記事を書きたくなるプレスリリースとは:鵜の目「鷹木」の目

鷹木 創

Speciali4Uビジネス

自社の都合だけで出していないか?

広報やPR担当者は、リリース配信のタイミング以上に、記者やメディア読者との「目線合わせ」を大事にしてほしいと思います。

記者は、読者に読んでもらうために記事を出しています。PRや広報担当者は、自社の都合からいったん離れ、記者と読者を想像し、どうすれば記事化しやすく、読みたくなるリリースになるかを考えることが大事です。

例えば、何かキャンペーンのリリースを出す際、キャンペーン期間がもう始まっていたり、終了日間近だったりすると記事化が難しくなることもあります。逆にキャンペーンの開始が1カ月後だったりしても難しいです。これは記者の都合というより、読者が読んだ時にどう受け取るかが重要。「おお!」と思うような魅力的なキャンペーンでも、記事を見てそのキャンペーンに参加しようと思ったらすでに終了していた(もしくは始まっていなかった)だったら、読者はどう思うでしょうか?

世の中の動きも重要です。特に災害など、インパクトの大きいトピックが発生した場合、関連するサービスやプロダクト、調査報告などをプレスリリースとして出すのもありです。やりすぎるとあざとく映るかもしれませんが、読者のための情報であれば多少のやりすぎ感も許してもらえるかもしれません。

リリースを出す会社のほとんどは、リリースページを記者の目線ではなく自社都合で作っているんじゃないかと僕は感じています。例えば、自社のサーバ負荷を減らすために、添付画像の解像度を下げるなど。解像度が足りない画像は記事に使いにくいので、記者も敬遠します。

画像についてもう少しだけお話しすると、最近は画像をたくさん用意してくださっている企業も増えてきました。ただ、大量の画像からいいものを選ぶのも大変なので、おすすめの画像を選別してもらえると助かります。適切なキャプションが入ってくれたりすると記者への気遣いを感じますね。

それから意外と見落とされているのが、横長の画像を用意すること。「今はスマホで見られるから縦長がいいよね」と思われがちなんですが、実はウェブメディアの多くはサムネイルに横長の画像を設定します。さらに記事中に縦長画像があると、画面が画像で埋まってしまい、テキストは読まれなくなるんですよね。

また、リリースをテキストにせず、PDFだけで貼り付けているのも、コピー&ペーストなどの作業がしづらくて困ります。過去のリリースや他の商品情報を参照するように書かれているのに、そのリンクがなかったりすると、記者には調べる手間がかかってしまいます。

とはいえ、みんなに影響がある大きな出来事のリリ-スは、“強い”ニュースですから、どんなタイミングでも、雑な内容であっても記事化されますし、読者にも読まれます。難しいのは、採り上げるかどうかのボーダーライン、当落線上にある内容のリリ-スです。

当落線上にある内容の場合、リリースの体裁が記者に手間をかけさせるものだと、載る可能性が下がります。記者の動きが最低限で済むよう、記者目線でリリースページを作ることは、結構大事なことなのです。

メディアのカレンダーを理解することも大切です。大きなイベントが開かれているタイミングで関連する内容のリリースを出すとか、iPhoneの発売日に、iPhoneにからめた調査リリースを出すなど、メディアがどういうタイミングでどんな記事を出したいと思っているかを考え、リリースもそれに合わせて出していくと、載りやすくなると思います。

媒体を理解すべし

記者や読者の目線に立ち、媒体を理解した上でリリースを送るのも大事です。しかし、それができている広報やPRの方は、残念ながらとても少ないと感じています。

例えば、僕が運営会社の代表を務める「テクノエッジ」はテクノロジーメディアなので、セレブのファッションに関するプレスリリースを送られても載るわけがありません。もしかしたら載るかも?と思っているのかもしれませんが、そんなわけないですよね。

媒体を分かってくれていれば、テクノエッジにセレブファッションのリリースを送ったりはしません。ファッションに関連するリリースを送るにしても、例えば「AIでデザインした衣装」など、テクノロジーメディア向けに料理して送ってくれます。でも、そうじゃないリリースの方が圧倒的に多いんですよね。

記者と仲良くなるべし

メディアに採り上げてもらうのが最大の目的ならば、記者と仲良くなることも大事です。記者や編集者にあいさつをしたり、一緒にご飯や飲みに行ったりして、定期的に情報を提供し、「この広報と付き合っていたら面白いニュースがもらえる」などメリットを感じてもらうことです。

記者は孤独な仕事ですから、自分の記事を読んでくれる人に会うのは嬉しいもの。広報やPR担当者に「あの記事、読みました! 似た題材で、このテーマはどうでしょう?」とリリースを持ってきてもらえれば、「よく分かってくれていてうれしい」と思います。

そうした人間関係がある上で、「このリリース、何とかなりませんか?」と言われたら、記者も人間ですから、何とかしてあげたいと思うでしょう。紙面に余裕があり、リリースの内容も当落線上ぐらいならば、載るケースは多いと思います。

それでも、テクノエッジにファッション記事を載せるのは無理ですよ。モバイルバッテリーの新製品ぐらいならば行けるかもしれないですけど。

また、その商品単体でニュースにするのは難しくても、トレンドに合った企画を提案して商品を採り上げてもらう手もあります。例えば、「ボーナス商戦向け製品企画」のいち製品として採り上げてもらえるとか。企画の切り口まで持ってきてもらえると、メディアとしてもありがたいですね。

提案が外れたとしても、同じ商品を別の切り口で紹介できるかもしれない、と一緒に検討することもできますし、リリースのタイミングや中身の改善点を相談することもできます。

リリースは、自社にアテンションを向けるためのクリエイティブ

リリースは、記者を通じ記事にしてもらうという目的だけでなく、「自社の読者を作り、自社にアテンションを向けるためのクリエイティブ」だと思うといいかもしれません。

メディア企業や記者クラブ、記者個人向けへの発信に加え、SNSで公開し、一般の人も含めて情報を知ってもらう、という手段もあります。

リリースがSNSで話題になると、それがきっかけでメディアに取り上げられることもあります。リリース執筆時は、記者だけでなく、広くユーザーの目線に立ち、社会的に注目を浴びることを意識するといいでしょう。
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鷹木 創

編集主幹
2002年以来、編集記者や編集長などとしてメディアビジネスに携わる。インプレス、アイティメディアと転職し、2013年にEngadget日本版の編集長に就任。 その後スマートニュースに転職。国内トップクラスの機械学習を活用したアプリ開発会社においてビジネス開発として活躍。2021年からはフリーランスとして独立、IBM、Google などのオウンドメディアをサポートしている。

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