AIを支えるハイパフォーマンスコンピューティング最前線——国際イベント「SCA/HPC Asia 2026」レポート

野々下 裕子(NOISIA)

AIGMOインターネットグループ
今や誰もが生成AIを手軽に使える時代になりましたが、そうしたAIを動かすのに、ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)と呼ばれる技術が不可欠になっているのをご存じでしょうか。

ハイパフォーマンスコンピューティングとは、大量の計算を高速に処理するための計算技術の総称です。経済成長や国際競争力にもつながる重要な技術として、世界で開発競争が激化しています。

ChatGPTやGeminiのように自然な言葉で対話できる生成AIが登場した背景には、ハイパフォーマンスコンピューティングの技術進化があります。近年では、ヒューマノイドロボットや自動運転技術など、現実世界でAIを活用する「フィジカルAI」の分野でも、その計算能力が重要な役割を果たしています。

こうした計算を支えるのが、スパコン(スーパーコンピューター)です。たくさんの高性能のコンピューターをつなげ、AI開発や科学シミュレーション、宇宙や気候の研究など、膨大な計算が必要となる分野で活用されています。現在、世界最速クラスのスパコンは1秒間で約180京回という、想像もつかないほどのレベルの計算能力を発揮しています。

日本でも複数のスパコンが稼働しています。理化学研究所と富士通が共同開発した「富岳」は、ビッグデータの解析速度ランキングでは世界でトップの実力を誇っています。台風やゲリラ豪雨などの気象予測や気候変動の分析、エネルギーの研究といったさまざまな分野で活用され、COVID-19の飛沫拡散シミュレーションなどにも活用されました。近年では、冬季オリンピックのスキージャンプの分析など、身近なところでも役立てられています。

世界でもトップクラスの機能を持つスパコン「富岳」は神戸市で稼働中

さらに近年は、量子力学の原理を利用した「量子コンピューター(Quantum Computing/QC)」開発も進んでいます。すでに実用化も始まっていて、IBMが開発した量子コンピューター「IBM Quantum System Two」は、富岳と直接接続して運用されています。

IBMの量子コンピューター「IBM Quantum System Two」は「富岳」と接続してより高度な計算が可能に

ハイパフォーマンスコンピューティングの研究は1960年代から進められており、関連技術の研究成果を発表する国際会議は欧米では1980年代から開催され、毎年多くの関係者が参加しています。そうした動きにアジアも追随し、1990年代からアジア・太平洋地域の研究者が集う国際会議「HPC Asia(The International Conference on High Performance Computing in Asia-Pacific Region)」が開催されています。

一方、「SupercomputingAsia(SCA)」は2018年に始まり、オーストラリア、日本、シンガポール、タイのHPCセンターが毎年共同で開催している国際イベントです。今回はこの2つのイベントが合同で開催され、日本では初めてとなる「SCA/HPC Asia 2026」が実施されました。

世界から最先端の技術と話題が集まる貴重な場に

今回の「SCA/HPC Asia 2026」は、SCAとHPC Asiaの合同イベントとして、大阪府立国際会議場(グランキューブ大阪)で1月26~29日の4日間にわたり開催されました。

プログラムは多岐にわたり、ハイパフォーマンスコンピューティングに加えて、AIや量子コンピューターなどの分野が取り上げられました。各分野を代表するスピーカーによる基調講演の他、世界各国から集まった研究者や企業関係者による最新技術の発表や研究成果のディスカッション、論文発表などが行われました。

アジア以外にも世界各国から参加者が集まり、情報共有や将来に向けた熱い議論が交わされた

会場では、国や研究機関、関連企業による約100の展示も行われました。IBMや富士通、NVIDIA、AMD、Google、NEC、三菱重工業といった国内外の大企業に加え、世界で注目を集めるスタートアップも多数出展していました。

最新の機器や技術に実際に触れられるだけでなく、出展者によるプレゼンテーションも行われ、交流スペースでは関係者と議論を交わすこともでき、業界の最前線の話題が一堂に会する貴重な場となっていました。

特に展示は専門家でなくてもわかりやすいよう工夫されており、各ブースでは担当者によるプレゼンテーションも行われていました。国際会議でありながら、学生からビジネス関係者まで幅広い参加者が集まっていたのが印象的でした。

大学や研究機関のブースもいろいろあり、留学生の姿も目立った

「SCA 2025」を開催したシンガポールをはじめ、欧米の政府系機関も出展していた

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野々下 裕子(NOISIA)

テックジャーナリスト
神戸を拠点に国内外のテック系イベントやカンファレンスの取材、インタビュー、リサーチなどを幅広く行う。オンラインメディアを中心に執筆多数。

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