AIアルゴリズムで地球外文明は見つかる? 知的生命体の可能性を秘めた8つの新しい「シグナル」

Munenori Taniguchi

AISpecialカルチャーテクノロジー
夏の夜空に見える天の川は、実はわれわれの住む太陽系が属する天の川銀河を内側から見た姿です。天の川銀河は直径が約10万光年もあり、宇宙にはこのような銀河が無数に存在しています。2022年には、約135億光年もの彼方にある銀河が発見されました。これだけ広い宇宙なら、そのどこかには地球と同じように生命が存在し、高度に発達した文明を持っている惑星があるかも……誰でも一度は、そう思ったことがあるでしょう?

2023年1月、宇宙における知的生命体の痕跡「テクノシグネチャー(技術の痕跡)」を発見する取り組みであるBreakthrough Listen Projectは、データ選別にAIを活用した新たな方法による探索の結果を発表しました

「わらの山」から「針」を探す

高校在学時からBreakthrough Listen Projectに参加し、現在はトロント大学の学部生であるピーター・マー氏の研究チームは、ウェストバージニア州にあるグリーンバンク望遠鏡(通称、GBT)で取得された約820個の恒星観測データを、AI(人工知能)を用いて解析。このデータは約480時間の観測で得られたもので、その容量は150TBにも上ります。

この恒星観測データは、それが取得された2017年にも分析されていましたが、当時のアルゴリズムではめぼしい特徴は発見できませんでした。ところが、今回の人工知能アルゴリズムによる分析では、テクノシグネチャー候補として期待できる8つの注目すべき“シグナル”を発見できたと報告されたのです(下の図の赤いマス目がシグナル)。

赤いマス目がシグナル

カリフォルニア大学バークレー校でBreakthrough Listen Projectに携わり、マー氏の研究アドバイザーでもある天体物理学者のスティーブ・クロフト博士は「テクノシグネチャーを探すうえで重要になるのは、この膨大なデータの山をかき分けて、異星からの通信と思われる、かすかなシグナルを探し出すことです」と述べています。

クロフト氏は、膨大なデータの山を“わらの山”に例え、マー氏が用いたアルゴリズムの可能性を次のように説明します。

「私たちの望遠鏡が検出する信号の大部分は、GPSなどの人工衛星や、携帯電話といった私たち自身が作り出したテクノロジーが発したものです。そしてマー氏のアルゴリズムは、これらの田んぼに積み上げられた“わらの山”から、テクノシグネチャーの可能性を含む、“針の先”ほどの微細な信号を探すための、より効果的な方法を提供してくれます」。

従来のテクノシグネチャー検出用のアルゴリズムは、望遠鏡を目標とする方向に向けて得られたスキャンデータと、その近くの別の方向から得たデータを比較し、一方のみから発せられているデータを探すというものです。この従来の方法でも約200億kmも遠くにあるボイジャー探査機を識別するのに成功した実績もあり、その有効性は折り紙付きといえるでしょう。

ただ、上空には観測可能な電波が非常に混雑している領域もあり、従来のアルゴリズムでは、騒音だらけの部屋の中でささやき声を聞き分けるような作業が必要になってしまうこともあるのです。

マー氏の新しいアルゴリズムは、従来の方法が持っていた弱点を克服するものです。このプロセスでは、まず実際のデータに模擬信号を挿入し、オートエンコーダーと呼ばれる人工知能を備えたアルゴリズムを使って、人工の信号が持つ基本的な特性を学習させます。そしてこのプロセスが処理したデータを、ランダムフォレスト分類器と呼ばれる、第2のアルゴリズムに送ります。この第2のアルゴリズムは、テクノシグネチャーの候補となる信号をノイズの多い背景から浮き上がらせて、区別がしやすくなるように学習させてあります。

Breakthrough Listen Projectの主任研究者、アンドリュー・シーミオン博士は「私たちは2021年に、オーストラリア・ニューサウスウェールズ州にあるパークス天文台で観測したデータから、古典的なアルゴリズムを使って「BLC1」と呼ばれる、注目すべき信号を見つけ出すことに成功しました」と述べています。そして、「マー氏のアルゴリズムがあれば、このBLC1のようなシグナルを、もっと効果的に見つけ出すことができます」としました。

そして、「テクノシグネチャーの候補は全てを分析・確認する必要があり、時間がかかります。BLC1の信号を、改めてGBTで観測しようとした時には、もうそこにシグナルは見つけられませんでした。それでも、(マー氏の)新しい技術をさらに大きなデータセットに適用すれば、これまでより効率的にテクノシグネチャーの候補を見つけ出し、最終的にはテクノシグネチャーそのものを発見、確認することが期待できます」とシーミオン博士は述べています。
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Munenori Taniguchi

ライター。ガジェット全般、宇宙、科学、音楽、モータースポーツetc.、電気・ネットワーク技術者。
実績媒体:TechnoEdge、Gadget Gate、Engadget日本版、Autoblog日本版、Forbes JAPAN他 Twitter:@mu_taniguchi

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