ぶつかり合う正義を通じて日頃の理不尽をデトックス『朽ちないサクラ』
『朽ちないサクラ』
連休が終わりゆく憂鬱を、感情のうねりでデトックスしたいとき……映画「朽ちないサクラ」をおすすめしたい。
たび重なるストーカー被害を受けていた女子大生が、神職の男に殺害された。女子大生からの被害届の受理を先延ばしにした警察が、その間に慰安旅行に行っていたことが地元新聞のスクープ記事で明らかになる。県警広報広聴課の森口泉は、自分がうっかり口にしたその情報を、親友の新聞記者・津村千佳が記事にしたのではないか?と疑うが、1週間後、千佳は水死体となって発見される。潔白を訴えていた千佳とのケンカ別れを後悔する泉は、捜査する立場にないにもかかわらず、千佳を殺した犯人を自らの手で捕まえることを誓うが……。
友達を裏切らないこと。記事を書いて不正を暴くこと。立場によって「何が正しいのか」という正解は変わる。現実の会社組織にも通じる、そんな「食い違う正義」が本作のテーマ。それぞれの正義が静かに、しかし強くぶつかるさまは、組織の狭間で葛藤した経験のある人に深く刺さるポイントがあるはず。
……と書くと堅苦しい作品と思われるかもしれないが、そんなことはない。冒頭から一気に物語に引き込まれ、泉と一緒に追っていくサスペンス要素は実にスリリングだ。そして、物語の中では、多くのことが徒労に終わるが、完全に終わって消えてしまうものはない。それがかすかな救いになる。消されたはずのできごとも、人の記憶、あるいは疑いの中に消えずに残る。
腐敗した組織もきっと朽ちることがない。だけど、それに対する疑念も良心も、そして小さな抵抗もまた、きっと朽ちない。
泉を演じる杉咲花の繊細かつリアルな演技に共鳴することで、日頃抱えているストレスや理不尽への怒りが昇華され、連休明けを乗り切るための不思議な活力が湧いてくるはずだ。
『朽ちないサクラ』(Netflix)(Amazon Prime Video)
たび重なるストーカー被害を受けていた女子大生が、神職の男に殺害された。女子大生からの被害届の受理を先延ばしにした警察が、その間に慰安旅行に行っていたことが地元新聞のスクープ記事で明らかになる。県警広報広聴課の森口泉は、自分がうっかり口にしたその情報を、親友の新聞記者・津村千佳が記事にしたのではないか?と疑うが、1週間後、千佳は水死体となって発見される。潔白を訴えていた千佳とのケンカ別れを後悔する泉は、捜査する立場にないにもかかわらず、千佳を殺した犯人を自らの手で捕まえることを誓うが……。
友達を裏切らないこと。記事を書いて不正を暴くこと。立場によって「何が正しいのか」という正解は変わる。現実の会社組織にも通じる、そんな「食い違う正義」が本作のテーマ。それぞれの正義が静かに、しかし強くぶつかるさまは、組織の狭間で葛藤した経験のある人に深く刺さるポイントがあるはず。
……と書くと堅苦しい作品と思われるかもしれないが、そんなことはない。冒頭から一気に物語に引き込まれ、泉と一緒に追っていくサスペンス要素は実にスリリングだ。そして、物語の中では、多くのことが徒労に終わるが、完全に終わって消えてしまうものはない。それがかすかな救いになる。消されたはずのできごとも、人の記憶、あるいは疑いの中に消えずに残る。
腐敗した組織もきっと朽ちることがない。だけど、それに対する疑念も良心も、そして小さな抵抗もまた、きっと朽ちない。
泉を演じる杉咲花の繊細かつリアルな演技に共鳴することで、日頃抱えているストレスや理不尽への怒りが昇華され、連休明けを乗り切るための不思議な活力が湧いてくるはずだ。
『朽ちないサクラ』(Netflix)(Amazon Prime Video)
究極の愛と狂気にあえて触れる『ナイトフラワー』
『ナイトフラワー』
家族と過ごす時間が増えるGWに、「人を不幸にしてでも我が子を守る」という母の愛と狂気にあえて触れてみるなら、映画「ナイトフラワー」がおすすめだ。
夫の遺した借金の取り立てに追われ、2人の子どもを連れて東京へ逃げてきた永島夏希は、昼も夜も必死に働いてもなお、日々の食事にさえ困る毎日を送っている。そんなある日、夏希は夜の街でドラッグの密売現場に遭遇。ほんの数秒で大金が動くさまを目の当たりにし、自らもドラッグの売人になることを決意する。心に孤独を抱えた格闘家・芳井多摩恵と出会った夏希は、裏社会のルールを知らない自分を見かねてボディガード役を買って出た彼女とタッグを組み、さらに危険な取引に手を伸ばす。しかし、ある女子大学生の死をきっかけに、夏希と多摩恵の運命は思わぬ方向へ転がりはじめる。
感動的なトーンで描かれる「わが子を守る母の愛」ではなく、ドラッグ密売に手を染めるシングルマザーの目を通じて「愛する者を守るためなら、人間はどこまで罪を犯せるのか」という善悪の境界線を描いた本作。「見たことのない北川景子」が、その大きな見どころだ。ネイティブの関西弁を駆使して、ほとんどすっぴんで、貧困にあえぐシングルマザーを演じる。
