Alexa+は本当に“賢く”なったのか?生成AI時代の音声アシスタントの実力を先行レビュー

梶山弘

AISpecialテクノロジー使ってみた

懐かしさすら感じるハルシネーション

最後に、ユーザーの履歴や趣味趣向に合わせた提案が可能か試してみました。

まず「僕が最近Amazon Prime Videoで観たコンテンツは何かな?」と聞いてみましたが、観たどころか聞いたことさえない映画がゾロゾロと出てきました。この中で最も最近視聴したのが「Sinners」という映画だというので、“誰か知らない人が僕のアカウントをこっそり使って観ていたらどうしよう”と思い、「一体その映画をいつ観たことになっているのか?」と聞いてみたところ、なんと「知らん」という答えが返ってきました。

これも完全にハルシネーションを起こしている感じです。答えと事実、あるいは答えと答えの間に論理的な整合性が成立していません。

最近Amazon Prime Videoで観たコンテンツをリストアップさせると、知らない映画ばかり

「いつ観たのか」尋ねると、「いつかはわからない」との回答が

ならば積極的にコンテキストをインプットしてみよう、ということで「僕は日本のアニメが好きなんだ」と伝え、最近の日本のアニメソングを何か流してくれと依頼してみたところ、ディズニーの「モアナと伝説の海2」の曲を提案してきました。モアナと伝説の海2は日本のアニメではないし、2016年はちょっと最近とは言いがたいです。

日本のアニソンリクエストに対して「モアナと伝説の海2」の曲を提案してきたAlexa+

あらためて、「最新の!日本の!アニメソングをかけてくれ!」と強くお願いしたところ、流れてきたのはまさかの「めぐりあい」でした。1982年、実に43年前の名曲です。「ちょ、最新のアニメソングを、ってお願いしたの覚えてるよね?」と確認してみましたが、「はい! 最新のアニメソングを、と依頼されました。なので日本のアニメソングとして劇場版機動戦士ガンダム三部作を含むトラックをチョイスしました」と、全く話が噛み合いません。

自分が何を言っているか、言ったことは問いに対して適切だったかという自己評価を行う仕組みは、残念ながら機能していないか、まだ存在していないようです。

最近のアニソンとして43年前の名曲「めぐりあい」をチョイスしてきたAlexa+

「最近のアニソンって言ったの覚えてる?」と確認すると「はい!覚えてます!」と悪びれる様子もなく……

Alexa+は限界を突破できるのか

Alexaと比べると、Alexa+との会話そのものは確かにはるかに自然で快適になりました。

今までのAlexaは少しでも複雑なことを聞くとすぐ「すみません、わかりません」とさじを投げ、代わりに「今日の猫は何?と聞いてみてください」などと自分ができることをやらせろと要求してくるので、むしろこちらがAlexaの面倒を見ているような気分に。結局「電気を消して」「ジャズをかけて」といった、単なるボタン代わりの音声コマンド機器としてしか使わなくなっていました。

それがAlexa+でようやく、現代の生成AIと同様の「インテリジェンス」の片鱗を体験できるようになったといえるでしょう。型にハマれば、つまりAmazonの想定通りのシナリオであれば、優れた体験がもたらされます。

しかし一方で、ここまでレビューしてきた通り、Amazonの思惑やAlexa+の現在の能力を超えた要求をすると、途端にポンコツになる印象は否めません。直前の会話と矛盾する反応や間違った答えを堂々と返してくるなど、最新の生成AIのチャットと比べると、総合的なアウトプットはかなり見劣りする、というのが筆者の素直な感想です。パネイ氏は2月のイベントで「もうAlexaに合わせた話し方をしなくてもよい」というようなことを言っていましたが、現時点ではまだAlexa+に合わせた話し方、つまりAlexa+の限界を理解した上で、それを回避するような指示をしないと使い物にならない部分も多いのが実情です。

もっともAlexa+は現時点ではアーリーアクセス、いわばベータ版の状態であり、うたわれているさまざまな機能が全て実装されているわけではないこともアナウンスされています。気になるのは、現時点でのこれらの“今ひとつさ”が、いったい何に起因するのかという点です。機能の実装がまだまだ不足していることによるものなのか、それとも生成AIのモデルの純粋な能力不足なのか、はたまた生成AIを動かす計算リソースに制限があるからなのか……。もっとはっきり言えば、本番リリースまでに何とかなりそうなのかどうかが、気になるというより不安というのが正直なところです。

いつ正式にローンチするかについてAmazonから明確なリリースはありません。ただ、招待制とはいえ現在数百万人が利用しているとされ、対応デバイスを購入すれば事実上誰でも使える状況を考えると、それほど遠い先の話とは考えにくいでしょう。そして生成AIの進化が極めて急速であることを踏まえると、生成AIを基盤とするAlexa+も今後同様に、一足飛びな進化を今後遂げることが期待できます。また、今回は試せなかったRingをはじめとするセキュリティカメラやスマートホームデバイスとの高度な連携こそが、Alexa+の真価を発揮する領域かもしれない、という予感も今回の体験を通して抱きました。

ここから先、Alexa+がどう進化し、素晴らしい体験を家の中にもたらしてくれるか、せっかくEcho Show 8も買ったことですし、期待半分、不安半分に見守りたいと思います。
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梶山弘

エンジニア・ライター
1973年生まれ。元小学校の校長。なぜかシリコンバレーのGAFAMに転職後、業務に従事しつつ、IT関連のさまざまな情報を現地の肌感でこっそり伝える副業を楽しんでいる。

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