シマシマのウシ、花粉症対策にキス?なぜか日本人が19年連続受賞、イグ・ノーベル賞のあれこれ

花森 リド

Specialカルチャー

イグ・ノーベル賞2025、今年も日本人が受賞

毎年、ノーベル賞よりもちょっぴり早く発表されるイグ・ノーベル賞。ノーベル賞のパロディであり、その年最も「人びとを笑わせ、そして考えさせてくれた研究」に贈られる賞です。賞金はなんと10兆ジンバブエ・ドル(すでに流通していない通貨であり、日本円にして0円)。

受賞部門には物理学・化学・文学・平和など“本家”ノーベル賞とかぶっているテーマもあれば、「心理学賞」や「流体力学賞」、それから「昆虫学賞」といったイグ・ノーベル独自の賞が随時、いい感じに足し引きされています。イグ・ノーベル賞では経済学賞は年によってあったりなかったりです。

そうした側面だけを見ると、実にユルくテキトーな賞に思えますが、イグ・ノーベル賞委員会のメンバーは科学誌の編集者、ジャーナリスト、そしてノーベル賞受賞者など、科学のスペシャリストたち。彼らがちゃんと書類選考を行い、セレクトしています。エントリーにあたっては自薦・他薦を問わないが、シビアに選考されているようです。

さらにいうと、受賞の公式基準である「人びとを笑わせ、そして考えさせてくれる研究」の
「笑わせ」とは、「クスッと笑えること」だけを指しているのではないあたりに、イグ・ノーベル賞らしさがあると私は思います。

例えば2020年の「医学教育賞」を受賞したのは、米国やブラジルの大統領などでした。受賞理由は「新型コロナウイルスのパンデミックによって、医師や科学者よりも、政治家のほうが、人びとの生死に影響を与えることを世界に知らしめたから」です。痛烈な皮肉であり、手厳しい批判といえます。

そんな知性とユーモアで構成されたイグ・ノーベル賞をウッカリもらってしまった側は、必ずしも「ありがた迷惑」でもないようで、受賞したほとんどの科学者は「まあ、ある意味では名誉なこと」としているようです。

授賞式では受賞スピーチが60秒で強制的に切り上げられ、最後は壇上にいるみんなで紙飛行機を飛ばしたりして、なんだか楽しそう。まあ、確かめるまでもなく、2020年の医学教育賞受賞者たちは誰も授賞式に現れなかったでしょうが。とにかく、ちゃんとその時代にふさわしい取り組みが選ばれ、スポットが当てられる賞なのです。

さて、そんなイグ・ノーベル賞を獲得しまくっている国があります。日本です。2025年もキッチリ受賞し、なんと19年連続受賞です。

ということで、イグ・ノーベル受賞常連国こと日本の受賞歴のうち、個人的にお気に入りのいくつかを紹介します。

シマシマに塗られてしまったウシ

2025年のイグ・ノーベル賞では、農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)を中心とした研究グループの研究が生物学賞に選ばれました。テーマは「牛にシマウマ風の縞を描くと、ハエに刺されにくくなる」。これは、黒いウシに、シマウマのような模様を白くペイントすると、アブやサシバエなどの吸血昆虫に刺されにくくなる……というもの。

シマウマのようなウシとは、こういう状態のウシをいいます。

ものすごく胴回りの太いシマウマに見えるが、お顔はウシ 出典:「Cows painted with zebra-like striping can avoid biting fly attack」Tomoki Kojima; Juan J. Loor; Kazato Oishi; Yasushi Matsubara; Yuki Uchiyama; Yoshihiko Fukushima; Naoto Aoki; Say Sato; Tatsuaki Masuda; Junichi Ueda et al.

おなかや足にペタペタと塗料を塗られているとき、ウシは「これは何事だろうか」と思ったかもしれませんし、シマウマ模様なのにズッシリとした体格のウシは、なんともいえないかわいらしさがあります。

ただ、これは大真面目な研究なんですよね。論文によると「(ウシをシマウシにすることで)吸血バエの付着数が約半分に減った」そうです。万が一塗り忘れてしまったら、そこだけアブや吸血バエの攻撃を受けるのでしょうか。「耳なし芳一」みたいですね。

この効果の理由は「白黒のシマシマ模様は、ハエの視覚認識を妨げる“錯乱効果”をもたらすのでは」と考えられており、「殺虫剤を使わずに牛を守る、環境に優しい害虫回避法として期待できる」とのこと。

そもそもアブに刺されたらとても痛くてかゆいことは、同じ哺乳類として私も共感できます。いつか実用化されて、シマウマ模様のウシがたくさん放牧されている風景も拝めるかもしれません。そのときは「ヘンなの」なんて笑わず「アブから守られているのだな」と見守ってあげましょう。

ちなみにウシ関連では、2007年に国立国際医療センター研究所の山本麻由氏が「ウシのふんからバニラ香料を抽出する研究」で化学賞を受賞しています。何もかもを人間にささげてしまうウシの献身的な万能さに頭が下がります。大事にしたい。

そうそう、私が個人的に大好きな“ウシつながり”のイグ・ノーベル賞でいうと、2009年、イグ・ノーベル賞の獣医学賞を受賞した「名前をつけられたウシは、名無しのウシよりも牛乳をたくさん出す」も見逃せません。こちらは日本ではなく、イギリスのニューカッスル大学の研究者による発見です。ウシは、人間から名前をもらって大切にかわいがられると、その愛を牛乳でお返ししてくれるということでしょうか。ウシ、いいやつすぎる。
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花森 リド

ライター・コラムニスト
主にゲーム、マンガ、書籍、映画、ガジェットに関する記事をよく書く。講談社「今日のおすすめ」、日経BP「日経トレンディネット」「日経クロステック(xTECH)」、「Engadget 日本版」、「映画秘宝」などで執筆。
X:@LidoHanamori

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