2013年の式年遷宮の際に伊勢神宮を訪れて以来、毎年お伊勢参りをするようになった車いすユーザー歴22年のアカザーです。
ご存じのように伊勢神宮の参道には、美しい玉砂利が敷き詰められています。歩みを進めるたびに「ジャリジャリ」とイイ音がして、心が洗われていくような玉砂利の参道も、車いすにとってはかなりの難道。ただただ筋トレをしているかのように体力が持っていかれます(笑)。大半の車いすユーザーにとっては、砂利道の走行はよほどのことがない限り、選びたくない選択肢なのです。
なぜなのか?
車いすにはその進行方向を決める“キャスター”と呼ばれる、360度回転する小さく硬い前輪が付いています。砂利道だとこの前輪が砂利に埋まってしまい、うまく前に進めないんです。
ご存じのように伊勢神宮の参道には、美しい玉砂利が敷き詰められています。歩みを進めるたびに「ジャリジャリ」とイイ音がして、心が洗われていくような玉砂利の参道も、車いすにとってはかなりの難道。ただただ筋トレをしているかのように体力が持っていかれます(笑)。大半の車いすユーザーにとっては、砂利道の走行はよほどのことがない限り、選びたくない選択肢なのです。
なぜなのか?
車いすにはその進行方向を決める“キャスター”と呼ばれる、360度回転する小さく硬い前輪が付いています。砂利道だとこの前輪が砂利に埋まってしまい、うまく前に進めないんです。
伊勢神宮の玉砂利
しかもちょっと大きめの砂利に前輪がひっかかった場合には、急ブレーキがかかりそのまま車いすごと転倒するリスクも。ええ、調子に乗って砂利道でスピード出し、コケた経験がありまくるオレです。
それを知った上で注意深く進んでも、だいたい数百mに1回くらいは「ガキッ!」てな感じで小石が引っかかります。
それを知った上で注意深く進んでも、だいたい数百mに1回くらいは「ガキッ!」てな感じで小石が引っかかります。
砂利道の解決策を考える
車いすにとって砂利道が大敵ということを知っていた両親は、2013年の初参拝時に「JINRIKI」という車いすを人力車のように使えるアタッチメントを購入し、持参してくれました。
これはU字型の持ち手部分を車いすの前に取り付け、人力車のように車いすの前輪を持ち上げて、後輪だけで悪路を走破できるというスグレモノ。これなら前輪が浮いているので砂利道でも走破できると、TVで紹介されているのを見て購入したようです。
これはU字型の持ち手部分を車いすの前に取り付け、人力車のように車いすの前輪を持ち上げて、後輪だけで悪路を走破できるというスグレモノ。これなら前輪が浮いているので砂利道でも走破できると、TVで紹介されているのを見て購入したようです。
「JINRIKI」PV
via www.youtube.com
このPVを観てわかるようにJINRIKIは、車いすに取り付ければ砂利道はもとより、砂浜や雪道なども走破可能になるという画期的な製品。両親が購入し持参してくれたのは「Jinriki Quick」という、ワンタッチで取り付けられる携帯性・汎用性に優れたものでした。
しかし、当時のオレはコレを使うのを頑なに拒んだんです。
我ながら器の小さい人間だなぁと思うのですが、年老いた両親に人力車のように車いすを引かせるのがどうしても嫌だったんです。普通なら逆の立場であるような年齢なのに……という自分のちっぽけなプライドが邪魔をして、両親の思いをむげに断ってしまいました。
当時は車いすユーザーになって13年。離れて住んでいる両親に、車いすでも自立して何でも一人でできるところを見せたい。いらぬ心配をかけないようにとの思いや、自分自身の意地みたいなものもあったと思います。
結局この時は片道800m、往復1.6kmの内宮の参道を、“キャスター上げ”といわれる前輪を上げたウィリー状態で進み、参拝に2時間近くかかりました。アホですね。
しかし、当時のオレはコレを使うのを頑なに拒んだんです。
我ながら器の小さい人間だなぁと思うのですが、年老いた両親に人力車のように車いすを引かせるのがどうしても嫌だったんです。普通なら逆の立場であるような年齢なのに……という自分のちっぽけなプライドが邪魔をして、両親の思いをむげに断ってしまいました。
