「AI」と「匠の技」が支える、グローバル展開に向けた生産性と信頼性の取り組み
グローバル展開をさらに進めるためには、大幅な増産体制の構築だけでなく、信頼性を担保するための取り組みも重要です。実際にどのような取り組みを進めているのかを工場見学から紹介します。
まず注目したいのが、コア技術である「精密鍛造刃」と「リニアモーター」です。シェーバーでユーザーの肌に触れる「外刃」では、日本刀の鍛造製法から学んだ精密鍛造刃を採用しています。ヒゲをとらえるために、紙厚の半分ほどの超薄板金に1300個もの穴を空けます。外刃の穴の開き具合や、変形・欠けなどの不具合を確認するために行う「開孔検査」は従来、「検査の匠」と呼ばれる熟練の検査員が全てを目視で検査していました。
まず注目したいのが、コア技術である「精密鍛造刃」と「リニアモーター」です。シェーバーでユーザーの肌に触れる「外刃」では、日本刀の鍛造製法から学んだ精密鍛造刃を採用しています。ヒゲをとらえるために、紙厚の半分ほどの超薄板金に1300個もの穴を空けます。外刃の穴の開き具合や、変形・欠けなどの不具合を確認するために行う「開孔検査」は従来、「検査の匠」と呼ばれる熟練の検査員が全てを目視で検査していました。

検査の匠による全数目視検査の様子
そこで2023年には、匠の技に加えて「全自動ディープラーニング画像検査装置」を導入。7台の4Kカメラによる画像をAIで分析することで、検査の自動化を実現しました。ラムダッシュシリーズの多くを製造する彦根工場では、製造する外刃のうち約7割の品種、数では半数以上の検査を全自動ディープラーニング画像検査装置で行っており、それ以外のみ匠の検査員が行うことで、検査効率を約50%向上させたのだそうです。

2023年に導入した全自動ディープラーニング画像検査装置
全自動ディープラーニング画像検査装置には、微細な欠陥が見えるように7系統のカメラが用いられています。撮影された画像は、まず高速に処理できるルールベースのソフトウェアで欠陥を判定します。良品か不良品か不明な結果の場合には、ディープラーニングの結果を用いてAIで検査する「ハイブリッド判定処理」を採用しています。このディープラーニングには、匠の検査員がOKにした画像を教師データとしてAIに学習させています。。
パナソニック くらしアプライアンス社 ビューティ・パーソナルケア事業部 パーソナルBUビジネスユニット長の西田泰章氏は開発の苦労について次のように語りました。
「ディープラーニングの手法で、良品と不良品のありとあらゆる画像を読み込ませると非常に重たいシステムになってしまいます。そこで典型的な7つの不良パターンによるルールベースに加えて、パターンに当てはまらないNG画像だけを100種類ほどAIに読み込ませたディープラーニングのハイブリッド方式を採用しました」(西田氏)
さらに、「匠の技を継承したため、見落としはありません」と担当者は自信を見せました。
「検査機は不良品と判定しても、検査員は良品と判定する場合もある程度許しながら、見逃しがないように設定しています」(担当者)
AI検査装置があれば匠の検査員は必要なくなるのでは……と考えてしまいますが、決してそんなことはないそうです。
「匠の検査員は、検査装置の師匠になります。ですから、今後すべての検査ワークをAI処理できるようになったとしても、AIに教える先生は絶対に必要です。いま検査をしている人間の技術は、その次の世代へと継承していくつもりです」(担当者)
パナソニック くらしアプライアンス社 ビューティ・パーソナルケア事業部 パーソナルBUビジネスユニット長の西田泰章氏は開発の苦労について次のように語りました。
「ディープラーニングの手法で、良品と不良品のありとあらゆる画像を読み込ませると非常に重たいシステムになってしまいます。そこで典型的な7つの不良パターンによるルールベースに加えて、パターンに当てはまらないNG画像だけを100種類ほどAIに読み込ませたディープラーニングのハイブリッド方式を採用しました」(西田氏)
さらに、「匠の技を継承したため、見落としはありません」と担当者は自信を見せました。
「検査機は不良品と判定しても、検査員は良品と判定する場合もある程度許しながら、見逃しがないように設定しています」(担当者)
AI検査装置があれば匠の検査員は必要なくなるのでは……と考えてしまいますが、決してそんなことはないそうです。
「匠の検査員は、検査装置の師匠になります。ですから、今後すべての検査ワークをAI処理できるようになったとしても、AIに教える先生は絶対に必要です。いま検査をしている人間の技術は、その次の世代へと継承していくつもりです」(担当者)
パームインはコンパクトなため、新たに転倒試験も実施
製品作りにおいては、長年にわたって故障・破損せずに使い続けられることを確認するための品質評価試験も重要です。パナソニックのシェーバーでは200を超える評価試験を実施していますが、今回は、その中から外刃が正確に上下することを確認するフロート寿命試験、ヘッドがさまざまな方向に動くことを確認するスイング寿命試験、水流に耐えられることを確認する流水試験、さらにパームインシリーズの登場で新たに加わった転倒試験の4つを紹介します。
フロート寿命試験とスイング寿命試験は、6枚刃や5枚刃のシェーバーが搭載する「密着5Dヘッド」というヘッド部分が過酷な動きでも壊れないことを確認するための試験です。
フロート寿命試験とスイング寿命試験は、6枚刃や5枚刃のシェーバーが搭載する「密着5Dヘッド」というヘッド部分が過酷な動きでも壊れないことを確認するための試験です。

