中国市場を後回しにする中国企業
もうひとつ、日本の読者に驚きがあるとすれば「彼らは中国で売る気があまりない」ことだろう。
Pophieは本社をシンガポールに置き、「シンガポール発ブランド」として展開する。市場投入は米国と日本が先で、中国本土は最後だ。「価格が高いことに加え、サブスクリプションは中国本土の消費者心理にまだ合わない」と、InsBoticsの創業者はその理由を語る。
INAIRはさらに踏み込む。同社の調光サングラスブランドは米テキサス州オースティンに登記した別会社だ。担当者は「中国企業でINAIRと同じ会社だと知られたくない。“from the USA”として打ち出したい」と明言した。同社はARグラス向けの超小型PC本体でも、中国国内での初期販売は「ギークユーザーが少なかったため」(担当者)不発に終わった。その代わり、海外YouTuberの越境購入レビューとDiscordコミュニティを起点に北米でPMF(プロダクトマーケットフィット=製品が本当に求められる顧客層に届いている状態)をつかんだ経緯を持つ。
Pophieは本社をシンガポールに置き、「シンガポール発ブランド」として展開する。市場投入は米国と日本が先で、中国本土は最後だ。「価格が高いことに加え、サブスクリプションは中国本土の消費者心理にまだ合わない」と、InsBoticsの創業者はその理由を語る。
INAIRはさらに踏み込む。同社の調光サングラスブランドは米テキサス州オースティンに登記した別会社だ。担当者は「中国企業でINAIRと同じ会社だと知られたくない。“from the USA”として打ち出したい」と明言した。同社はARグラス向けの超小型PC本体でも、中国国内での初期販売は「ギークユーザーが少なかったため」(担当者)不発に終わった。その代わり、海外YouTuberの越境購入レビューとDiscordコミュニティを起点に北米でPMF(プロダクトマーケットフィット=製品が本当に求められる顧客層に届いている状態)をつかんだ経緯を持つ。
INAIRのARグラス向け超小型PC本体。中国国内の初期販売は不発に終わったが、北米でPMFを達成した
背景には中国国内市場の苛烈さがある。価格競争は「太卷了(消耗戦(内卷)がひどすぎる)」と形容され、ヒットすれば即座に模倣が現れる。自律型コミュニケーションロボット・Loonaで知られるKEYi Techの担当者は「CESの会場で自社製品のコピー品を発見し、腹が立つやらおかしいやら」と苦笑していた。Ropetの担当者も「後発品はみんな形が似てくる。追い越される可能性もある」と認めた上で、こう言い切った。「私を超えられるのは、私自身だけです」
「安いだけの中国製」は卒業
価格戦略の変化も明確だ。Segway-Ninebotの担当者は言う。「低価格帯のノーブランド品と奪い合う必要は全くない。多少高くてもSegwayブランドは認められている。この業界にはまだ明確なリーダーがいない」
北京のSegway-Ninebot本社。「低価格帯のノーブランド品と奪い合う必要は全くない」と担当者
真空管スピーカーの開発者は、有名ブランドのOEMになれば売れると勧められた際の返答をこう振り返った。「不贴牌了(OEMはやめた)。自分のブランドでやりたい。500元のスピーカーでもこの音質は出せる。でも、このデザインと独創性はない。売っているのは音だけではないんです」
収益構造も多層化している。Pophieは2段階のサブスク(月10ドル/20ドル)に着せ替えアクセサリーを組み合わせ、予約単価250ドルを最終実売350ドルまで押し上げた。
Ropetは着せ替えモデルなどのバリエーションを展開する。ユニバーサル・ピクチャーズとのIPコラボまで用意した。サンリオとの協議では「ハローキティは目が小さすぎて、目で感情表現するうちのデザインでは再現できないため見送り、目が大きいIP、例えばピカチュウが欲しい」とまで語った。中国ハードウェアは今や、世界のIPライセンス市場の「買い手」である。
収益構造も多層化している。Pophieは2段階のサブスク(月10ドル/20ドル)に着せ替えアクセサリーを組み合わせ、予約単価250ドルを最終実売350ドルまで押し上げた。
Ropetは着せ替えモデルなどのバリエーションを展開する。ユニバーサル・ピクチャーズとのIPコラボまで用意した。サンリオとの協議では「ハローキティは目が小さすぎて、目で感情表現するうちのデザインでは再現できないため見送り、目が大きいIP、例えばピカチュウが欲しい」とまで語った。中国ハードウェアは今や、世界のIPライセンス市場の「買い手」である。
キャラクター展開や着せ替えの構想を示すディスプレイ。ブランドとIPで稼ぐモデルへ転換が進む
それでも日本は特別——ただし、教科書が変わった
取材を通じて一貫していたのは、各社の日本市場への強い執着だ。ただしその中身は、かつての「とりあえず日本にも出す」ではない。
