一度見たら一生忘れない、ハイパーリアルで謎めいた彫刻たち—六本木・森美術館「ロン・ミュエク」

花森 リド

Specialアウトドア・お出かけイベントカルチャー

謎に小さすぎるおじさん、大きすぎるおばさん

東京・六本木の森美術館で「ロン・ミュエク」展が開催中です。会期は9月23日まで。

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ロン・ミュエクは1958年生まれ、オーストラリア出身で現在はイギリスを拠点に活動する彫刻家です。日本でも、青森の十和田市現代美術館で常設展示されている『スタンディング・ウーマン』が人気。こちらは、現地や写真などで作品をご覧になったことのある方なら、作品名やミュエクの名を言わずとも「ものすごく大きなおばさん」のひと言で「アレね!」とピンとくるはず。ものすごく大きいんですよ、謎に。一度見たら絶対忘れない。

ミュエクの作品は、どれも謎に大きすぎたり小さすぎたりします。その多くは世界のどこかの街角にいそうな“ごく普通の人たち”で、なぜかしら私たちよりもちょっと違うサイズ感やボディバランス。そして、おそろしくリアルな質感で作られています。

アンバランスなのは一目でわかるのに、肌や目玉の質感は私たちのそれと同じ。血管の透け具合も、シワの寄り方も、関節あたりの血色のムラも、自分の手とミュエクの彫刻との差がわからない。なので作品と相対すると「どうして……」と奇妙な気分になります。その不穏なノイズが楽しくてクセになる現代アートです。

日本でのミュエクの個展は18年ぶり。本展では、日本初公開となる最新作『マス』から初期作『エンジェル』まで、寡作の作家ミュエクの彫刻が11点そろいました。TikTokやSNSでも話題の本展の魅力を紹介します。

なお、チケットは事前予約制。空きがある場合は当日券も販売されていますが、できるかぎりオンラインで事前にチケットを手配して行くことをおすすめします。

個人的には「平日の夜」がベスト! 平日は休日よりも入場料が少しお手頃で、夜ならば六本木ヒルズ53階からの夜景とともに作品を楽しめます

子ども向けのぬりえも会場入り口で配布中

何をしているのか、ナゼ裸なのか

本展は、森美術館の広々としたフロアに、11のミュエク作品が非常にゆとりあるレイアウトで並んでいます。これはミュエクが寡作だから……という事情もあるかもしれませんが、むしろ観客の多さの面からいうと、ちょうどよいバランスだと感じました。

最初に出迎えてくれたのは『枝を持つ女』。2009年の作品で日本初公開です。

ロン・ミュエク『枝を持つ女』(2009)。ボリューミーなのに小さい

観客(人間)と、作品とを並べると、状況の異様さがわかるかと思います。本展はほとんどの作品を全方向から鑑賞可能。ぜひグルグル回りながら、あらゆる角度から楽しんでください。どの角度から見てもヘンなので。

ロン・ミュエク『枝を持つ女』を後ろから見たところ。「太り肉(じし)の」という言葉がぴったりな足腰

『枝を持つ女』は、2013年にカルティエ財団現代美術館で開催された個展「Ron Mueck」でも展示されていた作品です。当時、何が何でもロン・ミュエクの作品を見たくてフランス旅行のタイミングに合わせて見に行きました。で、同行者と展示のあれこれを振り返ると、必ず「とにかく“木をいっぱい抱えた小さなおばさん”がパンチ最強だった」となる思い出深い作品。“小さなおばさん”に13年ぶりに再会できてうれしい。十数年前の作品とは思えないくらいみずみずしくてキレイ。解説によると作品の素材は「ミクストメディア」で、肌は樹脂やシリコンのようですが、とにかく保存状態の良さに感心します。

『枝を持つ女』は、反り返ったボディと、なんともいえない「ンー!」みたいな表情がイイんですよね。木の枝は細くて無数にあって、この小さなおばさんには重たそう。急いでいるんでしょうか、はたまた虫の居所が悪いのか、そもそもナゼ全裸なのか……。

そうした事情や背景は、ミュエク側からは何も解説されません。ミュエク作品は「これは、本当に、なんなんだろうね……」と考えながら見るのが楽しい。

“小さすぎるおばさん”の次に現れるのは、“大きすぎるおばさん”。

ロン・ミュエク『イン・ベッド』(2005)

『イン・ベッド』は、2006年に東京都現代美術館で開催された「カルティエ現代美術財団コレクション展」にも来日した作品で、当時キービジュアルにも使用されました。

脂肪につつまれてちょっとタプついた上腕のフレッシュさや、どこを見ているのかサッパリわからない物憂げな顔が印象的。どの角度から眺めても私は彼女と目を合わせられないので、だんだん不安な気持ちになります。たぶん、この人には私の姿が見えてないんだろうな〜。

『イン・ベッド』と同じエリアに並ぶ『若いカップル』も不穏な作品です。正面から見ると「ただの仲睦まじいカップル」といった印象なのに、後ろに回り込むと2人にはいろいろ事情がありそう。頭の中で一気に警報が鳴るんです。『若いカップル』はぜひ実物をご覧いただいて、ただならぬ空気を感じてほしいです。作品を見る人が、目にするもの以上の情報をキャッチして解釈を独自に広げていくさまは、ハイパーリアルな彫刻ならではの魅力だと思います。

目にするもの以上の情報というと、本展のキービジュアルに採用された『マス』も忘れがたい。『マス』は、おじさんでもおばさんでも若者でも赤ちゃんでもなく、人間の頭骨をモチーフにしたインスタレーション作品。頭骨のサイズはむちゃくちゃ大きく、しかも100個もあります。過剰!

ロン・ミュエク『マス』(2016−2017)。むちゃくちゃ大きい&数が多い

2017年の「NGVトリエンナーレ 2017」で初公開された本作は、その後フランス、イタリア、オランダ、韓国で展示されました。頭骨の配置などの展示方法は、美術館の特徴や広さに合わせて毎回再構成されており、今回も森美術館の展示室に合わせてミュエクが全て配置しているそうです。ドクロの目玉の向こうから他の観客が見えたり、よく見ると歯の一部が残っているドクロがいたり。性別も人種も不明で、皮膚を剥がされたのか自然と朽ちたのかストーリーはわかりませんが、ゴロゴロに積まれた真っ白な頭骨は不穏できれい。

「ミュエクといえば肌のフレッシュな質感」と思っていた私のイメージが覆される作品でした。
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花森 リド

ライター・コラムニスト
主にゲーム、マンガ、書籍、映画、ガジェットに関する記事をよく書く。講談社「今日のおすすめ」、日経BP「日経トレンディネット」「日経クロステック(xTECH)」、「Engadget 日本版」、「映画秘宝」などで執筆。
X:@LidoHanamori

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