なぜ人は、完全に満腹のときでもデザートだけは食べる余裕があるのでしょうか。「デザートは別腹」といいますが、実は英語でもそのまま「dessert stomach」といいます。この現象の背後にある生物学的な理由を確かめたいと考えた研究者たちが、別腹のメカニズムの解明を進めています。
過去には、人びとが食べものを選択する際は食べることで得られる報酬、いわば満足感に関連する脳内の信号伝達が一定の役割を果たしていると研究で示されたことはありました。しかし満腹になった後で、さらに甘い物を食べたいと思う具体的な仕組みは、これまで解明されていませんでした。
過去には、人びとが食べものを選択する際は食べることで得られる報酬、いわば満足感に関連する脳内の信号伝達が一定の役割を果たしていると研究で示されたことはありました。しかし満腹になった後で、さらに甘い物を食べたいと思う具体的な仕組みは、これまで解明されていませんでした。
脳が「おなかいっぱい、ごちそうさま」と判断するメカニズムは?
人の脳には、視床下部という部分に、一般に「満腹中枢」と呼ばれる中枢神経が存在します。この満腹中枢の一部であるプロオピオメラノコルチン(Pro-opiomelanocortin、POMC)ニューロンは、血液中の血糖値が上昇することで刺激され、食欲を抑制する信号を発する役割を担っています。この信号が大脳に伝わると、人は満腹感を感じて「ごちそうさま、もう食べられません」となるわけです。

Adobe Fireflyで筆者が生成
ところが「甘い物は別腹」とよくいわれるように、お腹がいっぱいにもかかわらず最後に甘いデザートが出されると、人はどういうわけか、そのときだけは満腹感を忘れ、芳醇(ほうじゅん)な甘みを堪能したいという誘惑に駆られてしまうものです。これは一体、どういうことなのでしょうか?
そんな疑問に、ドイツ・ケルンにあるマックス・プランク代謝研究所ヘニング・フェンセラウ氏をはじめとする研究チームが挑みました。
そんな疑問に、ドイツ・ケルンにあるマックス・プランク代謝研究所ヘニング・フェンセラウ氏をはじめとする研究チームが挑みました。
マウスにも「別腹」があった
研究チームは、実験用マウスに通常のエサを与えた後に、砂糖菓子のような甘い”デザート”を提供する実験を行い、「甘い物は別腹」が脳内でどのように起こっているかのプロセスを調べました。
調査方法は、まず、しばらく絶食させ空腹状態にしたマウスのケージに、通常のペレット状のエサを90分間与えてその様子を観察します。このエサの砂糖含有量は3%ほどで、マウスがエサを「甘い」と感じることはほとんどありませんが、空腹なためかマウスはいつも以上にそのエサをたくさん食べ、満腹状態になりました。
いつもならこれで食事は終わりです。しかし研究チームはそこへ、さらに追加のエサと、砂糖が35%も含まれた甘いエサを30分間与えて、マウスが追加でどの種類のエサをどれぐらい食べたかを詳しく調べました。そして同時に食後の“デザート”に関連する脳の動きを理解するため、前述の満腹中枢に関与するPOMCニューロンの働きについても詳しく調査しました。
すると意外なことに、このPOMCニューロンは脳に満腹と感じさせる作用のほかに、隠れた“第2の役割”を担っていることが判明したのです。
調査方法は、まず、しばらく絶食させ空腹状態にしたマウスのケージに、通常のペレット状のエサを90分間与えてその様子を観察します。このエサの砂糖含有量は3%ほどで、マウスがエサを「甘い」と感じることはほとんどありませんが、空腹なためかマウスはいつも以上にそのエサをたくさん食べ、満腹状態になりました。
いつもならこれで食事は終わりです。しかし研究チームはそこへ、さらに追加のエサと、砂糖が35%も含まれた甘いエサを30分間与えて、マウスが追加でどの種類のエサをどれぐらい食べたかを詳しく調べました。そして同時に食後の“デザート”に関連する脳の動きを理解するため、前述の満腹中枢に関与するPOMCニューロンの働きについても詳しく調査しました。
すると意外なことに、このPOMCニューロンは脳に満腹と感じさせる作用のほかに、隠れた“第2の役割”を担っていることが判明したのです。
甘い物を見ると脳内に放出される“ある物質”
研究者が明らかにしたのは、主に満腹感を制御しているPOMCニューロンが、β-エンドルフィン(幸福感や気分の高揚をもたらし、鎮痛効果のある脳内神経伝達物質)を放出し、それが脳の満腹中枢の隣接領域である視床室傍核(ししょうしつぼうかく、Paraventricular hypothalamic nucleus、PVT)に反応を引き起こすことでした。
実験では、マウスはすでに満腹感を感じているはずであるにもかかわらず、甘い食べものが目の前に差し出されると、その瞬間から脳内でβ-エンドルフィンが放出され、それが周囲の受容細胞に作用して、甘い食べものを摂取しはじめました。
実験では、マウスはすでに満腹感を感じているはずであるにもかかわらず、甘い食べものが目の前に差し出されると、その瞬間から脳内でβ-エンドルフィンが放出され、それが周囲の受容細胞に作用して、甘い食べものを摂取しはじめました。

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興味深いことに、以前に甘い物を食べたことのあるマウスの場合、甘いエサを見ただけでこの反応が現れたほか、甘いエサが見える前に匂いを察知した瞬間から反応が現れたとのことです。つまり、β-エンドルフィンは満腹感よりも、甘い物を口にすることで強い満足感をマウスに与えており、甘い物を食べることを予期しただけでも脳が反応を示すようになったと考えられます。
なお、過去に甘いエサを与えられたことのないマウスの場合も、やはり甘い食べものを口にするとすぐに、β-エンドルフィンが放出される反応が見られ、以後は積極的に甘い物を食べるようになりました。
なお、過去に甘いエサを与えられたことのないマウスの場合も、やはり甘い食べものを口にするとすぐに、β-エンドルフィンが放出される反応が見られ、以後は積極的に甘い物を食べるようになりました。

Munenori Taniguchi
ライター。ガジェット全般、宇宙、科学、音楽、モータースポーツetc.、電気・ネットワーク技術者。
実績媒体:TechnoEdge、Gadget Gate、Engadget日本版、Autoblog日本版、Forbes JAPAN他
Twitter:@mu_taniguchi