密着5Dヘッドを動かし続けるフロート寿命試験の様子

こちらはスイング寿命試験の様子
流水試験は、強い水流によって本体の防水性を確認する試験です。通常の家庭で使われている水道圧で最も強いと想定される水圧で試験しているそうです。

強い水流で本体の防水性を確認する流水試験の様子
転倒試験は、コンパクトなパームインシリーズ向けのものです。非常にコンパクトなため、商品が転がったり落としたりすることが頻繁に起こり得るため、その品質を確保するための試験なのだそうです。

ひたすらパームインシリーズを左右に落とす転倒試験の様子
リニアモーターの組み立て工程では協働ロボットも稼働
2025年の夏前には、シェーバーの心臓部であるリニアモーターを自動で組み立てる「リニアモーター新自動機組立機」の稼働も開始しました。

リニアモーターを自動で組み立てる「リニアモーター新自動機組立機」
シェーバーに搭載しているリニアモーターに、マグネットを接着して樹脂成形部品の取り付け後に自動で検査を行い、次工程に流すというものです。
「従来の設備よりも生産できる製品種類を拡充し、生産能力も従来から約10%向上しました。また多品種に対応するため、品番の切り替え時間も従来の約5分の1へと短縮しています」(担当者)
「従来の設備よりも生産できる製品種類を拡充し、生産能力も従来から約10%向上しました。また多品種に対応するため、品番の切り替え時間も従来の約5分の1へと短縮しています」(担当者)

組み立てだけでなく、検査も自動機組立機内で行います
従来のグリップ式シェーバーは作業工程が23工程ありましたが、パームインシリーズは作業工程を19工程まで約20%削減しました。
ここまで見てきたように、さまざまな製造工程を削減したことに加え、同社では製造ラインも見直し、従来のI字形から、スペースの有効活用とさらなる生産性向上を両立するU字形を採用しました。また、人と一緒に作業する協働ロボットを、パームインシリーズで初めて3台採用。グリップ式と比べて約25%の生産性の向上を実現しました。さらに製造ラインの面積も約30%削減したとのことです。
製造ラインでは、半完成品と呼ばれる部品を協働ロボットが取り出し、ハンダ付け工程や自動電流検査、組み立て、最終外観検査、人による検査などを経て梱包作業に移る様子を見学しました。
ここまで見てきたように、さまざまな製造工程を削減したことに加え、同社では製造ラインも見直し、従来のI字形から、スペースの有効活用とさらなる生産性向上を両立するU字形を採用しました。また、人と一緒に作業する協働ロボットを、パームインシリーズで初めて3台採用。グリップ式と比べて約25%の生産性の向上を実現しました。さらに製造ラインの面積も約30%削減したとのことです。
製造ラインでは、半完成品と呼ばれる部品を協働ロボットが取り出し、ハンダ付け工程や自動電流検査、組み立て、最終外観検査、人による検査などを経て梱包作業に移る様子を見学しました。

パームインシリーズを組み立てるU字形の製造ラインの様子

左側では、協働ロボットが3台稼働しています
梱包作業では、作業支援カメラによって取扱説明書などの抜け漏れがないかを確認しながら作業を進め、重量検査をして箱詰めから最終出荷へと進みます。

安蔵 靖志
Techジャーナリスト/家電エバンジェリスト
家電製品協会認定 家電製品総合アドバイザー(プラチナグレード)、スマートマスター。AllAbout デジタル・家電ガイド。ビジネス・IT系出版社を経てフリーに。デジタル家電や生活家電に関連する記事を執筆するほか、家電のスペシャリストとしてテレビやラジオ、新聞、雑誌など多数のメディアに出演。KBCラジオ「キャイ~ンの家電ソムリエ」にレギュラー出演するほか、ラジオ番組の家電製品紹介コーナーの商品リサーチ・構成にも携わっている。