声が大きく、話が長い人を黙らせるマシン
2012年に音響学賞を受賞したのは、津田塾大学教授の栗原一貴氏と公立はこだて未来大学教授の塚田浩二氏による「SpeechJammer:聴覚遅延フィードバックを利用した発話阻害の応用システム」。平たくいうと「話の長い人や声の大きな邪魔な人を黙らせる機械の発明」です。これも思わずニッコリしてしまう研究です。
栗原氏の研究ページによると「『声の大きい人が勝つ』と俗に言われるような、特定の人物だけに言論が占有される不公平を払拭したいと考え、本研究をスタートさせた」とのこと。
この研究に世界のイグ・ノーベル賞が贈られたということは「アイツは話が長いし、声も大きい。端的に言って邪魔である」という思いも「『うるさいからちょっと黙ってよ〜!』って言いづらいなあ」なんていう気まずい時間も、グローバルな課題である、といえます。
そして「SpeechJammer」という名称が「スピーチ・邪魔」と掛けられている点にも、イグ・ノーベル賞らしいチャーミングさを感じます。
おしゃべり黙らせマシンことSpeechJammerは、人の声をほんの数秒間だけ遅延させて、話している本人の耳に届けると、その人がうまく話せなくなる仕組みを利用したものです。確かに大きなホールでスピーチをするときに、反響する自分の声に気を取られるとヘンテコな気分になりますよね。
栗原氏の研究ページによると「『声の大きい人が勝つ』と俗に言われるような、特定の人物だけに言論が占有される不公平を払拭したいと考え、本研究をスタートさせた」とのこと。
この研究に世界のイグ・ノーベル賞が贈られたということは「アイツは話が長いし、声も大きい。端的に言って邪魔である」という思いも「『うるさいからちょっと黙ってよ〜!』って言いづらいなあ」なんていう気まずい時間も、グローバルな課題である、といえます。
そして「SpeechJammer」という名称が「スピーチ・邪魔」と掛けられている点にも、イグ・ノーベル賞らしいチャーミングさを感じます。
おしゃべり黙らせマシンことSpeechJammerは、人の声をほんの数秒間だけ遅延させて、話している本人の耳に届けると、その人がうまく話せなくなる仕組みを利用したものです。確かに大きなホールでスピーチをするときに、反響する自分の声に気を取られるとヘンテコな気分になりますよね。

おしゃべり黙らせマシン「SpeechJamme」の仕組み 出典:栗原一貴「SpeechJammer:聴覚遅延フィードバックを利用した発話阻害の応用システム」
ちなみにSpeechJammerの実用化は考えられていないそうですが、研究ページでWindows版の無料ソフトが公開されています。「円滑な対話のためにはモラルとルールが必要」という栗原氏のメッセージに思いをはせながら、そしてうるさい人の顔を思い浮かべながら、ちょっと試してみるのもいいかもしれませんね。
花粉症を治す「スーパーハッピー」な方法
最後に、いろんな人にとって他人ごとではなさそうな分野にも、イグ・ノーベル賞が光を当てていることを紹介します。
2015年の医学賞に輝いたのは、日本のアレルギー専門医・木俣肇氏による「キスはアレルギー反応を抑え、神経栄養因子を減らす」という研究です。要は、キスや親密な行為でアレルギー症状が緩和されるというもの。
キスなんてお安い御用……と思いきや「密室で30分、穏やかな音楽が流れている中、ひたすら口づけを交わし続ける」というのが、木原氏の研究でのキスなのです。めちゃくちゃ重い! でも、この濃密な行為や愛情表現を経ると、抗原特異的反応と呼ばれるアレルギー反応が弱まるそうです。
この実験のために、アレルギー持ちではない健康な人30名、通年性のアレルギー性鼻炎に悩む人を30名、そしてアトピー性皮膚炎の人を30名集め、カップルや夫婦で密室に入ってもらい、キス実験を決行したそう。その様子を想像するだけでなんだか愉快&ハッピーな気分になってきますね。で、健康な人は30分濃密な時間を過ごしても、とくに変化は起こりませんでした(心はハッピーになったかもしれません)が、アレルギー症状に悩む人は、キスの後に血液を調べると、アレルギー反応の改善が確認できたそうです。