聞き分けなく餃子を食べたいと泣き喚くわが子に、夏希もまた「泣きたいのはこっちや!」「ええ加減にして、餃子餃子ってなんやねん」とぐちゃぐちゃの顔で絶叫する。勤務先の上司の嫌味は受け流せるが、子どものことをからかわれた瞬間に我を失い、大人の男性も困惑するほどキレて暴れる。今にも切れそうに張り詰めた糸のような精神状態が続いていることが伝わってくる。転がり出てきたドラッグを見た瞬間にさっと目の色を変え、それをつかんで走り出す、「貧困ゆえの反射神経」もすごい。
お金の不安が少なくなったころ、夏希は自分の娘のある才能に気づき、大切に伸ばしたいと願うようになる。それをすぐ傍で見ていた多摩恵も、いまや自分たちの大切な「家族」だ。しかしその幸せはドラッグを売って破壊した他人の人生の上に咲く、はかない花のようなものだった。
ラストは解釈が分かれるところだが、個人的には「昼に咲く月下美人」が象徴しているのではないかと思う。
夏希の選択は美談にできるものではないけれど、泥臭い必死さに思わず感情移入してしまう。日常から切り離された連休中に見ることで、「自分にとって一番大切なものは何か」という問いが、よりリアルに浮かび上がるのではないだろうか。
『ナイトフラワー』(Amazon Prime Video)
夫の遺した借金の取り立てに追われ、2人の子どもを連れて東京へ逃げてきた永島夏希は、昼も夜も必死に働いてもなお、日々の食事にさえ困る毎日を送っている。そんなある日、夏希は夜の街でドラッグの密売現場に遭遇。ほんの数秒で大金が動くさまを目の当たりにし、自らもドラッグの売人になることを決意する。心に孤独を抱えた格闘家・芳井多摩恵と出会った夏希は、裏社会のルールを知らない自分を見かねてボディガード役を買って出た彼女とタッグを組み、さらに危険な取引に手を伸ばす。しかし、ある女子大学生の死をきっかけに、夏希と多摩恵の運命は思わぬ方向へ転がりはじめる。
感動的なトーンで描かれる「わが子を守る母の愛」ではなく、ドラッグ密売に手を染めるシングルマザーの目を通じて「愛する者を守るためなら、人間はどこまで罪を犯せるのか」という善悪の境界線を描いた本作。「見たことのない北川景子」が、その大きな見どころだ。ネイティブの関西弁を駆使して、ほとんどすっぴんで、貧困にあえぐシングルマザーを演じる。
聞き分けなく餃子を食べたいと泣き喚くわが子に、夏希もまた「泣きたいのはこっちや!」「ええ加減にして、餃子餃子ってなんやねん」とぐちゃぐちゃの顔で絶叫する。勤務先の上司の嫌味は受け流せるが、子どものことをからかわれた瞬間に我を失い、大人の男性も困惑するほどキレて暴れる。今にも切れそうに張り詰めた糸のような精神状態が続いていることが伝わってくる。転がり出てきたドラッグを見た瞬間にさっと目の色を変え、それをつかんで走り出す、「貧困ゆえの反射神経」もすごい。
お金の不安が少なくなったころ、夏希は自分の娘のある才能に気づき、大切に伸ばしたいと願うようになる。それをすぐ傍で見ていた多摩恵も、いまや自分たちの大切な「家族」だ。しかしその幸せはドラッグを売って破壊した他人の人生の上に咲く、はかない花のようなものだった。
ラストは解釈が分かれるところだが、個人的には「昼に咲く月下美人」が象徴しているのではないかと思う。
夏希の選択は美談にできるものではないけれど、泥臭い必死さに思わず感情移入してしまう。日常から切り離された連休中に見ることで、「自分にとって一番大切なものは何か」という問いが、よりリアルに浮かび上がるのではないだろうか。
『ナイトフラワー』(Amazon Prime Video)
「パートナーへの思いやり」をもう一度!優しい気持ちで過ごすためのカンフル剤『ファーストキス 1ST KISS』
『ファーストキス 1ST KISS』
いつも忙しくてピリピリしがちだけど、GWぐらいはパートナーへの優しい気持ちを取り戻したい。そんなときにおすすめのラブストーリーが「ファーストキス 1ST KISS」だ。
結婚して15年になるカンナは、ある日、夫の駈を事故で失ってしまう。若き日に、出会ってすぐに結ばれた2人はいつしかすれ違い、離婚話も出てはいたが、思ってもみない別れになった。しかしひょんなことから、彼と出会った15年前の夏にタイムトラベルしてしまったカンナは、若き日の駈を見て思う。やっぱりわたしはこの人が好きだ。まだ夫ではない駈と出会い、カンナは再び恋に落ちる。
時間を行き来しながら、20代の駈と気持ちを重ね合わせていく40代のカンナ。事故死してしまう彼の未来を変えたい。過去が変われば未来も書き換えられることを知ったカンナは、思い至る。わたしたちは結婚して、15年後にあなたは死んだ……だったら答えは簡単。わたしたちは出会わない。結婚しない。たとえ、もう二度と会えなくても—— 。
出会った頃の輝く恋心も会話もなくなって、一緒にいる意味もなくなって、だけど死んでほしいほど憎いわけじゃない。そんなよくある夫婦を松たか子と松村北斗が演じる。
冒頭、駈は離婚届を出しに行こうとしていたところで事故に遭うし、ゆっくり壊れていく夫婦の様子も丁寧に描かれるが、それでも、カンナがタイムリープする動機は彼を死なせたくないからである。生きていてほしい。そういうものなのだと思う。
カンナは何度もタイムリープし(本作では自在にそれができる)、駈と出会った日を繰り返す。彼は彼でカンナに運命を感じており、何度も一目で恋に落ちる。20代の駈の目の前にいるのは45歳のカンナだが、そんなの関係ない!
