キャラクターが全員全裸に!?生成AIが作るマーダーミステリーゲーム『RedRam』開発秘話

森川 幸人

AIインタビュークリエイター

はじめに

7/14〜16に京都で開催されたインディーゲームの祭典「BitSummit Let's Go!!」に、ゲーム系AIの第一人者でグラフィッククリエイターの森川幸人さん率いるモリカトロンが、AIソフト『RedRam(レッドラム)』を出展しました。アドベンチャーゲームの一種「マーダーミステリー」のストーリーとイラストを、全て生成AIが作るというものです。人間の手を介さないゲームはどうやって生まれたのか? RedRamの開発秘話を森川さんに教えてもらいました。

ChatGPTは「ちゃんとした物語」を作れるのか?

——そもそも、RedRamはゲームなのでしょうか。

ゲームです。ただし市販することを目的としたゲームではなく、生成AIのChatGPTと、Stable Diffusionのポテンシャルを探るために作った、いわゆるコンセプトモデルですね。BitSummit Let's Go!!のために企画・開発しました。

——「AIにマーダーミステリーを作らせよう!」と決めた経緯を教えてください。

生成AIのみでどこまでゲームを作れるものなのかを検証したかったんです。

まず、ChatGPTはちゃんとしたストーリーを組み立てられるのか? ちゃんとしたストーリーというのは、筋の通った物語のことです。これを検証するには、ふわっとした私小説的な物語やファンタジーものではなく、ロジックが通った物語でないといけません。

つまり、殺害動機から殺害方法、犯人解明まで矛盾なく設計する必要があるマーダーミステリーならば検証しやすいと思ったので、このジャンルを選びました。個人的に、PCとファミリーコンピュータのゲーム「ポートピア殺人事件」の大ファンだったのも影響しています。

そして、ChatGPTと併せてグラフィックの面でも生成AIの力を試したかったんです。Stable Diffusionは、ゲームに必要な画像(キャラクター、凶器、背景)を作れるのか? さらに、ChatGPTが設定した事件や状況、キャラクターなどの情報を元に、Stable Diffusionは人間の手を介さずに絵を生成できるのかも確かめたいと思いました。

そして、どうせ作るなら、作ったあと広く公開したいなと考えていたところに、ちょうどBitSummit Let's Go!!が近かったので、これは相性が良さそうだなと、会場でプレイしてもらうためにゲームバランスを調整しました。

例えば、なるべくたくさんの人にプレイしてほしいので、1プレイの時間を5分程度と設定したり。

——「5分間で解決するマーダーミステリー」は、かなりコンパクトな印象です。

そうです。こんな短いプレイ時間は、マーダーミステリーなどのアドベンチャーゲームとは相性が悪いところがあります。本来、長い時間をかけて、事件の真相を少しずつ暴いていく「過程」が楽しいタイプのゲームですからね。

たぶん、超優秀な人間のデザイナーがシナリオを設計したとしても、5分で解決するマーダーミステリーは面白いものにならないと思います。

その点は結構悩んだのですが、今回はゲームの面白さよりAIだけでどこまでゲームを作れるかという点に重きを置いて、5分で解決するマーダーミステリーとしました。

——ちなみに、マーダーミステリー以外のゲームジャンルの候補はありましたか。

例えば、RPGの「お使いイベント」や、育成ゲーム、ホラーゲーム、恋愛シミュレーションなどのゲームは作れるだろうなと予測していました。

ただ、先に言ったように、今回はChatGPTがロジカルな物語を生成するかを検証するのが第一の目的だったので、やはりマーダーミステリーが最適だったと思います。

また、やろうと思い立ってからBitSummit Let's Go!!の開催まで3カ月しかなかったので、大きなゲーム、特にフロントエンドの制作が大変なゲームは無理だなという思いもありました。

そもそもモリカトロンは、AIの研究開発を生業としている会社なので、ゲームのフロントエンド作りは弱くて、あまりにボリュームがあったり複雑なゲームは自分たちの手に負えないと最初からわかっていたという事情もあります。

実際にRedRamのフロントエンドのベースは、アドベンチャーゲームを作るための既存ツールを利用しています。

RedRamの実際のゲーム画面 (c)2023 morikatron.inc

プロンプト・エンジニアリングが肝

——開発スタート時のことを教えてください。コンセプトはどういったものでしたか。

まずは「小さくまとめること」を念頭に置きました。モリカトロンはまだまだ体力のない若い会社ですし、開発期間も3カ月しかなく、アサインできるエンジニアにも制限がありましたので。

ゲームはどうしても作っている過程でどんどんアイデアを追加していきたくなるもので、結果、スタート時より巨大なゲームになってしまうのが常ですが、その誘惑(笑)に負けずに、コンパクトにまとめたつもりです。

その誘惑を断ち切るうえでも、プレイ時間を5分程度に限定したのは有効でした。

——生成AIをゲーム開発に使ううえで、技術的に何が必要であるかはイメージできていましたか。

モリカトロンはそれまで生成AIについては、それほど突っ込んだ調査や研究をしてきませんでしたので、ほぼゼロからのスタートでした。

ですから、ChatGPTにロジックの通った物語を生成させたり、シナリオが要求する通りのキャラクターや背景、アイテムをStable Diffusionに描かせ、なおかつ、十分なクオリティーでチャーミングな絵を描かせるためのプロンプトのコツも、ゼロスタートで研究開発しました。

これはいわゆるプロンプト・エンジニアリングというもので、この技術がRedRamを開発するうえで肝となるのは、最初からわかっていましたが、うまくいく確証はなかったので、結構ドキドキものでした。

幸い、エンジニアが頑張ってくれて、そこそこの生成ができました。

物語もキャラクターもステージも全部AIが作っている (c)2023 morikatron.inc

——「とにかく小さくまとめた」という開発規模はどのくらいでしたか。

開発期間は3カ月。ChatGPT担当1人、Stable Diffusion担当1人、フロントエンド担当が1人の3人で開発を進めました。最終月だけ1人エンジニアがサポートに入ったので、計10人月ですね。
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森川 幸人

ゲームAI設計者、グラフィック・クリエイター、モリカトロン株式会社代表取締役、筑波大学非常勤講師
ゲームAIの研究開発、CG制作、ゲームソフト、アプリ開発を行う。ゲーム「がんばれ森川君2号」「ジャンピング・フラッシュ」「アストロノーカ」「くまうた」「ねこがきた」などを開発。ゲームAIに関する論文「ゲームとAは相性がよいのか?」(2017年・人工知能学会)などを執筆。Twitter:@morikawa1go

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