教えて、どうして半導体が不足しているの?(基礎編):テクニカルライター・笠原一輝さんに聞く

笠原 一輝

Special特集
2020年の後半以降、世界的に半導体が不足するという問題が発生しています。このため、電子機器の生産が止まったり、最近では自動車も生産できず、納車まで時間がかかるような事態に陥っています。

i4Uでは今回、この半導体問題について、業界に詳しいライターの笠原一輝さんに気になる疑問や質問にも答えてもらいました。(品不足編はこちら

笠原一輝(かさはら・かずき)さんのプロフィール
1994年よりテクニカルライターとして活動を開始。90年代はPC雑誌でライターとして、2000年代からはPC WatchなどのWeb媒体を中心に記者、ライターとして記事を寄稿している。海外のカンファレンス、コンベンションを取材する取材活動を1997年から20年以上続けており、主な分野はPC、半導体などで、近年はAIといった分野での執筆が増えている。

質問:半導体ってそもそもなに?

半導体とは金属のように電気を通す導体とゴムなどの電気を通さない絶縁体の中間の性質を持つ物質のこと。その半導体の特性を利用すると、「トランジスタ」と呼ばれる電気的にオンとオフができるスイッチを作れる。オフの時は0、オンの時は1を表現でき、2進数を利用して様々な演算を行えるのだ。

そのトランジスタを集積して作られたものが半導体集積回路。英語では「セミコンダクターチップ」、ないしは「チップ」などと呼ばれており、この半導体集積回路を利用することで、コンピュータは様々な演算をしたり、データを保存したりできるようになる。

厳密に言えば、半導体と半導体集積回路はそれぞれ別の部分を指しているが、「半導体が足りない」という文脈のときには「半導体集積回路が足りない」という意味で使われており、一般的に半導体=半導体集積回路という認識だろう。以下この記事で半導体とする場合には半導体集積回路のことだとして進めていく。

質問:半導体はどんなものに使われているの?

以前の半導体は、いってみればPCやスマートフォンといったコンピュータのため、あるいはインターネット上のサービスを提供するためのデータセンターにあるサーバーなど、何らかの演算を行うコンピュータ向けに利用されることが多かった。しかし、2010年代の半ばからIoT(Internet of Things、モノのインターネット)と呼ばれる白物家電や自動車、果てはコーヒーメーカーといったありとあらゆる機器がインターネットにつながる時代に突入しており、今や家庭にあるほとんどのデバイスがコンピュータの機能を内蔵している。

また、そうした家庭向けの機器だけでなく、例えばガス給湯器、電気使用量の検針器、あるいは集合住宅のインターホンといった社会のインフラになるような機器もインターネットに接続していなくても内部的にはデジタル化されている場合があり、そうした機器も半導体を利用している。

実は今回だけでなく以前にも半導体が足りないということが何度も起きているのだが、その時はPCの出荷が遅れるという程度の影響で、多くのユーザーには影響がなかった。今回はPCやスマートフォンだけでなく、デジタル化の進展によって社会のありとあらゆる機器に影響を及ぼしているという意味で、大きな影響がでているのだ。

質問:半導体が不足しているってどういうこと?

半導体が足りないというのは、言ってみれば需要が供給を上回っているという状態が発生している事を示している。世界各地の企業が半導体を必要としているのだが、半導体メーカーが供給する供給量がその顧客が必要としている量を下回っているため、自動車メーカーや家電メーカーが必要とする時期までに半導体を入手することができなくなっているのだ。

質問:半導体はどうして足りなくなっているの?

半導体が足りないのならもっと作ればよいじゃないか、とシンプルに思うだろう。その通りなのだが、その通りにいかない事情がいくつかある。大きくいうと2つあり、1つは半導体産業の構造的な問題であり、もう1つは半導体産業の経済規模問題だ。

半導体産業は高度に水平分業が進んだ産業で、半導体メーカーといっても実際に半導体を製造しているのはごく一部のメーカーだけ。では誰が製造しているのかといえば、その下請けとして委託を受けて製造する台湾のTSMC(台湾積体電路製造)や韓国のSamsung Electronics(三星電子)などの、“ファンダリー”と呼ばれる受託製造メーカーになっている。

このファンダリーは、半導体メーカーと契約して、その半導体を生産する。半導体メーカーとは「1月1日~1月31日までの1か月間、2つのラインを利用して半導体を製造する」という形の契約を行うのだが、世界的な半導体需要の増大を受けて、どのファンダリーも契約が一杯になっており、それこそ数年先までラインが売約済み、そうした状況になっている。このため半導体メーカーも、需要に応じて半導体を増産したくてもラインを確保できず、急な増産が難しい状況なのだ。

では、ファンダリーがラインを増やしてもっと作れるようにすれば良いと思うかもしれないが、実はそれも簡単な話ではない。というのも半導体工場は、その1つ1つが建設だけで膨大なコストがかかるからだ。特にファンダリーが建設するような巨大工場(メガファブと呼ばれる)の建設には1兆円という予算がかけられることも少なくない。

それでもこれだけ需要が高まって「足りない、足りない」といわれているのだから、バンバン作ればいいだろうと思うかもしれないが、もう1つの問題は建設期間だ。仮に今から建設を始めようとしても完成して製品を出荷できるようになるのは2024年頃になる。その頃には需要が一巡し、もはや需要がなくて作るモノがない……となったらファンダリーの経営は傾くことになるので、そこは慎重にいかざるを得ないのである。

実際、これまでも半導体の需要が高まりひっ迫するということは何度も起きているが、数年後にその反動で需要が一巡し今度は半導体が余るということが起きてきたのがこれまでの半導体産業の歴史。そう考えると、この需要がいつまで続くのか、ファンダリーもそこは慎重に見極めており、簡単に新しい工場を建設するというわけにもいかないのだ。
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笠原 一輝

ライター
1994年よりテクニカルライターとして活動を開始。90年代はPC雑誌でライターとして、2000年代からはPC WatchなどのWeb媒体を中心に記者、ライターとして記事を寄稿している。海外のカンファレンス、コンベンションを取材する取材活動を1997年から20年以上続けており、主な分野はPC、半導体などで、近年はAIといった分野での執筆が増えている。

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