彼を死なせないために運命を改変していくカンナ。しかし何度試みてもうまくいかず、ついには駈に正体がバレる。その時下した彼の決断に、感動しない女性はいないのではないか。
同じ相手でも環境や条件、タイミング……さまざまな要素が重なり合って人生ができるのだと、不思議な気持ちになる。隣にいてくれる人を大切にしようと思える。パートナーと一緒に見るのもよし、独りでこっそり見て相手に優しくするのもよしな傑作だ。
『ファーストキス 1ST KISS』(Amazon Prime Video)
******
「今の自分の気分」や「GWという特別な時間」に掛け合わせて作品を選ぶことで、作品への没入感やデトックス効果は何倍にも膨らむはず。
笑って、ハラハラして、時には深く考えさせられる極上のエンタメ体験。連休中に心へたっぷりと栄養をチャージして、休み明けの日常を力強く乗り切るためのエネルギーに変えていきましょう!
結婚して15年になるカンナは、ある日、夫の駈を事故で失ってしまう。若き日に、出会ってすぐに結ばれた2人はいつしかすれ違い、離婚話も出てはいたが、思ってもみない別れになった。しかしひょんなことから、彼と出会った15年前の夏にタイムトラベルしてしまったカンナは、若き日の駈を見て思う。やっぱりわたしはこの人が好きだ。まだ夫ではない駈と出会い、カンナは再び恋に落ちる。
時間を行き来しながら、20代の駈と気持ちを重ね合わせていく40代のカンナ。事故死してしまう彼の未来を変えたい。過去が変われば未来も書き換えられることを知ったカンナは、思い至る。わたしたちは結婚して、15年後にあなたは死んだ……だったら答えは簡単。わたしたちは出会わない。結婚しない。たとえ、もう二度と会えなくても—— 。
出会った頃の輝く恋心も会話もなくなって、一緒にいる意味もなくなって、だけど死んでほしいほど憎いわけじゃない。そんなよくある夫婦を松たか子と松村北斗が演じる。
冒頭、駈は離婚届を出しに行こうとしていたところで事故に遭うし、ゆっくり壊れていく夫婦の様子も丁寧に描かれるが、それでも、カンナがタイムリープする動機は彼を死なせたくないからである。生きていてほしい。そういうものなのだと思う。
カンナは何度もタイムリープし(本作では自在にそれができる)、駈と出会った日を繰り返す。彼は彼でカンナに運命を感じており、何度も一目で恋に落ちる。20代の駈の目の前にいるのは45歳のカンナだが、そんなの関係ない!
彼を死なせないために運命を改変していくカンナ。しかし何度試みてもうまくいかず、ついには駈に正体がバレる。その時下した彼の決断に、感動しない女性はいないのではないか。
同じ相手でも環境や条件、タイミング……さまざまな要素が重なり合って人生ができるのだと、不思議な気持ちになる。隣にいてくれる人を大切にしようと思える。パートナーと一緒に見るのもよし、独りでこっそり見て相手に優しくするのもよしな傑作だ。
『ファーストキス 1ST KISS』(Amazon Prime Video)
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「今の自分の気分」や「GWという特別な時間」に掛け合わせて作品を選ぶことで、作品への没入感やデトックス効果は何倍にも膨らむはず。
笑って、ハラハラして、時には深く考えさせられる極上のエンタメ体験。連休中に心へたっぷりと栄養をチャージして、休み明けの日常を力強く乗り切るためのエネルギーに変えていきましょう!

中野 亜希
ライター・コラムニスト
大学卒業後、ブログをきっかけにライターに。会社員として勤務する傍らブックレビューや美容コラム、各種ガジェットに関する記事執筆は2000本以上。趣味は読書、料理、美容、写真撮影など。
X:@752019














