle DeepMind向けに割り当てられており、2027年以降、新しい顧客への展開が始まる予定です。

Atlasの導入・展開ロードマップは以下の通りです。

量産体制の構築──年間3万台規模のロボット工場

Hyundaiは「Robotics-as-a-Service(RaaS)」モデルも計画しています。これはロボットを販売するのではなく、サブスクリプション方式で提供するビジネスモデルです。ハードウェア、ソフトウェアアップデート、OTA(Over-the-Air)アップグレード、遠隔メンテナンスをパッケージ化し、Hyundaiほどの資本力を持たない企業でも先端ロボティクスを導入できるようにします。このRaaSモデルは、すでにDHL、ネスレ、マースクといったグローバル企業との間で展開されています。

冒頭のCESでの新型お披露目のとおり、量産体制も着々と整備されています。Hyundaiは、2028年までに年間3万台規模のAtlas生産体制構築をもくろんでおり、米国に新しいロボット工場を、HyundaiとBoston Dynamicsが共同で建設する計画です。総投資額は2025年から2028年の4年間で260億ドル(約4兆円)規模で、対米投資の一部として計上されるとしています。

「我々の新型Atlasは、これまでで最も量産に適したロボットです」とJackowski氏は語ります。

「ロボット全体のユニーク部品数を大幅に削減し、すべてのコンポーネントが自動車サプライチェーンと互換性を持つよう設計しました」(Jackowski氏)

こうした例を目の当たりにすると、一見ミスマッチに感じられたBoston DynamicsのHyundaiへのジョインが、実は最適解だったようにも思えてきます。

Boston Dynamicsは2025年に500台以上のロボットを展開し、合計約1億3000万ドルの売上を記録しました。四足歩行ロボット「Spot」は40カ国以上でデータ収集や安全監視に使用され、倉庫ロボット「Stretch」は2023年の発売以来、世界中で2000万個以上の箱を荷下ろしした実績を持ちます。この経験とデータが、今後のヒューマノイドの量産に活かされます。

ロボットは仕事を奪わない?──人間の役割はどう進化するのか

Atlasの登場は「ロボットは人間の仕事を奪うのか?」という避けられない問いを我々に突きつけます。

皮肉なことに、Hyundaiがジョージア州でAtlasを導入しようとしている工場は、2024年に連邦移民局の大規模摘発が行われた場所でもあります。300人以上の韓国人労働者を含む数百人が逮捕されました。労働力の確保と管理は、製造業にとって常に頭痛の種です。

マッキンゼー・アンド・カンパニーのシニアパートナー、Alex Panas氏は、CESのロボティクスパネルで次のように語りました。

「問題は、技術がどこに適用可能かということです。人型ロボットが最適な場合もあれば、そうでない場合もある。しかし確実に言えるのは、ソフトウェア、チップセット、通信技術──すべてが収束しつつあり、新しいアプリケーションを生み出すということです」(Panas氏)

現時点で、人型ロボットは多くの人間の仕事を脅かすほどの器用さを持っていません。しかし、その能力は急速に向上しています。今回のCESでAtlasが見せた滑らかな動き、環境認識能力、そしてAIとの統合は、5年前には想像もできなかったレベルです。そして進化はこれからも続きます。

では、今後、人間はどうすればいいのでしょうか。

Hyundaiの答えは「役割の再定義」です。ロボットが担うのは、危険で、重労働で、単調な作業。人間が担うのは、ロボットの訓練、監視、そして創造性や判断力を必要とする仕事です。

Boston Dynamics CEOのPlayter氏はこう述べています。

「20年後、ロボットがベッドから起き上がるのを手伝ってくれる未来を楽しみにしています。いつかは家庭にも進出したい。ただ、今ではありません」(Playter氏)

Playter氏は家庭用ロボットについて、今のところ開発コストの割には能力が低く、安全基準も確立されていないことを理由に「間違った戦略」だと明言しています。まずは工場という管理された環境で実績を積み、その経験とデータをもとに「家庭用」ロボットを含む次世代のロボットを、より賢く、より安全にしていく考えです。

Atlasが問いかける、人間とロボットの未来

現実には、技術革新は常に勝者と敗者を生みます。Atlasがラスベガスのステージで手を振ったあの瞬間、私たちは確かに「問い」を突きつけられました。

「ロボットは人間と競争しない。人の安全・効率・幸福のために協働する」

Hyundaiが繰り返し強調するこのメッセージは、単なる企業PRのキャッチフレーズにとどまらず、これからの社会が選び取るべき1つの方向性を示しているのかもしれません。

Atlasは、歩き出しました。次は、私たちと働き始めます。その後、私たちは何をすればよいのでしょうか。

ロボットと人間は、どう共存するのか。その答えは、技術者だけでなく、社会全体で考えなければならない課題となるでしょう。
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土江錠

ガジェットのほか、各種AIや先端技術を追いかけるテックウォッチャー。
ゲームと食べ歩きも少し詳しい。

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