教えて、どうして半導体が不足しているの?(品不足編):テクニカルライター・笠原一輝さんに聞く

笠原 一輝

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質問:円安だと厳しそう

その通りだ。円安というのは円の価値が下がっているということ。ほとんどが海外で生産されている半導体を買う場合には、円建てでなくドル建てで取引が行われるので、円安は間違いなく最終製品を国内で組み立てるメーカーにとっては辛いところだ。

しかし、組み立てた製品を輸出する時には、逆に円安がメリットになり低価格で海外の顧客に提供することが可能になる。その意味では加工貿易的な企業にはプラスマイナスゼロだが、部材を海外から輸入して日本の消費者に販売しているメーカーにとっては非常に厳しい状況と言えるだろう。

質問:鹿児島と熊本の工場でできる半導体でできることとできないことってなに?

TSMCが熊本に建設する予定と発表した半導体工場は、何世代か前の製造技術を利用して製造する工場で、自動車やカメラのCMOSセンサー向けの半導体を製造する工場になるとみられている。PCやスマートフォンなどに利用されているCPUやGPUを製造するのに必要な最先端の製造技術は投入されないので、そうした最先端の高い処理能力を持った半導体は製造できない。

質問:一部家電の品切れは関係している?

PlayStation 5やNintendo Switchの項目でも述べた通り、そうかもしれないし、そうではないかもしれない。メーカーによっては単に自社都合で遅れている場合でも半導体ひっ迫といっている場合があるので、必ず全部がそうとは言えないのが実情だ。本当の所はメーカー自身にしかわからない。

質問:誰かの陰謀?

そうした陰謀論を唱える人はどの世界でも、どの産業でもいらっしゃるが、半導体産業はグローバルに市場が形成されていることもあり、そのダイナミズムは「需要と供給」という経済原則によって決まっている。したがって特定の人物や国、組織の思惑でこうしたことが起きているというよりは、シンプルに供給に対して需要が上回っているからだと考える方が妥当だし、特定の国家の意思が働いているからこうなっていると考える関係者はいない。

しかし、今回の半導体ひっ迫により、欧米各国は半導体の製造の80%が東アジア(台湾、韓国、中国)に集中しているという地政学的リスクに気がついた。仮に中国と台湾、あるいは韓国と北朝鮮で何らかの「有事」が発生した場合、そうしたファンダリーの工場が致命的な打撃を受けたりすると、世界経済の崩壊につながりかねないという安全保障上の懸念があるというわけだ。

特に米国政府はこの事実に驚いたようで、TSMCやSamsung Electronics(三星電子)に米国内に工場の建設を促す動き(こうした動きそのものは騒動の前から話が進んでいた)を加速させているし、従来は自社製品だけを製造していたが、今後はファンダリービジネスに本気で取り組むことを表明したインテルに補助金を支給して、米国内にファンダリービジネス用の工場を建設する動きを後押しすることを既に決めている(現在米国議会で審議中)。

その意味で、欧米から日本へ、そして日本から台湾韓国へと徐々に移り変わってきた半導体製造の中心が、今後は欧米回帰が進むとみられ、半導体産業の姿形が変わっていく可能性がある。

質問:消費者はただ待つことしかできないんですか?

どんな製品でも最終的には、製品のメーカーが組立工場で組み立てて生産し、化粧箱に入れて流通業者に引き渡すなどしない限り消費者の手元には届かない。半導体のひっ迫はそのメーカーに納入される部品が足りないということなので、消費者にできることは待つ以外には何もない。

もちろん1兆円の資産がある消費者は自分で半導体の工場を作って、その必要となる部品を生産すれば理論上は可能だが、工場を作る以外にも製造技術の確立など非常に高いハードルがあるので、お金持ちであっても簡単な話ではない。現実的にはTSMCやサムスンに投資することぐらいか(そもそも1兆円をぽんと出せることが現実的かどうかは置いておくとして……)。

質問:コロナが収まったら半導体問題も解消しますか?

繰り返しになるが今回の半導体ひっ迫は、需要と供給のバランスが崩れていることが原因で、コロナ禍は基本的に関係ない。ただ、コロナ禍によって、多くのビジネスパーソンがリモートワークを強いられることになったため、PCや家庭内のデジタル機器などの需要が一時的に高まったことも、半導体の需要が高まっている一因ではある。したがってコロナ禍の収束は若干の需要を低減させる効果はあるかもしれないが、決定的な影響ではないと考えられている。
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笠原 一輝

ライター
1994年よりテクニカルライターとして活動を開始。90年代はPC雑誌でライターとして、2000年代からはPC WatchなどのWeb媒体を中心に記者、ライターとして記事を寄稿している。海外のカンファレンス、コンベンションを取材する取材活動を1997年から20年以上続けており、主な分野はPC、半導体などで、近年はAIといった分野での執筆が増えている。

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