Ropetにとって日本は「1日当たりの平均使用時間が、中国本土と北米をはるかに上回る」最も活発な市場だ。PophieはLOVOTを「身体の動きも目の表現も業界最高水準。尊敬している」と精密にベンチマークした上で、「だが本体と保守で40〜50万円では高すぎて大衆市場に入れない。そして話せないので(払いたいと思ってもらえるコストの)上限が低い」と分析し、約6万円+サブスクで同じ情緒市場(癒やしや愛着といった感情的価値を提供する市場)を取りにいく。日本限定で桜や富士山の形をした目のデザインまで用意済みだ。
一方で、参入の難しさへの理解も格段に深まっている。取材に同席した日本市場コンサルタントらに聞くと、中国メーカーは4つの「日本の壁」に直面しているという。
まず、総代理店の“ワンストライク構造”だ。「日本では代理店はそう簡単に替えられない。一度失敗したら、次の代理店は『前がダメだったならうちも保証できない』と言う」と、コンサルタントの一人は話す。
規制も特異だという。Segway-Ninebotは「日本は(最高速度表示灯の装備が義務化された)2024年から製品形態の要件が他国と完全に別物になった」と述べ、特定小型原付制度がグローバル共通仕様を許さない現実を語った。同社はそれでも「日本市場にはまだ大きなチャンスがある」と再参入を検討中だ。
Ropetにとって日本は「1日当たりの平均使用時間が、中国本土と北米をはるかに上回る」最も活発な市場だ。PophieはLOVOTを「身体の動きも目の表現も業界最高水準。尊敬している」と精密にベンチマークした上で、「だが本体と保守で40〜50万円では高すぎて大衆市場に入れない。そして話せないので(払いたいと思ってもらえるコストの)上限が低い」と分析し、約6万円+サブスクで同じ情緒市場(癒やしや愛着といった感情的価値を提供する市場)を取りにいく。日本限定で桜や富士山の形をした目のデザインまで用意済みだ。
一方で、参入の難しさへの理解も格段に深まっている。取材に同席した日本市場コンサルタントらに聞くと、中国メーカーは4つの「日本の壁」に直面しているという。
まず、総代理店の“ワンストライク構造”だ。「日本では代理店はそう簡単に替えられない。一度失敗したら、次の代理店は『前がダメだったならうちも保証できない』と言う」と、コンサルタントの一人は話す。
規制も特異だという。Segway-Ninebotは「日本は(最高速度表示灯の装備が義務化された)2024年から製品形態の要件が他国と完全に別物になった」と述べ、特定小型原付制度がグローバル共通仕様を許さない現実を語った。同社はそれでも「日本市場にはまだ大きなチャンスがある」と再参入を検討中だ。
Segway-Ninebotのショールーム。日本は特定小型原付制度でグローバル共通仕様が使えない
消費者の質も異なる。INAIRの担当者は「北米は9割がスペック表を見れば分かるユーザー。日本のユーザーは真逆で、スペック表で分かる人は1割未満。平易な言葉とユースケースで語らなければ、去っていく」と話す。
日本のユーザーは、プライバシーと説明責任にも敏感だ。カメラを積んだAIエージェント製品にとって、データの流れを明確に説明できるかどうかが、日本参入の最大の“非関税障壁”になりつつあるという。
日本のユーザーは、プライバシーと説明責任にも敏感だ。カメラを積んだAIエージェント製品にとって、データの流れを明確に説明できるかどうかが、日本参入の最大の“非関税障壁”になりつつあるという。
“6万円”の隣人たち
一連の取材を貫く物語を一言で表せば「世界の工場からAIプロダクトメーカーへ」の、さらに次の段階に中国企業があるということだ。ソフトウェア出身者がハードを「AIの器」として外注で作り、会話AIの飽和を横目に記憶と感情で差別化し、中国ブランドであることを隠してでも米日市場から始め、価格競争ではなくブランドとIPとサブスクで稼ぐ。
そして彼らは皆、日本製品を驚くほどよく研究している。1台50万円前後のLOVOTをウォッチし、日本の規制と流通と消費者気質を分析した上で、6万円前後など低価格の製品を携えてやってくる。
日本のメーカーと消費者がこの「隣人たち」とどう向き合うのか。答え合わせは、そう遠くない時期に始まる。
そして彼らは皆、日本製品を驚くほどよく研究している。1台50万円前後のLOVOTをウォッチし、日本の規制と流通と消費者気質を分析した上で、6万円前後など低価格の製品を携えてやってくる。
日本のメーカーと消費者がこの「隣人たち」とどう向き合うのか。答え合わせは、そう遠くない時期に始まる。

鷹木 創
編集主幹
2002年以来、編集記者や編集長などとしてメディアビジネスに携わる。インプレス、アイティメディアと転職し、2013年にEngadget日本版の編集長に就任。 その後スマートニュースに転職。国内トップクラスの機械学習を活用したアプリ開発会社においてビジネス開発として活躍。2021年からはフリーランスとして独立、IBM、Google などのオウンドメディアをサポートしている。













