世界にはさまざまな滝があります。日本なら栃木県日光市の「華厳滝(けごんのたき)」、茨城県久慈郡の「袋田の滝(ふくろだのたき)」、和歌山県東牟婁(ひがしむろ)郡にある「那智の滝(なちのたき)」が日本三名瀑(めいばく)として知られています。

那智の滝(筆者撮影)
また世界三大瀑布(ばくふ)といえば、カナダ・アメリカの「ナイアガラの滝」、アフリカはジンバブエとザンビアにまたがる「ヴィクトリアの滝」、南米アルゼンチンおよびブラジルの「イグアスの滝」です。一般に世界最大とされるイグアスの滝は大小275の滝からなり、その幅は約4kmにも及びます。

ヴィクトリアの滝(出典:Hoona9091 / pixabay)
単純に落差を比較するならば、世界で最も高い滝は南米ベネズエラのギアナ高地にある「エンジェル・フォール(アンヘルの滝)」が、なんと979mという落差を誇ります。これは那智の滝(約133m)の7倍以上、東京スカイツリー(634m)の上に東京タワー(333m)を乗せてもまだ届かない高さです。
余談ですが、エンジェル・フォールには滝壺がありません。その理由は、あまりの落差のために途中で水が細かいしぶきとなって散ってしまうためで、滝の下は常に雨が降っているような状況になっています。とはいえ、落ちてきた水はそこからまた小さな川を形作り、下流へと流れています。
余談ですが、エンジェル・フォールには滝壺がありません。その理由は、あまりの落差のために途中で水が細かいしぶきとなって散ってしまうためで、滝の下は常に雨が降っているような状況になっています。とはいえ、落ちてきた水はそこからまた小さな川を形作り、下流へと流れています。
誰も肉眼で見たことのない地球最大の滝
ここまで、世界最大の滝はイグアスの滝、最も高い滝はエンジェル・フォールと紹介してきました。しかし“地球上で”最も大きな滝は、おそらく誰もその全貌を肉眼で見たことがないはずです。その滝は、グリーンランドとアイスランドの間、デンマーク海峡にある大滝「Denmark Strait cataract(またはDenmark Strait overflow)」です。
おそらくほとんどの人は、大きな島であるグリーンランドとアイスランドの間は海のはずで、まさかそこに滝があるなどとは考えないでしょう。しかしデンマーク海峡の大滝は実在しています……海の底に。
デンマーク海峡は、寒流の東グリーンランド海流が、暖流のイルミンガー海流に出合う場所です。その海底は、落差約3500mもある斜面となっており、暖流の下に潜り込んだ重く冷たい海流は、毎秒350万立方メートル以上という、とてつもない水量でそこを駆け下りていくのです。
おそらくほとんどの人は、大きな島であるグリーンランドとアイスランドの間は海のはずで、まさかそこに滝があるなどとは考えないでしょう。しかしデンマーク海峡の大滝は実在しています……海の底に。
デンマーク海峡は、寒流の東グリーンランド海流が、暖流のイルミンガー海流に出合う場所です。その海底は、落差約3500mもある斜面となっており、暖流の下に潜り込んだ重く冷たい海流は、毎秒350万立方メートル以上という、とてつもない水量でそこを駆け下りていくのです。

デンマーク海峡の大滝(出典:アメリカ海洋大気庁 / NOAA)
「地球最大の滝」は地球全体の海流システムの鍵
デンマーク海峡の大滝は、およそ1万7500年前から1万1500年前の氷河期に形成されたと考えられています。当時はこの場所に巨大な氷河があり、それが地形を削り取りながらゆっくりと移動して、やがて巨大な段差が形作られました。
そして、この偶然の産物である大滝は、今では地球全体を巡る「海洋大循環」とよばれる海流システムのひとつ「大西洋子午面循環(AMOC)」において重要な役割を果たしています。
そして、この偶然の産物である大滝は、今では地球全体を巡る「海洋大循環」とよばれる海流システムのひとつ「大西洋子午面循環(AMOC)」において重要な役割を果たしています。

地球全体を巡る海流「大西洋子午面循環」(出典:アメリカ海洋大気庁 / NOAA)
世界的な海流システムのひとつであるAMOCは、大西洋表層付近の温かい海水が北極域に向かって移動し、北大西洋で冷やされて海氷が形成されることで起こります。氷が形成されると、その部分に溶け込んでいた塩分は残りの水に含まれるようになるため、その周辺の海水の塩分濃度は高まります。海水の塩分濃度が高まると、海水の密度は上がります。こうしてできた高密度の冷たい水塊は、その比重によって海の深い層に沈み込み、寒流として海を南下するようになります。
この寒流は、やがて海底火山や陸地との衝突によって表層に持ち上げられる湧昇と呼ばれるプロセスを経て温められ、再び暖流となって極域に向かうことになります。またこの湧昇流は、周囲の海水温を下げて気候を安定させたり、海洋生物に酸素や栄養分、その他有機物をもたらすなどの効果があることから、「海洋のベルトコンベア」とも呼ばれます。熱、栄養分、エネルギーを広大な距離にわたって分配する海洋のベルトコンベアは、気象パターン、海面、海洋生態系に影響を与え、地球の豊かな環境を維持するのに役立っています。
この寒流は、やがて海底火山や陸地との衝突によって表層に持ち上げられる湧昇と呼ばれるプロセスを経て温められ、再び暖流となって極域に向かうことになります。またこの湧昇流は、周囲の海水温を下げて気候を安定させたり、海洋生物に酸素や栄養分、その他有機物をもたらすなどの効果があることから、「海洋のベルトコンベア」とも呼ばれます。熱、栄養分、エネルギーを広大な距離にわたって分配する海洋のベルトコンベアは、気象パターン、海面、海洋生態系に影響を与え、地球の豊かな環境を維持するのに役立っています。

Munenori Taniguchi
ライター。ガジェット全般、宇宙、科学、音楽、モータースポーツetc.、電気・ネットワーク技術者。
実績媒体:TechnoEdge、Gadget Gate、Engadget日本版、Autoblog日本版、Forbes JAPAN他
Twitter:@mu_taniguchi