オシャレでポップなUKアート——音楽・ファッション好きが楽しめる『テート美術館 ― YBA & BEYOND』
2025年のオアシス再結成ツアー、2026年のトレインスポッティングのリバイバル上映。ここ最近、日本でも90年代のUKカルチャーに再びスポットライトが当たっている。そんな中、東京・六本木の国立新美術館では、90年代の英国アートシーンを大規模に紹介する展覧会『テート美術館 ― YBA & BEYOND 世界を変えた90s 英国アート』が5月11日まで開催中だ。
ロンドンのテート美術館のコレクションから約60名のアーティストによる約100作品が集結した本展は、1990年代に世界を席巻した「YBA(ヤング・ブリティッシュ・アーティスト)」と呼ばれるムーブメントを軸に、当時の英国美術の革新を検証する内容となっている。
筆者は特にアートに詳しいわけではないが、90年代のUKカルチャーが好きだ。ブリットポップもクラブミュージックもひと通り履修してきた世代として、そうした音楽カルチャーとアートが結びついていた時代にスポットライトを当てた本展は気になっていた。
しかし、アートというとどことなく敷居が高い印象もある。そこで今回は、筆者のように「アートはよくわからないけど、音楽やファッションといったポップカルチャーは好き」という人の目線で、本展の見どころを紹介していきたい。
*冒頭写真:筆者撮影(一般来場者の場内展示品の撮影・SNSへの投稿は可能だが、一部展示については撮影制限がある)
ロンドンのテート美術館のコレクションから約60名のアーティストによる約100作品が集結した本展は、1990年代に世界を席巻した「YBA(ヤング・ブリティッシュ・アーティスト)」と呼ばれるムーブメントを軸に、当時の英国美術の革新を検証する内容となっている。
筆者は特にアートに詳しいわけではないが、90年代のUKカルチャーが好きだ。ブリットポップもクラブミュージックもひと通り履修してきた世代として、そうした音楽カルチャーとアートが結びついていた時代にスポットライトを当てた本展は気になっていた。
しかし、アートというとどことなく敷居が高い印象もある。そこで今回は、筆者のように「アートはよくわからないけど、音楽やファッションといったポップカルチャーは好き」という人の目線で、本展の見どころを紹介していきたい。
*冒頭写真:筆者撮影(一般来場者の場内展示品の撮影・SNSへの投稿は可能だが、一部展示については撮影制限がある)
フランシス・ベーコンの巨大な3連作が突きつける、YBA前夜の重い空気
会場に入ると、まず目に飛び込んでくるのは20世紀を代表する具象画家、フランシス・ベーコンの巨大な3連作だ。本展の序章は「フランシス・ベーコンからブリットポップへ」と題されており、展覧会自体がYBAとブリットポップを同じ時代の文脈で語ることを宣言している。
出品作『1944年のトリプティクの第2ヴァージョン』(1988年)は、カンヴァス3枚で構成された大型の油彩画で、歪んだ人体が血のような赤い背景の中に描かれている。サッチャー政権後の格差と緊張が社会に漂っていた時代、その重苦しい空気を凝縮したかのような作品だ。ここからYBAの爆発的なエネルギーへと展示が移行していく構成は、本展がただの作品紹介ではなく、時代そのものを体験させようとしていることを感じさせる。
出品作『1944年のトリプティクの第2ヴァージョン』(1988年)は、カンヴァス3枚で構成された大型の油彩画で、歪んだ人体が血のような赤い背景の中に描かれている。サッチャー政権後の格差と緊張が社会に漂っていた時代、その重苦しい空気を凝縮したかのような作品だ。ここからYBAの爆発的なエネルギーへと展示が移行していく構成は、本展がただの作品紹介ではなく、時代そのものを体験させようとしていることを感じさせる。
フランシス・ベーコン『1944年のトリプティクの第2ヴァージョン』(1988年)の展示風景(筆者撮影)
YBAとは誰だったのか——ブリットポップにも通じる「外から付けられたラベル」
では、YBAとはそもそも何だったのか。展覧会の第1章「ブロークン・イングリッシュ:ニュー・ジェネレーションの登場」がその答えを示している。
「YBA(ヤング・ブリティッシュ・アーティスト)」という呼称は、1990年代に外部から付けられたラベルだ。実は当時の作家たちの多くはこの名称を拒否していた。これはブリットポップというくくりを嫌がったバンドたちと構造的に同じで、音楽好きにはなじみのある話だろう。
第1章の中心に展示されているのが、ダミアン・ハーストの『後天的な回避不能』(1991年)だ。直方体のガラスと金属のフレームの中に、白いテーブル、回転椅子、吸殻の詰まった灰皿、潰れた煙草の箱が封じ込められている。ガラスケースの中に閉じ込められたオフィス空間。その息苦しさは、タイトルが示す「逃げられなくなること」をそのまま体現していた。
「YBA(ヤング・ブリティッシュ・アーティスト)」という呼称は、1990年代に外部から付けられたラベルだ。実は当時の作家たちの多くはこの名称を拒否していた。これはブリットポップというくくりを嫌がったバンドたちと構造的に同じで、音楽好きにはなじみのある話だろう。
第1章の中心に展示されているのが、ダミアン・ハーストの『後天的な回避不能』(1991年)だ。直方体のガラスと金属のフレームの中に、白いテーブル、回転椅子、吸殻の詰まった灰皿、潰れた煙草の箱が封じ込められている。ガラスケースの中に閉じ込められたオフィス空間。その息苦しさは、タイトルが示す「逃げられなくなること」をそのまま体現していた。
ダミアン・ハースト『後天的な回避不能』(1991年)の展示風景(筆者撮影)
