入試監督はキャリアも専門も国籍も即成アベンジャーズ!経験者かつ真面目な先生が頼り……
試験監督は5、6人で一組のアベンジャーズだ。我がチームはベテラン教授を筆頭に准教授や助教、私のような兼任講師複数で編成された。お互い「はじめまして」の挨拶を交わした直後に「では試験開始です」とばかりに即戦力となる不思議な空間。研究室では孤高の(すなわち普段は若干コミュ障な)学者も、この日ばかりはチームプレイ力が求められるのだ。
特筆すべきは、日本の大学入試システムに不慣れな外国人教員の奮闘だ。もちろん日本語はペラペラであるが、「解答用紙を受験番号昇順で回収する」という日本特有の合理的な習慣の理由が伝わらずに「とりあえず全部集めたよ!」と持ってくる人もいたりするので、回収のたびに几帳面な日本人が番号順にソートし直し、枚数をカウントする羽目に。これもまた国際色豊かな大学ならではのカルチャーギャップで、枚数を数えながら「むしろこんなに番号バラバラに集める方が難しくないか?」と突っ込み、笑ってしまう。
替え玉受験防止のための写真票との照合作業は、予想以上の難関だった。女子生徒は気合いの入った化粧で別人と化していたり、前髪と黒髪ストレートロングで見える顔面積を極小にしていたり。男子も髪色が写真と異なる者が続出。特に米津玄師ファンなのか、重い前髪で顔の半分を覆い隠す男子生徒たちには本当に困らされる。「顔を上げてください」「髪を上げて顔と耳元を見せてください(イヤホンなどが装着されていないか確認するため)」と小声で注意するのも、試験監督の隠れた重要業務だ。
現役生は在籍高校ごとに受験会場が振り分けられているため、このキャンパスでは埼玉南東部の学校の生徒が揃った。そして学校ごとの「カラー」が実に興味深いのだ。とある工業高校は、学年全員が一種の実力テストとして(本人の大学入試に必要がなくとも)受験させられている様子。名前と受験番号を書いて問題用紙を見てから試験放棄し、試験開始早々に突っ伏す生徒が実在するのを目の当たりにし、「漫画とかドラマみたいじゃん! 本当にそういう子っているんだ!」と私は人生で初めてのワクワクを隠せなかった。
また、進学実績があまり高くない高校の女子生徒たちの中に、試験だというのに念入りなメイクで来る子がいるのも印象的だった。後日、別の大学の教員に聞いたところ「あれは気合いを入れるための勝負メイク。闘士がフェイスペインティングをするのと同じ」「それと他校の男子との出会いもあるかもだし」という解釈を聞き、妙に納得した。世の中にはそういう生存戦略もあるのだ。
試験中のチェックポイントは多岐にわたる。電子機器を身につけていないか、バッグは椅子の下にきちんと収められているか、机の上・中・膝掛けやポケットに携帯やカンニングペーパーのようなものがないか、その他その他……。毎年、試験に合格することではなく試験監督を欺くのを趣味としているかのような人々による挑戦がニュースになるが、あれは入試本部にとっての「敗北」。だからこっちも真剣である。
そして、もう一つの重要な仕事がトイレ対応だ。挙手した学生には、その場で解答用紙を裏返させ、廊下に控えている学生アルバイトに引き継いでトイレへ。帰ってきた時点から解答再開となる。これまでにも、受験生がトイレと称して携帯や問題用紙や解答用紙を持ち出し、不正に繋がったという歴史がある。何かを持ち出していないか、持ち込んでいないか、この間も私たちは緊張の糸を緩めることはできない。まさに「目を皿のようにして」という言葉がぴったり、気持ちは警察24時の特別捜査官である。
(後編に続く)
特筆すべきは、日本の大学入試システムに不慣れな外国人教員の奮闘だ。もちろん日本語はペラペラであるが、「解答用紙を受験番号昇順で回収する」という日本特有の合理的な習慣の理由が伝わらずに「とりあえず全部集めたよ!」と持ってくる人もいたりするので、回収のたびに几帳面な日本人が番号順にソートし直し、枚数をカウントする羽目に。これもまた国際色豊かな大学ならではのカルチャーギャップで、枚数を数えながら「むしろこんなに番号バラバラに集める方が難しくないか?」と突っ込み、笑ってしまう。
替え玉受験防止のための写真票との照合作業は、予想以上の難関だった。女子生徒は気合いの入った化粧で別人と化していたり、前髪と黒髪ストレートロングで見える顔面積を極小にしていたり。男子も髪色が写真と異なる者が続出。特に米津玄師ファンなのか、重い前髪で顔の半分を覆い隠す男子生徒たちには本当に困らされる。「顔を上げてください」「髪を上げて顔と耳元を見せてください(イヤホンなどが装着されていないか確認するため)」と小声で注意するのも、試験監督の隠れた重要業務だ。
現役生は在籍高校ごとに受験会場が振り分けられているため、このキャンパスでは埼玉南東部の学校の生徒が揃った。そして学校ごとの「カラー」が実に興味深いのだ。とある工業高校は、学年全員が一種の実力テストとして(本人の大学入試に必要がなくとも)受験させられている様子。名前と受験番号を書いて問題用紙を見てから試験放棄し、試験開始早々に突っ伏す生徒が実在するのを目の当たりにし、「漫画とかドラマみたいじゃん! 本当にそういう子っているんだ!」と私は人生で初めてのワクワクを隠せなかった。
また、進学実績があまり高くない高校の女子生徒たちの中に、試験だというのに念入りなメイクで来る子がいるのも印象的だった。後日、別の大学の教員に聞いたところ「あれは気合いを入れるための勝負メイク。闘士がフェイスペインティングをするのと同じ」「それと他校の男子との出会いもあるかもだし」という解釈を聞き、妙に納得した。世の中にはそういう生存戦略もあるのだ。
試験中のチェックポイントは多岐にわたる。電子機器を身につけていないか、バッグは椅子の下にきちんと収められているか、机の上・中・膝掛けやポケットに携帯やカンニングペーパーのようなものがないか、その他その他……。毎年、試験に合格することではなく試験監督を欺くのを趣味としているかのような人々による挑戦がニュースになるが、あれは入試本部にとっての「敗北」。だからこっちも真剣である。
そして、もう一つの重要な仕事がトイレ対応だ。挙手した学生には、その場で解答用紙を裏返させ、廊下に控えている学生アルバイトに引き継いでトイレへ。帰ってきた時点から解答再開となる。これまでにも、受験生がトイレと称して携帯や問題用紙や解答用紙を持ち出し、不正に繋がったという歴史がある。何かを持ち出していないか、持ち込んでいないか、この間も私たちは緊張の糸を緩めることはできない。まさに「目を皿のようにして」という言葉がぴったり、気持ちは警察24時の特別捜査官である。
(後編に続く)

河崎 環
コラムニスト・立教大学社会学部兼任講師
1973年京都生まれ神奈川育ち。慶應義塾大学総合政策学部卒。子育て、政治経済、時事、カルチャーなど多岐に渡る分野で記事・コラム連載執筆を続ける。欧州2カ国(スイス、英国)での暮らしを経て帰国後、Webメディア、新聞雑誌、企業オウンドメディア、政府広報誌などに多数寄稿。ワイドショーなどのコメンテーターも務める。2022年よりTOKYO MX番組審議会委員。社会人女子と高校生男子の母。著書に『女子の生き様は顔に出る』(プレジデント社)など。