防災ボトルにスニーカーなど「持ち歩く防災」が基本、オフィスワーカーのための総合防災ガイド

中野 亜希

Specialライフスタイル

帰る?とどまる?災害時の行動判断

東日本大震災の時、私は迷わず歩いて帰ることを選択しました。一人暮らしで愛犬が家で待っており、会社に長時間留まるより、 自宅のほうが安全に思えたからです。ただ、今思えばもう少し慎重に判断すべきだったかもしれません。

震度5強以上の地震直後は余震の危険性があり、交通機関の運行についても情報が不足します。「運転再開した」と聞いて駅に向かったものの、いつまでも電車が来ない……ということもあったと聞きます。

「天候が悪い」「体調が悪い」場合は、むやみに動くのは危険です。私も、もしハイヒールを履いて出社していたら、歩いて帰宅するのは諦めたと思います。

また、そもそも徒歩帰宅距離が15キロ以上ある場合は、かなり体力を消耗するでしょう。私は普段から犬の散歩で5キロ程度歩いていますが、最後の3キロはかなり体力的に辛かった記憶があります。そう考えると、歩き慣れていない人が15キロ以上を歩き通して帰宅するというのは無謀。会社が無事なら、状況が落ち着くまでそこに身を寄せたほうがいいかもしれません。

反対に、交通状況を正確に把握できている場合や帰宅ルートの安全が確認できているなら、帰宅を検討してもよいと思います。防災ボトルを含めた十分な装備と体力があれば乗り切れるはずです。

昨今は「従業員を危険にさらさないよう、余震や交通状況が落ち着くまで帰宅させない」という会社も増えています。あらかじめ、会社の方針を確認しておくことで、迷いのない行動が取れるでしょう。

安全な徒歩帰宅ルートの選定術

震災の日、私が真っ先にしたことは安全な徒歩ルートの確認です。スマホの残電量が貴重なものになる予感があったため、道順に加えて「木造家屋が密集」などの火災リスクの高いエリア、坂が多いエリアも洗い出し、それらを避けたルートを選び出しました。途中、土地勘のないエリアがあったので、曲がり角の雰囲気をストリートビューで確認し、いつバッテリーが切れてもいいように、すべてを頭に入れてひたすら歩きました。

なるべく大きな道路を選んで歩いたおかげで、 途中で水や食料を購入することもでき、ほぼ迷うことなく帰宅できました。「どうしても足が痛くなったら途中で自転車を買おう」とも考え、店舗の位置を確認しておいたのも心の余裕につながりました。

事前準備のポイントとしては、複数ルートの下見をしたうえで、「支援ステーションはあるか」「休憩できるポイントはあるか」を確認しておきたいところ。また、所要時間を頭に入れておくと、道に迷ったときや回り道せざるを得ない場合なども柔軟に動けるはず。

避けるべきエリアとしては

・古い木造住宅の密集地
・海抜の低い地域
・液状化の可能性がある埋立地
・狭い商店街や地下道

などが挙げられます。

それ以外にも

・大きな看板の下
・ガラス張りの建物付近
・高架下やトンネル
・崖や急斜面の近く

には思わぬケガのリスクもあります。

また意外に感じるかもしれませんが、災害時の避難においては集団行動はおすすめしません。人の密度が高い状態は、意思に関係のない「人の流れ」ができ、それに巻き込まれることで体力を消耗します。また「みんなと同じ方に行けばいいか」と判断力が低下したり、デマやパニック状態が拡散することも。人が多い時間を避けたり、危険を感じたら引き返す勇気を持ちましょう。「自分のことは自分で決める」ことが安全な徒歩帰宅の鉄則です。

オフィスでの防災とは?

カバンに入れておく防災グッズはあくまでも「0次の備え」。会社にもいくつかの常備品があると、「いざ」というときの大きな助けになります。

まず、ヒールやサンダルでは長距離歩行は困難です。私の場合は歩きやすいスニーカーをロッカーに入れています。

さらに以前のように「帰宅ルートの丸暗記」をしなくてもいいよう、帰宅支援マップを作成してあります。これはスマホが使えない時の頼みの綱になるはず。モバイルバッテリーも忘れずカバンに入れるようになりました。

会社としても「3日分の食料と水」「災害用ブランケット」などは用意してくれていますが、チョコレート、キャンディ、ドライフルーツといった糖分補給アイテムもデスクに入れています。

また先ほども触れましたが、会社の防災方針を理解しておくことも大切です。徒歩帰宅の可否や条件、オフィス内の避難場所、備蓄品の場所、緊急連絡網の確認……。平時に確認しておきたいことはいくつもあります。

自由参加なのをいいことに、以前はスルーしていた防災訓練にも、今はできるだけ参加しています。「知る」と「わかる」は全く別のことなのだと毎度実感します。こういった平時の準備は、パニックにならない心構えになることはもちろん、いざというときの優先順位の整理にも。感情に流されず、客観的な状況判断をするための支えになります。

一人暮らしの私を例に挙げてお話してきましたが、家族を守るためにも、自分がまず安全でいることが最優先だと実感しています。防災ボトルのカスタマイズで、まずは「0次の備え」を完成させましょう。また、徒歩帰宅ルートは実際に歩いて、所要時間や危険箇所、休憩ポイントを確認。複数ルートを想定しましょう。

大切なのは、「いつか来るかもしれない災害」ではなく、「必ず来る災害」に備えることです。 防災ボトル1つ作ることから始まる小さな行動が、いざという時にあなたと大切な人の命を守る大きな力になります。今日から、一歩ずつ備えを始めませんか? このガイドが皆さんの備えの一助となれば幸いです。
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中野 亜希

ライター・コラムニスト
大学卒業後、ブログをきっかけにライターに。会社員として勤務する傍らブックレビューや美容コラム、各種ガジェットに関する記事執筆は2000本以上。趣味は読書、料理、美容、写真撮影など。
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