当時は車いすユーザーになって13年。離れて住んでいる両親に、車いすでも自立して何でも一人でできるところを見せたい。いらぬ心配をかけないようにとの思いや、自分自身の意地みたいなものもあったと思います。
結局この時は片道800m、往復1.6kmの内宮の参道を、“キャスター上げ”といわれる前輪を上げたウィリー状態で進み、参拝に2時間近くかかりました。アホですね。
ウィリー動画
via www.youtube.com
それ以降のお伊勢参りはそんな感じで、玉砂利の参道はウィリーで進み参拝していました。でもコレやると土ぼこりで袖の下がドロドロになるんすよね~(車いすあるある)。
レンタルの電動車いすで玉砂利を走破
キャスター上げで、袖口をドロドロに汚しながら参拝をしていたある時。電動車いすで参拝している方を見かけました。しかもよく見るとレンタルの電動車いすっぽい。
気になって調べたところ、伊勢神宮の内宮・外宮ともに衛士見張り所で、無料レンタルが可能との情報がみつかりました(確か、東京オリパラ開催の数年前ぐらいから?)。借りられる車いすは電動タイプと手動タイプの2種類で、事前予約の必要はナシ。当日に衛士見張り所で、空きがあれば借りられるシステムとのことでした。
それから1年後。「今回のお伊勢参りは電動車いすで玉砂利を走破するぞ!」と、内宮の宇治橋右手にある衛士見張り所を訪れました。運良く電動タイプの車いすがあったので、さっそくこちらをレンタル。
気になって調べたところ、伊勢神宮の内宮・外宮ともに衛士見張り所で、無料レンタルが可能との情報がみつかりました(確か、東京オリパラ開催の数年前ぐらいから?)。借りられる車いすは電動タイプと手動タイプの2種類で、事前予約の必要はナシ。当日に衛士見張り所で、空きがあれば借りられるシステムとのことでした。
それから1年後。「今回のお伊勢参りは電動車いすで玉砂利を走破するぞ!」と、内宮の宇治橋右手にある衛士見張り所を訪れました。運良く電動タイプの車いすがあったので、さっそくこちらをレンタル。
内宮・外宮ともに衛士見張り所で電動車いすの無料レンタルサービスが利用可能です
衛士見張り所では車いすで移動可能なルートが赤線で示されたMAPも配布中。レンタル時にもらっておくと重宝します。
内宮の車いすで移動可能なルート
衛士見張り所では車いすで移動可能なルートが赤線で示されたMAPも配布中。レンタル時にもらっておくと重宝します。
レンタル時には障害者手帳などの提示は必要なく、貸し出し用紙に氏名などを記入し、自分の車いすを預け、預け札をもらう感じです。
ちなみに内宮・外宮ともにレンタル電動車いすはそれぞれ11台。手動タイプの車いすは内宮4台・外宮5台の用意があるとのこと。ただ、どちらも介助式車いすなんです。
なので、オレが借りた電動車いすも操作レバーが手元ではなく、背中側についており自分での操作ができないタイプ。最初は別段気にも留めてなかったのですが、使ってみるとコレがけっこうな問題でした。
介助式ということで、同行した妻に操作を頼んだのですが、妻は電動車いすの操作はこの時が始めて。スティックレバーの向きで方向を決め、入力角度でそのスピードをコントロールする操作に手こずっている感じでした。
ちなみに内宮・外宮ともにレンタル電動車いすはそれぞれ11台。手動タイプの車いすは内宮4台・外宮5台の用意があるとのこと。ただ、どちらも介助式車いすなんです。
なので、オレが借りた電動車いすも操作レバーが手元ではなく、背中側についており自分での操作ができないタイプ。最初は別段気にも留めてなかったのですが、使ってみるとコレがけっこうな問題でした。
介助式ということで、同行した妻に操作を頼んだのですが、妻は電動車いすの操作はこの時が始めて。スティックレバーの向きで方向を決め、入力角度でそのスピードをコントロールする操作に手こずっている感じでした。
レンタルの電動車いすは介助式のためコントロールスティックは背面に。少しコツがいるので、ジョイステック操作に慣れていない場合は手こずるかも
衛士見張り所の方に操作方法を教えていただき、平坦なアスファルト路面で操作を練習して、いざ参拝開始!
