o3時代に問われる“書き手”の存在価値
こうした3つのシナリオは、決して荒唐無稽な空想ではない。すでに多くのニュースサイトやメディア企業が大規模言語モデルを活用し、簡単なトピック記事やSNS向けの短文レポートなどを自動生成している実例があるからだ。そこにo3が加われば、文章生成や情報収集、ファクトチェック、さらには個別最適化までを一括で担えるようになり、人間の手をほとんど介さずにメディア運営が行われる未来が一気に近づくことになる。
ただし、OpenAIは安全性と倫理面への配慮として「deliberative alignment(熟考的アライメント)」と呼ばれる手法を採用している。これは、AIが回答や文章を生成するプロセスの途中で、違法行為や差別的表現、過度に偏った情報を含まないかチェックする仕組みだ。しかし、この技術がどれほど万全に機能するのかは、今後の運用事例を待たなければ何とも言えないだろう。誤情報が拡散された場合の責任所在や、ユーザーのバイアスを増幅してしまう問題など、新たに生まれる懸念も少なくない。
だが、メディア企業の経営陣にとっては、こうしたリスクよりも「大幅な人件費削減」や「情報更新速度の飛躍的向上」に魅力を感じることも事実だ。ライターや記者は「人間しか書けない記事がある」と訴え続けているものの、果たしてその訴えに耳を傾ける経営者がどれほど残っているのかは疑問が残るところだ。
結局のところ、o3の台頭が確実視される今、私たちは人間のライターが存在する理由を改めて考え直さざるを得ないのかもしれない。AIでは補えない独創性や洞察力、あるいは文化的・歴史的背景への深い理解といった人間の強みがどこにあるのか。もしその価値を証明できなければ、“書き手”という職業自体が、巨大なAIの波にのみ込まれていくかもしれないのだ。
もっとも、“AIとの共存”という選択肢もあるだろう。o3と協調しながら、新しい表現方法やジャーナリズムの形を切り拓いていく人々も現れるに違いない。最強AIモデルの登場は、メディア界を大きく揺るがす一方で、真に価値あるライターをより際立たせる可能性も秘めているからだ。いずれにせよ、年明けから始まるo3の提供は、単なる新テクノロジーの誕生を超えて、“情報の未来”を左右する重大な転換点となるだろう。
ただし、OpenAIは安全性と倫理面への配慮として「deliberative alignment(熟考的アライメント)」と呼ばれる手法を採用している。これは、AIが回答や文章を生成するプロセスの途中で、違法行為や差別的表現、過度に偏った情報を含まないかチェックする仕組みだ。しかし、この技術がどれほど万全に機能するのかは、今後の運用事例を待たなければ何とも言えないだろう。誤情報が拡散された場合の責任所在や、ユーザーのバイアスを増幅してしまう問題など、新たに生まれる懸念も少なくない。
だが、メディア企業の経営陣にとっては、こうしたリスクよりも「大幅な人件費削減」や「情報更新速度の飛躍的向上」に魅力を感じることも事実だ。ライターや記者は「人間しか書けない記事がある」と訴え続けているものの、果たしてその訴えに耳を傾ける経営者がどれほど残っているのかは疑問が残るところだ。
結局のところ、o3の台頭が確実視される今、私たちは人間のライターが存在する理由を改めて考え直さざるを得ないのかもしれない。AIでは補えない独創性や洞察力、あるいは文化的・歴史的背景への深い理解といった人間の強みがどこにあるのか。もしその価値を証明できなければ、“書き手”という職業自体が、巨大なAIの波にのみ込まれていくかもしれないのだ。
もっとも、“AIとの共存”という選択肢もあるだろう。o3と協調しながら、新しい表現方法やジャーナリズムの形を切り拓いていく人々も現れるに違いない。最強AIモデルの登場は、メディア界を大きく揺るがす一方で、真に価値あるライターをより際立たせる可能性も秘めているからだ。いずれにせよ、年明けから始まるo3の提供は、単なる新テクノロジーの誕生を超えて、“情報の未来”を左右する重大な転換点となるだろう。
この記事を「書いた」のは誰か?