ちなみにキスよりもマイルドな愛情表現である「ハグ」を同じ条件で試してもらったところ、ハグにはアレルギー症状を緩和させるほどの威力はなかったそうで、つまり「キス以上の親密なこと」が鍵になるそうです。キス&ラブパワー強し。
2015年の医学賞に輝いたのは、日本のアレルギー専門医・木俣肇氏による「キスはアレルギー反応を抑え、神経栄養因子を減らす」という研究です。要は、キスや親密な行為でアレルギー症状が緩和されるというもの。
キスなんてお安い御用……と思いきや「密室で30分、穏やかな音楽が流れている中、ひたすら口づけを交わし続ける」というのが、木原氏の研究でのキスなのです。めちゃくちゃ重い! でも、この濃密な行為や愛情表現を経ると、抗原特異的反応と呼ばれるアレルギー反応が弱まるそうです。
この実験のために、アレルギー持ちではない健康な人30名、通年性のアレルギー性鼻炎に悩む人を30名、そしてアトピー性皮膚炎の人を30名集め、カップルや夫婦で密室に入ってもらい、キス実験を決行したそう。その様子を想像するだけでなんだか愉快&ハッピーな気分になってきますね。で、健康な人は30分濃密な時間を過ごしても、とくに変化は起こりませんでした(心はハッピーになったかもしれません)が、アレルギー症状に悩む人は、キスの後に血液を調べると、アレルギー反応の改善が確認できたそうです。
ちなみにキスよりもマイルドな愛情表現である「ハグ」を同じ条件で試してもらったところ、ハグにはアレルギー症状を緩和させるほどの威力はなかったそうで、つまり「キス以上の親密なこと」が鍵になるそうです。キス&ラブパワー強し。
人びとを笑わせ、そして考えさせてくれる
研究タイトルを読むだけで笑ってしまうようなイグ・ノーベル賞ですが、研究者たちは大真面目に調査をして、論文にまとめ、世に発表しています。
だからなのか、イグ・ノーベル賞には「はずれ年」がないんですよね(科学者がちゃんと受賞者を選んでいるから、ともいえますが)。毎年毎年面白い。そして「すごい!なんてエポックメイキングなんだ!」なんてちっとも思えなくても、「なぜそんなことを調べようと思ったのか」と笑っちゃっても、何かが心にひっかかります。
「なぜ」とひとしきり笑ったあとで「いつか、ウシがかゆい思いをしなくてすむ日がくるのだろうか。シマシマ模様がウシ的に本意ではないとしても、かゆくないほうがいいよなあ」なんて、真顔で考えてしまうんです。私がウシを飼っているわけでもないのに。
「笑える」ということは「ずぶの素人の私にもわかる部分がある」ともいえます。少なくとも「シマウマみたいな模様のウシと、アブの戦い」と「青色発光ダイオードと半導体のつながり」とを比べれば、とりあえず前者の方がパッと絵が思い浮かぶわけです。そこからどんどん派生して、なんだか研究者を応援したくなる。それがイグ・ノーベル賞の魅力だと思います。
だからなのか、イグ・ノーベル賞には「はずれ年」がないんですよね(科学者がちゃんと受賞者を選んでいるから、ともいえますが)。毎年毎年面白い。そして「すごい!なんてエポックメイキングなんだ!」なんてちっとも思えなくても、「なぜそんなことを調べようと思ったのか」と笑っちゃっても、何かが心にひっかかります。
「なぜ」とひとしきり笑ったあとで「いつか、ウシがかゆい思いをしなくてすむ日がくるのだろうか。シマシマ模様がウシ的に本意ではないとしても、かゆくないほうがいいよなあ」なんて、真顔で考えてしまうんです。私がウシを飼っているわけでもないのに。
「笑える」ということは「ずぶの素人の私にもわかる部分がある」ともいえます。少なくとも「シマウマみたいな模様のウシと、アブの戦い」と「青色発光ダイオードと半導体のつながり」とを比べれば、とりあえず前者の方がパッと絵が思い浮かぶわけです。そこからどんどん派生して、なんだか研究者を応援したくなる。それがイグ・ノーベル賞の魅力だと思います。

花森 リド
ライター・コラムニスト
主にゲーム、マンガ、書籍、映画、ガジェットに関する記事をよく書く。講談社「今日のおすすめ」、日経BP「日経トレンディネット」「日経クロステック(xTECH)」、「Engadget 日本版」、「映画秘宝」などで執筆。
X:@LidoHanamori