教えて、どうして半導体が不足しているの？（基礎編）：テクニカルライター・笠原一輝さんに聞く

2022.1.12

質問：半導体がないと何に困るの？

シンプルに言えば、それを組み込んで出荷している製品が生産できず、機器メーカーは工場の製造ラインを止めざるを得なくなり、それに呼応して市場にある在庫も減っていく――そうしたことが多くの産業で発生している。

日本で言えば、自動車がその代表例で、例えばカーナビゲーション用の半導体が足りない、あるいはデジタルメーターの描画用の半導体が足りないなどの理由で生産ラインを数日休止するなどの事態が発生しているのだ。その結果、納期が従来は注文から1か月程度で納車だったものが、2カ月、3カ月……と徐々に伸びていっているという状況が発生している。

例えば、半導体を使っている給湯器のような住宅設備機器にも在庫切れが発生している。給湯器が壊れたから新しいモノに交換しようとしても、交換すべき給湯器の在庫がなくて交換できないなどの状況だ。現代の日本ではお湯は蛇口をひねればシャワーから出てくるのがあたり前というライフスタイルになっているため、影響は小さくないだろう。

このように、半導体の不足は意外なところにも影響を及ぼしており、もはや社会問題の1つと言っても過言ではないのだ。

質問：半導体は以前、日本の主力輸出品だったはず。どうしてこうなった？

半導体産業は「規模の経済」。初期投資が大きく、ファンダリーは巨大工場を1兆円規模の予算をかけて建設する。しかも、建設から生産が始まるまでの数年はただ巨額のお金が出ていくだけ。何年もかけてその初期投資を回収していくことになるため、小さい規模の会社では対応できない。このため、大企業のみが対応可能で、日本では主に総合電機メーカーがその役割を担ってきた。

1980年代には日本の半導体生産が、米国の半導体産業への脅威となり日米の政治問題に発展するほどだったが、1990年代に日本の半導体産業は徐々に衰退していった。その理由の1つは米国の半導体メーカーが、付加価値の高い演算ができる「プロセッサ」に注力していったのに対して、日本の半導体メーカーはより普遍的で機能や性能はどこのメーカーでも同じで過当競争になりやすい「メモリ」に注力しており、それらの製品は徐々に韓国や台湾といったより労働コストが低い国で生産しているメーカーに置き換えられていったのだ。

日本の半導体産業もそれに対応するため、複数のメーカーが会社統合を行い、メモリ製造する「エルピーダメモリ」、自動車向けの半導体を生産する「ルネサスエレクトロニクス」の2社に集約していった。後者に関しては現在も生産を続けているが、エルピーダメモリは2012年3月に経営破綻し、現在は米国のメモリメーカー「Micron」が吸収し、今に至っている。

質問：どうやったら解決できるの？

これまで説明してきた通り「需要と供給」のバランスが崩れて需要過多になっていることが原因であるため、需要が減るか、供給が増えれば解決する。しかし、既に半導体はほとんどの産業で使われるようになってきており、今後も需要は増える予想はあっても、減ることはあまり想定にない。では供給が増えればいいということだが、増産は年単位での時間がかかる。結論としては、数年後に増産体制が整えば供給が増えていき、徐々にバランスがとれてひっ迫状態が解消していくということになるだろう。

質問：いつ解消しそう？

多くの半導体メーカーのトップは、少なくとも2022年中はひっ迫状態が継続すると言明している。新しい工場での生産がスタートする2023年頃から徐々に解消していくとみられているが、その頃にはさらに需要が増えている可能性があり、なんとも言えないところだ。

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笠原一輝

ライター
1994年よりテクニカルライターとして活動を開始。90年代はPC雑誌でライターとして、2000年代からはPC WatchなどのWeb媒体を中心に記者、ライターとして記事を寄稿している。海外のカンファレンス、コンベンションを取材する取材活動を1997年から20年以上続けており、主な分野はPC、半導体などで、近年はAIといった分野での執筆が増えている。