ハロの機能を、ハロのサイズに収められるか?
自分のことをちゃんと覚えていて、自然言語で会話できるAI。ここまでくれば、ハロの実現まであと一歩だ。残る問題は、これまで紹介してきたような機能を、「直径40cm程度の球形」という小さな筐体に納められるか、という点だ。
ハロよりもずっと小さいスマホ上でChatGPTが動いているのだから、特に問題はないだろう——そう思うかもしれない。しかしスマホの場合は、処理の多くを「クラウド」、すなわち無線通信でつながることのできる、ネットワーク上のコンピューティング環境に依存している。超強力なクラウドと、高速の無線通信環境さえあれば、端末の大きさはさほど気にする必要はないのだ。
ハロよりもずっと小さいスマホ上でChatGPTが動いているのだから、特に問題はないだろう——そう思うかもしれない。しかしスマホの場合は、処理の多くを「クラウド」、すなわち無線通信でつながることのできる、ネットワーク上のコンピューティング環境に依存している。超強力なクラウドと、高速の無線通信環境さえあれば、端末の大きさはさほど気にする必要はないのだ。
シャープ×京都芸術大学の共同開発。生成AIとの自然な会話を実現する新ウェアラブルデバイス『Neighbuddy(ネイバディ)』
via www.youtube.com
例えばこの動画は、シャープと京都芸術大学が共同開発している「Neighbuddy(ネイバディ)」という首かけ型AIのイメージ映像だ。約100gという軽量の筐体に、周囲の環境を認識するAIや、自然言語でユーザーとコミュニケーションする能力、さらにユーザーに関する記憶の保持機能まで備わっている。この小ささでここまでの高性能を実現できているのは、端末がネットワークに接続する機能を有しているからである。
ハロはクラウド対応しているのか?
しかしハロには、クラウドを活用しているような描写は見られない。さらに本連載のVol.1でも触れたとおり、ガンダム世界には「ミノフスキー粒子」という架空の物質が存在し、これが散布されるとレーダーや無線通信が使えなくなる設定がある。全ての無線通信が不可能になるわけではないようだが、戦場や戦時下の市街地で常時接続を期待するのは難しいだろう。さすがのハロとはいえ、一民間人が自作したロボットが、好きな時にクラウド上のAIにつながるわけにはいかないはずだ。
ではどうするか。答えは単純で、直径40cm程度の球体そのものに、AI機能を搭載してしまえばいい。もちろんクラウドに頼らず自立して稼働する高性能なAIを、40cmの球体に搭載するのは、簡単な話ではない。しかし近年の技術革新により、そうした小型化も実現可能になりつつある。
ではどうするか。答えは単純で、直径40cm程度の球体そのものに、AI機能を搭載してしまえばいい。もちろんクラウドに頼らず自立して稼働する高性能なAIを、40cmの球体に搭載するのは、簡単な話ではない。しかし近年の技術革新により、そうした小型化も実現可能になりつつある。
AIをダイエットさせる「SLM」と「量子化」
一般的な高性能AIには、非常に巨大なコンピューター資源と電力が必要だ。そのため、これらを小さな筐体に収めるためには、AIそのものを「ダイエット」させる工夫が求められる。そこで近年注目されているのが、「SLM」と「量子化」だ。
ChatGPTのような最近主流の生成AIの多くは、LLM(Large Language Model、大規模言語モデル)と呼ばれるAIモデルが使用されている。LLMは数千億から数兆ものパラメータ(AIが学習した知識量の指標)を持ち、その処理には膨大な計算能力と電力が必要だ。
これに対し、SLM(Small Language Model、小規模言語モデル)は、パラメータ数を大幅に削減することで、LLMほどの計算能力と電力を必要としない。そのぶん、全体的な性能では劣ってしまうが、特定のタスクやテーマに絞れば、LLMに匹敵するあるいはそれに近い性能を発揮できる。例えるなら、百科事典を丸ごと持ち歩くLLMに対し、専門書だけを持ち歩くのがSLMといったイメージだ。
AIモデルに使われるパラメータは、通常、非常に精密な数値データ(浮動小数点数)で表現されている。だがこの精密さゆえに、メモリを大量に消費し、計算にも時間がかかってしまう。そこで注目されているのが「量子化」だ。これは、そうした精密な数値を、整数などのより簡潔な数値に変換する技術だ。
量子化は、例えるなら非常に複雑な絵画を、色数を減らしてシンプルに表現するようなものだ。情報の一部は失われるものの、人間にはほとんど区別がつかない程度にとどまり、そのぶんファイルサイズを大幅に圧縮できる。結果として、AIモデルはより小さくなり、省電力な小型コンピューターでも高速な動作が可能になる。
ChatGPTのような最近主流の生成AIの多くは、LLM(Large Language Model、大規模言語モデル)と呼ばれるAIモデルが使用されている。LLMは数千億から数兆ものパラメータ(AIが学習した知識量の指標)を持ち、その処理には膨大な計算能力と電力が必要だ。
これに対し、SLM(Small Language Model、小規模言語モデル)は、パラメータ数を大幅に削減することで、LLMほどの計算能力と電力を必要としない。そのぶん、全体的な性能では劣ってしまうが、特定のタスクやテーマに絞れば、LLMに匹敵するあるいはそれに近い性能を発揮できる。例えるなら、百科事典を丸ごと持ち歩くLLMに対し、専門書だけを持ち歩くのがSLMといったイメージだ。