同じ章で印象に残ったのが、ギルバート&ジョージの『裸の目』(1994年)だ。大きな画面に描かれた目に見つめられているような感覚は、作品の前に立った者をそのまま作品の一部にしてしまうような迫力がある。
ギルバート&ジョージ『裸の目』(1994年)の展示風景(筆者撮影)
音楽やファッション好きにとって最も楽しめるセクション「あの瞬間を共有する」
ここまでの展示でもYBAの勢いは十分に伝わるが、音楽やファッションが好きな人にとって最も楽しめるのは、第3章「あの瞬間を共有する:音楽、サブカルチャー、ファッション」だろう。
中でも音楽ファンにとって最も親しみやすいのが、ジュリアン・オピーの『ゲイリー・ポップスター』だろう。本展のキービジュアルにも採用されているこの作品は、Blur『Best of』(2000年)のジャケットでも知られるジュリアン・オピーの作風そのもの。最小限の線とベタ塗りで人物を描くスタイルは、アートに詳しくなくてもBlurのジャケットを知っていれば一目で「あ、これか」とわかる。筆者自身も、このキービジュアルを目にしたことで本展に興味を持っただけに、この作品には音楽ファンにも刺さる魅力がある。
中でも音楽ファンにとって最も親しみやすいのが、ジュリアン・オピーの『ゲイリー・ポップスター』だろう。本展のキービジュアルにも採用されているこの作品は、Blur『Best of』(2000年)のジャケットでも知られるジュリアン・オピーの作風そのもの。最小限の線とベタ塗りで人物を描くスタイルは、アートに詳しくなくてもBlurのジャケットを知っていれば一目で「あ、これか」とわかる。筆者自身も、このキービジュアルを目にしたことで本展に興味を持っただけに、この作品には音楽ファンにも刺さる魅力がある。
ジュリアン・オピー『ゲイリー・ポップスター』の展示風景。本展のキービジュアルにも採用されている(筆者撮影)
イギリスの美術家に贈られるターナー賞を2000年、写真家では初めて受賞したヴォルフガング・ティルマンスの作品も見逃せない。90年代のロンドンのクラブシーンやゲイカルチャーを記録した写真家で、本展では『座るケイト』(1996年)と『ザ・コック(キス)』(2002年)といった数点が展示されている。
『座るケイト』のモデルであるケイト・モスは、イギリスを代表するファッションモデルとして知られる。Supremeのグラフィックにも起用されるなど、日本でも知名度が高い人物だ。また、元カレのミュージシャン、ピート・ドハーティとの関係をはじめ、ロックスターとの交友でもよく知られている。
『座るケイト』のモデルであるケイト・モスは、イギリスを代表するファッションモデルとして知られる。Supremeのグラフィックにも起用されるなど、日本でも知名度が高い人物だ。また、元カレのミュージシャン、ピート・ドハーティとの関係をはじめ、ロックスターとの交友でもよく知られている。
ヴォルフガング・ティルマンス『座るケイト』(1996年)の展示風景(筆者撮影)
一方、『ザ・コック(キス)』はジュリアン・オピーの『ゲイリー・ポップスター』とともに本展のキービジュアルにも採用されている作品。90年代~2000年代前後のクラブシーンの空気を凝縮した1枚だ。
左:『ザ・コック(キス)』ほか、ヴォルフガング・ティルマンスの展示風景(筆者撮影)
そして、このセクションで筆者が特に気になったのが、ジェレミー・デラーの『世界の歴史』(1997-2004年)。こちらはギャラリーの壁一面に手書きされたフロー図で、ブラスバンドとアシッドハウスという一見無関係な2つの音楽ジャンルを結びつけ、工業国からポスト工業国へ変化した英国の歴史を音楽を通じて提示している。
壁面にはアシッドハウス、レイヴ、ハードコア、ブレイクビーツ、ドラムンベースといった90年代のクラブカルチャーを象徴するジャンル名が並んでおり、クラブカルチャーが好きな人なら思わず足を止めることだろう。しかも、これらのジャンルは近年リバイバル傾向にあり、今の若い世代にとっても耳なじみのあるワードだ。アートとしての文脈を知らない人が、音楽の知識だけでも没入できる作品として、おすすめしたい。
壁面にはアシッドハウス、レイヴ、ハードコア、ブレイクビーツ、ドラムンベースといった90年代のクラブカルチャーを象徴するジャンル名が並んでおり、クラブカルチャーが好きな人なら思わず足を止めることだろう。しかも、これらのジャンルは近年リバイバル傾向にあり、今の若い世代にとっても耳なじみのあるワードだ。アートとしての文脈を知らない人が、音楽の知識だけでも没入できる作品として、おすすめしたい。
ジェレミー・デラー『世界の歴史』(1997-2004年)の展示風景(筆者撮影)
ちなみに、第3章と第4章のフロアの間にある休憩スペースには、当時のi-D誌やThe Face誌、さらにはジュリアン・オピーがジャケットを手がけたBlurのベスト盤の実物なども展示されていた。誌面にはヴォルフガング・ティルマンスの写真やケイト・モス、ジャミロクワイの姿が並び、アートと音楽、ファッションが地続きだった時代の空気をあらためて感じ取ることができる。
ジュリアン・オピーがジャケットを手がけたBlur『Best of』(2000年)と、ジャミロクワイが表紙のThe Face誌(1993年5月号)の展示風景(筆者撮影)
ヴォルフガング・ティルマンスの写真が掲載されたi-D誌(1991年12月号)の展示風景(筆者撮影)

Jun Fukunaga
ライター・インタビュワー
音楽、映画を中心にフードや生活雑貨まで幅広く執筆する雑食性フリーランスライター・インタビュワー。最近はバーチャルライブ関連ネタ多め。DJと音楽制作も少々。














