ついに「決定的な証拠」を発見か?
2025年4月、ケンブリッジ大学のマドゥスダン教授(この記事の冒頭で2023年に「5年ほどのうちに生命の兆候を発見できるだろう」と発言した人物)は、地球から約124光年離れた太陽系外惑星K2-18bの大気観測で、2種類の分子の兆候を発見したとする論文を発表しました。
発見された2種類の分子、ジメチルスルフィド(DMS)とジメチルジスルフィド(DMDS)は、地球では微生物の活動によってしか生成されません。そのため、これまでに見つかった中で最も有力な地球外生命の証拠ではないかと注目されました。まさにマドゥスダン教授が2023年に語った予測が、現実になりつつあるように見えたのです。
ところが、マドゥスダン教授のチームが発見を裏付けるために追加研究を開始する一方で、発表から数週間のうちに、別の科学者たちが「その化合物は必ずしも生命活動によって生成されるとは限らない」と指摘し始めました。
DMSは、確かに地球上では生命活動でのみ生成される物質で、海洋の植物性プランクトンが大量に産生します。また分解が非常に速い物質でもあります。したがってDMSが見つかるということは、そこに生命が存在し、さらにそれを育む海がある可能性が高い、と考えられます。
しかしK2-18bに大量の液体の水があり、生命が存在しうる気候環境があるという証拠は、まだ揃っていません。カリフォルニア大学リバーサイドのツァイ氏が2024年5月に発表したシミュレーションでは、ジェイムズ・ウェッブ望遠鏡でK2-18bの大気からDMSを検出するには、大気中のDMS濃度が地球に比べて20倍以上必要だと仮定されました。マドゥスダン教授の研究では、この濃度が10ppmv(parts per million by volume、体積百万分率)と算出されています。これは地球の数千倍もの濃度であり、もし本当に生命活動でDMSやDMDSが生み出されているのだとすれば、その環境は地球とはまったく異なる可能性があります。
さらに、アリゾナ州立大学のルイス・ウェルバンクス氏とメリーランド大学のマシュー・ニクソン氏による研究チームは、マドゥスダン教授らがDMSとDMDSを発見した結果を検証しました。分子の発見に使用された統計モデルやデータを評価し、候補物質の数を当初の20種類から90種類に増やして再分析したところ、50種類以上が「可能性あり」と判定される、まったく異なる結果を報告しました。
ウェルバンクス氏は「DMSとDMDSだけではなく、あらゆる物質を検出できるのなら、本当に何かを検出したと言えるのだろうか?」と疑問を投げかけました。ただし同氏らは、マドゥスダン教授らの研究を否定するのではなく、あくまでさらなる観測・調査・分析が必要との見解です。
マドゥスダン教授自身も、4月の研究結果でK2-18bに生命が存在する可能性が「わずかに」上昇したことは確かだとしつつ、慎重さを失わず他の可能性も検討すべきだと述べています。そして、この研究によって地球外生命の可能性を議論するためのデータが得られたこと自体に意義があるとしました。
発見された2種類の分子、ジメチルスルフィド(DMS)とジメチルジスルフィド(DMDS)は、地球では微生物の活動によってしか生成されません。そのため、これまでに見つかった中で最も有力な地球外生命の証拠ではないかと注目されました。まさにマドゥスダン教授が2023年に語った予測が、現実になりつつあるように見えたのです。
ところが、マドゥスダン教授のチームが発見を裏付けるために追加研究を開始する一方で、発表から数週間のうちに、別の科学者たちが「その化合物は必ずしも生命活動によって生成されるとは限らない」と指摘し始めました。
DMSは、確かに地球上では生命活動でのみ生成される物質で、海洋の植物性プランクトンが大量に産生します。また分解が非常に速い物質でもあります。したがってDMSが見つかるということは、そこに生命が存在し、さらにそれを育む海がある可能性が高い、と考えられます。
しかしK2-18bに大量の液体の水があり、生命が存在しうる気候環境があるという証拠は、まだ揃っていません。カリフォルニア大学リバーサイドのツァイ氏が2024年5月に発表したシミュレーションでは、ジェイムズ・ウェッブ望遠鏡でK2-18bの大気からDMSを検出するには、大気中のDMS濃度が地球に比べて20倍以上必要だと仮定されました。マドゥスダン教授の研究では、この濃度が10ppmv(parts per million by volume、体積百万分率)と算出されています。これは地球の数千倍もの濃度であり、もし本当に生命活動でDMSやDMDSが生み出されているのだとすれば、その環境は地球とはまったく異なる可能性があります。
さらに、アリゾナ州立大学のルイス・ウェルバンクス氏とメリーランド大学のマシュー・ニクソン氏による研究チームは、マドゥスダン教授らがDMSとDMDSを発見した結果を検証しました。分子の発見に使用された統計モデルやデータを評価し、候補物質の数を当初の20種類から90種類に増やして再分析したところ、50種類以上が「可能性あり」と判定される、まったく異なる結果を報告しました。
ウェルバンクス氏は「DMSとDMDSだけではなく、あらゆる物質を検出できるのなら、本当に何かを検出したと言えるのだろうか?」と疑問を投げかけました。ただし同氏らは、マドゥスダン教授らの研究を否定するのではなく、あくまでさらなる観測・調査・分析が必要との見解です。
マドゥスダン教授自身も、4月の研究結果でK2-18bに生命が存在する可能性が「わずかに」上昇したことは確かだとしつつ、慎重さを失わず他の可能性も検討すべきだと述べています。そして、この研究によって地球外生命の可能性を議論するためのデータが得られたこと自体に意義があるとしました。
生命探査のターゲットはまだまだたくさん!そしていつかは…?