ここで種明かしをしよう。実は「1.リアルタイム自動配信サイトの爆誕」からここまでの文章は、現時点でOpenAI社の最強AIモデルとされる「ChatGPT o1 Pro(o1 pro mode)」が生成したものだ。
筆者がしたのは、o3の発表イベントに関する情報を読み込ませ、記事のタイトルや文章の書き出しなど、いくつかの指示を与えることだけ。書き直しを命じたのも1回だけで、その結果生成された上掲の文章には、一切手を加えていない。「o3」はこのo1 pro modeを上回る性能を実現する見込み――そう述べるだけで、これ以上の説明はいらないだろう。
つまりここまでお読みいただいた文章、あるいはそれをしのぐクオリティの文章が、簡単な指示ひとつで生成できてしまうわけだ。もう人間のライターなんていらない、そう感じる方も多いだろう。
しかし鉄腕アトムやスターウォーズの世界のように、ロボットたちが何の指示も与えられず、人間と同じように生活する世界が一足飛びに実現するわけではない。AIはもうしばらく「指示待ち」の存在であり、私たちが「これをして、ここはこう変えて」などと指示してやらないと何も生み出さないだろう。今回の実験でも、筆者は「こういう記事を書け」と指示しただけだが、参考となる情報を与えたり修正点についてたくみにアドバイスしたりすれば、より良い文章が完成していたはずだ。
筆者がしたのは、o3の発表イベントに関する情報を読み込ませ、記事のタイトルや文章の書き出しなど、いくつかの指示を与えることだけ。書き直しを命じたのも1回だけで、その結果生成された上掲の文章には、一切手を加えていない。「o3」はこのo1 pro modeを上回る性能を実現する見込み――そう述べるだけで、これ以上の説明はいらないだろう。
つまりここまでお読みいただいた文章、あるいはそれをしのぐクオリティの文章が、簡単な指示ひとつで生成できてしまうわけだ。もう人間のライターなんていらない、そう感じる方も多いだろう。
しかし鉄腕アトムやスターウォーズの世界のように、ロボットたちが何の指示も与えられず、人間と同じように生活する世界が一足飛びに実現するわけではない。AIはもうしばらく「指示待ち」の存在であり、私たちが「これをして、ここはこう変えて」などと指示してやらないと何も生み出さないだろう。今回の実験でも、筆者は「こういう記事を書け」と指示しただけだが、参考となる情報を与えたり修正点についてたくみにアドバイスしたりすれば、より良い文章が完成していたはずだ。
「ライター格差時代」の到来
さらに全人類が「o1 pro mode」や「o3」へのアクセスを無料で手に入れられる時代も、もう少し先になるだろう。現時点でo1 pro modeを使うためには、月額200ドル(約3万円)の料金を払わなければならない。これは法外な額ではないものの、高度なAIへのアクセスを持つ人・持たない人を隔てる壁になり得る。
その意味で、まずやってくるのは「ライター大量解雇時代」ではなく「ライター格差時代」の方ではないだろうか。それは決して、ライターにとって楽な時代ではない。筆者自身、文章力を磨くのと並行して、最強AIモデルへの投資を惜しまないこと・そのモデルを使いこなせるスキルを身に付けることの2つを行わなければならない、と強く感じた。
最後に、o1 pro modeに「これから、最強の生成AIモデルへのアクセスを持っているかどうか、またそれを使いこなせるかどうかでライターの価値が決まる『ライター格差時代』が到来すると思うが、そんな時代のライターにとって、アドバイスになる一言を日本語で100字以内でお願いします」と尋ねてみた。その結果を引用して、この記事の締めとしたい。
「最新の生成AIを使いこなしつつ、自分の独自性を磨け。機械を超える視点こそ、ライターの真価だ。」
一番重要なのは自分ならではの「切り口(視点)」を持っているかで、持っているものはAI活用でますます富み、そうでないものは……。
その意味で、まずやってくるのは「ライター大量解雇時代」ではなく「ライター格差時代」の方ではないだろうか。それは決して、ライターにとって楽な時代ではない。筆者自身、文章力を磨くのと並行して、最強AIモデルへの投資を惜しまないこと・そのモデルを使いこなせるスキルを身に付けることの2つを行わなければならない、と強く感じた。
最後に、o1 pro modeに「これから、最強の生成AIモデルへのアクセスを持っているかどうか、またそれを使いこなせるかどうかでライターの価値が決まる『ライター格差時代』が到来すると思うが、そんな時代のライターにとって、アドバイスになる一言を日本語で100字以内でお願いします」と尋ねてみた。その結果を引用して、この記事の締めとしたい。
「最新の生成AIを使いこなしつつ、自分の独自性を磨け。機械を超える視点こそ、ライターの真価だ。」
一番重要なのは自分ならではの「切り口(視点)」を持っているかで、持っているものはAI活用でますます富み、そうでないものは……。
小林 啓倫
経営コンサルタント
1973年東京都生まれ、獨協大学外国語学部卒、筑波大学大学院修士課程修了。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米バブソン大学にてMBAを取得。その後外資系コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業などで活動。著書に『FinTechが変える!金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』(朝日新聞出版)、『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『ソーシャル物理学』(アレックス・ペントランド著、草思社)、『シンギュラリティ大学が教える 飛躍する方法』(サリム・イスマイル著、日経BP)など多数。