しかし練習と実践が違うのは世の常。いきなり最初の宇治橋で大苦戦。宇治橋は幅が狭い上に上りと下りに道が分けられており、ここだけ一気に人口密度が増えるんです。慣れない電動車いすの操作で周りの人たちをひかないよう注意深く進んでいたら、橋を渡るのに5分以上かかりました。
さらにその先には本番ともいえる玉砂利道です! 案の定、整地された路面とはまったく勝手が違うらしく、乗っているオレが思わずアームレストを掴んでしまうほどに、電動車いすの挙動が不安定に。
レンタルの電動車いすは玉砂利走行を見越して通常のものよりも太いタイヤを装着しているのですが、砂利に埋まらない太いタイヤは、太いがゆえに砂利の下の土の凹凸に操作を持っていかれる感じ。
しかも揺れる車いすに装着されたスティックコントローラーでの微妙な操作も大変でした土の凹凸に車いすのタイヤが取られるたびに意図しない急な入力があり、乗っているオレも「いつ思わぬ方向に進むのか⁉急ブレーキがかかるのか⁉」とドキドキしまくり。周りの景色を楽しむ余裕はナシな感じでした。
昭和生まれのオールドスタイルゲーマーとしては、スティックコントローラーの操作は昔取った杵柄。嫁さんの「そんなんじゃ1面もクリアできねぇよ!」的な操作に業を煮やし、身体を90度捻って自分で操作をしてみました。
しかし、電動車いすの背もたれの後ろについたスティックを横向きで操作するにはいろいろ無理がありました(笑)。
結果、その日俺たち夫婦の選択は、3段階あるスピードダイヤルを一番遅いモードに固定し参道をゆっくり進むという選択。ちなみに一番遅いモードでの走行スピードは牛歩以下。年配の参拝客にもバンバン抜かれまくりで参道を進みました。結果、キャスター上げで参拝するよりも時間がかかったという苦い思い出。マジかよ(笑)。
そして、車いすで自分が進みたい方向に進めないことがこんなにもストレスになるのだと、この時に痛感しました。参拝後に電動車いすを返却し、自分の車いすに乗り換えた時、たとえ車いすでも自分の意志で自由に移動できるって、めちゃくちゃ幸せなことだったんだ、と気付きました。
しかし練習と実践が違うのは世の常。いきなり最初の宇治橋で大苦戦。宇治橋は幅が狭い上に上りと下りに道が分けられており、ここだけ一気に人口密度が増えるんです。慣れない電動車いすの操作で周りの人たちをひかないよう注意深く進んでいたら、橋を渡るのに5分以上かかりました。
さらにその先には本番ともいえる玉砂利道です! 案の定、整地された路面とはまったく勝手が違うらしく、乗っているオレが思わずアームレストを掴んでしまうほどに、電動車いすの挙動が不安定に。
レンタルの電動車いすは玉砂利走行を見越して通常のものよりも太いタイヤを装着しているのですが、砂利に埋まらない太いタイヤは、太いがゆえに砂利の下の土の凹凸に操作を持っていかれる感じ。
しかも揺れる車いすに装着されたスティックコントローラーでの微妙な操作も大変でした土の凹凸に車いすのタイヤが取られるたびに意図しない急な入力があり、乗っているオレも「いつ思わぬ方向に進むのか⁉急ブレーキがかかるのか⁉」とドキドキしまくり。周りの景色を楽しむ余裕はナシな感じでした。
昭和生まれのオールドスタイルゲーマーとしては、スティックコントローラーの操作は昔取った杵柄。嫁さんの「そんなんじゃ1面もクリアできねぇよ!」的な操作に業を煮やし、身体を90度捻って自分で操作をしてみました。
しかし、電動車いすの背もたれの後ろについたスティックを横向きで操作するにはいろいろ無理がありました(笑)。
結果、その日俺たち夫婦の選択は、3段階あるスピードダイヤルを一番遅いモードに固定し参道をゆっくり進むという選択。ちなみに一番遅いモードでの走行スピードは牛歩以下。年配の参拝客にもバンバン抜かれまくりで参道を進みました。結果、キャスター上げで参拝するよりも時間がかかったという苦い思い出。マジかよ(笑)。
そして、車いすで自分が進みたい方向に進めないことがこんなにもストレスになるのだと、この時に痛感しました。参拝後に電動車いすを返却し、自分の車いすに乗り換えた時、たとえ車いすでも自分の意志で自由に移動できるって、めちゃくちゃ幸せなことだったんだ、と気付きました。
初めて介助式電動車いすに乗って介助されることにストレスMAXだったオレ。目が笑っていないバリバリの作り笑顔です(笑)
視線入力などの複雑なシステムを使ってでも、自分自身で車いすを操作したい!という人たちってこういう気持ちだったんだなぁ、と。
ちなみに、この1年後。スティック型コントローラーを使い慣れている義理の弟に操作を任せた際には、走行スピードを「中」もしくは「最大」で砂利道を駆け抜け、前年の参拝タイムを大幅に短縮! 1時間かからずに参拝が終わったので、スティック型コントローラーでの電動車いすの操作は、ゲーム好きのマニアに任せるに限る! という結論になりました(笑)。
ちなみに、この1年後。スティック型コントローラーを使い慣れている義理の弟に操作を任せた際には、走行スピードを「中」もしくは「最大」で砂利道を駆け抜け、前年の参拝タイムを大幅に短縮! 1時間かからずに参拝が終わったので、スティック型コントローラーでの電動車いすの操作は、ゲーム好きのマニアに任せるに限る! という結論になりました(笑)。
赤澤 賢一郎
編集・ライター
アカザーの愛称で週刊アスキーなどの編集者として活躍、現在は車いすのフリー編集者・ライター。2000年にスノーボード中の事故で脊髄を損傷(Th12-L1)し、以来車いすユーザーに。しかし、2018年に再生医療の治験を受け、2年間の歩行トレーニングを経て20年ぶりに歩き、クララの記録を更新!