太陽系外惑星のうち、恒星からの距離や大きさといった条件から、液体の水が存在し、生命が存在する可能性があるとされるものは、K2-18bの他にも数多く発見されています。マドゥスダン教授のチームも、たとえK2-18bで生命の兆候が確認できなかったとしても、次の候補として10個の太陽系外惑星を研究対象に挙げているとしています。
具体的にどの「10個」かは示されていませんが、太陽系外惑星は既に5000個以上が見つかっており、2025年7月には、地球から約35光年離れた赤色矮星を周回するL 98-59 fがハビタブルゾーンに位置する可能性があるとの発表もありました。日々、地球外生命が存在し得る候補は増え続けています。
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、太陽系外惑星の大気から生命の兆候を探る研究で新たな領域を開拓しました。しかし、観測機器は元来、宇宙初期の恒星や銀河を詳しく調べることを主目的に設計され、感度にも限界があるため、取得データの解釈には慎重さが求められます。
では今後も地球外生命の発見が難しいままかといえば、実はそんなことはありません。NASAは2040年代を目標に、ハビタブルゾーンにある地球サイズの惑星で生命の痕跡を探ることに最適化したハビタブル・ワールド・オブザーバトリー宇宙望遠鏡(Habitable Worlds Observatory、HWO)の打ち上げを計画しています。
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の後継機と構想されるHWOによって、太陽系外惑星の直接撮影や、より高解像度なスペクトルの取得が可能になれば、K2-18bをはじめとする有望候補から生命の証拠が見つかる可能性は高まるでしょう(もちろんHWOを待たずして朗報が届く可能性もあります)。
HWOの打ち上げ計画は国際協力のもとで進められています。第2次トランプ政権の政策によって、NASAは大幅な予算削減を受けてはいるものの、本稿の最初でご紹介したアンケート結果を見ても、宇宙生物学者をはじめ多くの科学者は、宇宙に地球外生命が存在する可能性を現実的な仮説として捉えています。だからこそ、少しでも可能性の高い環境が見つかれば、そこでは必ず生命の兆候を探す研究が続けられていくはずです。
われわれが宇宙で「孤独な存在」ではないことは、まだ証明されていません。しかしそれを覆す大発見は、いつあってもおかしくないのです。
具体的にどの「10個」かは示されていませんが、太陽系外惑星は既に5000個以上が見つかっており、2025年7月には、地球から約35光年離れた赤色矮星を周回するL 98-59 fがハビタブルゾーンに位置する可能性があるとの発表もありました。日々、地球外生命が存在し得る候補は増え続けています。
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、太陽系外惑星の大気から生命の兆候を探る研究で新たな領域を開拓しました。しかし、観測機器は元来、宇宙初期の恒星や銀河を詳しく調べることを主目的に設計され、感度にも限界があるため、取得データの解釈には慎重さが求められます。
では今後も地球外生命の発見が難しいままかといえば、実はそんなことはありません。NASAは2040年代を目標に、ハビタブルゾーンにある地球サイズの惑星で生命の痕跡を探ることに最適化したハビタブル・ワールド・オブザーバトリー宇宙望遠鏡(Habitable Worlds Observatory、HWO)の打ち上げを計画しています。
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の後継機と構想されるHWOによって、太陽系外惑星の直接撮影や、より高解像度なスペクトルの取得が可能になれば、K2-18bをはじめとする有望候補から生命の証拠が見つかる可能性は高まるでしょう(もちろんHWOを待たずして朗報が届く可能性もあります)。
HWOの打ち上げ計画は国際協力のもとで進められています。第2次トランプ政権の政策によって、NASAは大幅な予算削減を受けてはいるものの、本稿の最初でご紹介したアンケート結果を見ても、宇宙生物学者をはじめ多くの科学者は、宇宙に地球外生命が存在する可能性を現実的な仮説として捉えています。だからこそ、少しでも可能性の高い環境が見つかれば、そこでは必ず生命の兆候を探す研究が続けられていくはずです。
われわれが宇宙で「孤独な存在」ではないことは、まだ証明されていません。しかしそれを覆す大発見は、いつあってもおかしくないのです。

Munenori Taniguchi
ライター。ガジェット全般、宇宙、科学、音楽、モータースポーツetc.、電気・ネットワーク技術者。
実績媒体:TechnoEdge、Gadget Gate、Engadget日本版、Autoblog日本版、Forbes JAPAN他
Twitter:@mu_taniguchi