AIモデルに使われるパラメータは、通常、非常に精密な数値データ(浮動小数点数)で表現されている。だがこの精密さゆえに、メモリを大量に消費し、計算にも時間がかかってしまう。そこで注目されているのが「量子化」だ。これは、そうした精密な数値を、整数などのより簡潔な数値に変換する技術だ。
量子化は、例えるなら非常に複雑な絵画を、色数を減らしてシンプルに表現するようなものだ。情報の一部は失われるものの、人間にはほとんど区別がつかない程度にとどまり、そのぶんファイルサイズを大幅に圧縮できる。結果として、AIモデルはより小さくなり、省電力な小型コンピューターでも高速な動作が可能になる。
人の心に寄り添うコンパニオンロボット
そのほかにも、スマホなどに搭載されているような、AIの計算に特化した高性能な小型チップを活用することで、省電力と高速なAI処理を両立させる手法がある。こうした技術を組み合わせれば、ハロくらいの小さな筐体という限られた物理空間と電力制約の中で、まるでクラウド型のAIのように、人間と自然なコミュニケーションができるスタンドアロン型のAIロボットを実現できるだろう。
今では、人と対話し、感情を伝え、癒しや安心感を与えてくれるロボットは「コンパニオンロボット」と呼ばれている。高齢者の見守りや子どもの遊び相手として、日常生活のパートナーになることが期待されており、単なる機械ではなく、まさに人の心に寄り添う存在として注目を集めている。
例えば米国では、Amazonが提供する音声アシスタント「Alexa(アレクサ)」の進化版「Alexa+(アレクサプラス)」の導入が先行しており、日本でも2025年後半に提供が予定されている。現実の世界でも、単なる情報提供にとどまらず、よりパーソナルな会話やユーザーの感情を理解した応答が可能になりつつある。疲れた声で話しかけると励ましの言葉を返し、喜びを表現すれば一緒に祝ってくれるなど、まるで親しい友人のような対話が実現している。
GoogleやAppleも、感情を認識する機能を備えたAIアシスタントの開発を進めているとされ、音声アシスタントは単なるツールから、人びとの日常に寄り添うパートナーへと進化を遂げようとしている。
今では、人と対話し、感情を伝え、癒しや安心感を与えてくれるロボットは「コンパニオンロボット」と呼ばれている。高齢者の見守りや子どもの遊び相手として、日常生活のパートナーになることが期待されており、単なる機械ではなく、まさに人の心に寄り添う存在として注目を集めている。
例えば米国では、Amazonが提供する音声アシスタント「Alexa(アレクサ)」の進化版「Alexa+(アレクサプラス)」の導入が先行しており、日本でも2025年後半に提供が予定されている。現実の世界でも、単なる情報提供にとどまらず、よりパーソナルな会話やユーザーの感情を理解した応答が可能になりつつある。疲れた声で話しかけると励ましの言葉を返し、喜びを表現すれば一緒に祝ってくれるなど、まるで親しい友人のような対話が実現している。
GoogleやAppleも、感情を認識する機能を備えたAIアシスタントの開発を進めているとされ、音声アシスタントは単なるツールから、人びとの日常に寄り添うパートナーへと進化を遂げようとしている。
Alexa+の紹介動画(Meet Alexa+, our next-generation AI assistant)
via www.youtube.com
Alexa+は、まさに家庭における「コンパニオンAI」としての役割を担い始めているといえるだろう。将来的にはこうしたAIが、ハロのような自律型ロボットに搭載されることで、より高度なコンパニオンロボットが実現する可能性もある。
ガンダムシリーズに登場するハロも、主人公たちに寄り添うコンパニオンロボットのような存在だ。だからこそシリーズを通して登場してきたのだろう。さまざまな技術的課題はあれど、そうした存在を求める声がハロを現実のものにするのではないだろうか。
ガンダムシリーズに登場するハロも、主人公たちに寄り添うコンパニオンロボットのような存在だ。だからこそシリーズを通して登場してきたのだろう。さまざまな技術的課題はあれど、そうした存在を求める声がハロを現実のものにするのではないだろうか。

小林 啓倫
経営コンサルタント
1973年東京都生まれ、獨協大学外国語学部卒、筑波大学大学院修士課程修了。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米バブソン大学にてMBAを取得。その後外資系コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業などで活動。著書に『FinTechが変える!金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』(朝日新聞出版)、『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『ソーシャル物理学』(アレックス・ペントランド著、草思社)、『シンギュラリティ大学が教える 飛躍する方法』(サリム・イスマイル著、日経BP)など多数。