GPUクラウドの国内利用率はわずか5.4%、認知は約半数~GMOインターネットグループのGPUクラウド利用実態調査

安蔵 靖志

AIGMOインターネットグループレンタルサーバー・ドメイン
GMOインターネットグループは、国内企業のIT部門責任者・担当者1128名を対象にGPUクラウドサービスの認知度と利用実態に関する調査を実施しました。その結果、約半数のIT担当者がGPUクラウドサービスを認知しておらず、利用率はわずか約5.4%にとどまり、利用されているGPUクラウドのうち約89.7%が海外サービスであることが判明しました。GPUクラウドの普及にはまだ課題があること、データを自国の法律に従って自国内で管理する「データ主権」の注目度が高まるなかでも、海外サービスが優勢であることが明らかになりました。

IT担当者の約5割がGPUクラウドサービス「初めて知った」、AI/機械学習分野との認知格差も

調査では、国内企業のIT部門責任者・担当者の約47.2%がGPUクラウドサービスを「今回の調査で初めて知った」と回答しました。さらに「聞いたことはあるが、詳しくは知らない」という回答が約24.3%を占め、合計約71.5%がGPUクラウドサービスについて詳しく知らないことが判明しました。

「GPUクラウドサービス」認知度

職種別に見ると、認知度に差がありました。AI/機械学習エンジニアでは「今回の調査で初めて知った」はわずか約13%で、詳しく知らないと回答した人は合計で約30.4%にとどまりました。一方、システム開発・運用担当者では「今回の調査で初めて知った」が約49%、詳しく知らないと回答した人は合計で約75.3%に達しました。研究開発部門の技術者・研究者も「今回の調査で初めて知った」が約50.8%、詳しく知らないと回答した人は合計で約73.8%に上りました。この結果から、IT部門内でも職務によってGPUクラウドサービスの認知度に大きな格差があることが明らかになりました。特にAI/機械学習エンジニア以外の職種では、認知度が低い傾向が顕著です。

「GPUクラウドサービス」認知度と利用経験

GPUクラウドサービス利用率は5.4%、海外サービス利用が約9割

また企業におけるGPUクラウドサービスの利用率はわずか約5.4%にとどまり、検討中の企業も約6%という結果になりました。

実際に「GPUクラウドサービスを利用している」「GPUサーバーをオンプレミスで利用している」と答えた94人にGPUの利用用途(複数回答)を聞いたところ、「生成AI(テキスト生成、画像生成など)モデルの開発」が約60.6%、「生成AI以外でのAIモデル学習や機械学習」が約51.1%と、AI関連で利用されているケースが多いことが分かりました。

「GPUクラウド・サーバー」利用率

利用されているGPUクラウドサービスは、海外サービスが約89.7%を占め、国内サービスは約10.3%と大きな差が付きました。自国のデータを自国内で管理する「データ主権」が注目されるなかでも、まだまだ国内のサービスは利用されていない実態が浮き彫りになりました。

利用中のGPUクラウドサービスの提供元

GPUクラウドサービス利用検討時に「データセキュリティ」を重視するIT担当者は約半数

IT部門担当者全体で、GPUクラウドの利用や検討において重視する項目としては、「データセキュリティ」(約49.5%)、「利用料金」(49.1%)、「サービスの安定性」(約33%)が上位を占めました。

実際にGPUクラウドを利用している担当者の場合、「データセキュリティ」(約66%)、「GPUスペック」(約48.9%)、「GPUリソースの可用性」(約41.5%)を重視する割合が高く、「利用料金」を重視するのは約35.1%にとどまりました。

この結果から、GPUクラウド・サーバーを利用している、GPUに関する知識がある人ほど、「GPUスペック」や「GPUリソースの可用性」を重視する割合が高く、「法的リスク」についても注視していることが分かります。

GPUクラウド利用・検討で重視する項目

IT担当者全体で、GPUクラウド利用・検討で重視する項目ランキング

GPUクラウド・サーバー利用者が、GPUクラウド利用・検討で重視する項目ランキング

調査概要
調査対象:国内企業に勤務するIT部門責任者・担当者(22~59歳)
調査期間:2024年7月11~12日
調査方法:インターネット調査(GMOリサーチ&AIのパネルを利用)
有効回答数:1128件

今後はデータ主権を確保できる「ソブリンクラウド」の重要性が高まると予想

GPUクラウドサービスは、AI分野を中心に注目が高まっているものの、国内企業における認知度や利用率は、まだ十分に高いとはいえない状況であることが今回の調査結果で明らかになりました。

一方、クラウドデータの安全性への懸念から、「データ主権」の概念が注目されています。これに対応する「ソブリンクラウド」(Sovereign Cloud、他国が法令などで定めたセキュリティ基準を満たすクラウドサービス)は、自国内でデータを管理し、セキュリティと法令遵守を担保するサービスです。国内企業のニーズから、データ主権を確保できるソブリンクラウドの重要性は今後さらに高まると予想されます。

今回の調査結果を受けて、生成AI向けGPUクラウドサービスを担当するインフラ・運用本部プロジェクト統括チームの佐藤嘉昌氏からのコメントは以下の通りです。

「GPUクラウドが、AIや機械学習以外の分野で認知が進まない理由としては、非AI分野でのGPUの利用価値がまだ十分に理解されていないことが挙げられます。特に、高性能なGPUを必要とする業務が限られ、認知度が低いことがあります。当社が提供予定の生成AI向けGPUクラウドサービスは、現時点で世界最高性能レベルのGPUと、ネットワーク、ストレージを備えます。それらを、我々の企業理念「スピリットベンチャー宣言」にある“新しい技術・新しい価値・新しいコンセプトを~使いやすく便利に提供する”ことで、“『笑顔』と『感動』を創造し、社会と人々に貢献”したいと考えています」

GMOインターネットグループは、国内最速となる2024年12月に「生成AI向けGPUクラウドサービス」の提供開始を予定しています。本サービスは、安心・安全な国産クラウド「ソブリンクラウド」として高性能なGPUと高速なネットワーク環境を提供することで、企業のAI開発や業務効率化を支援します。

2024年8月上旬には、本サービスで採用する「NVIDIA H200 Tensor コア GPU(以下、H200 GPU)」約800基の調達が完了し、サービス提供開始に向けて着々と準備が進んでいます。

NVIDIA H200 Tensor コア GPU

またH200 GPUの性能を最大限に引き出すため、AIワークロード専用に設計された世界初のイーサネットファブリック「NVIDIA Spectrum-X」を国内クラウド事業者で初めて採用します。H200 GPUとNVIDIA Spectrum-Xにより、生成AI開発や機械学習に最適化された高水準な GPUクラウド環境を実現します。

さらに、最も要求の厳しいAI/ML/DL大規模モデルをトレーニングするよう設計されたDell PowerEdge XE9680(NVIDIA H200 SXM 8基搭載)を採用し、システムの構築を進めています。

「生成AI向けGPUクラウドサービス」の主な特徴

1.NVIDIA H200 Tensor コア GPUを採用
2.NVIDIA Spectrum-Xの国内初採用
3.DDNの超高速ストレージを採用
4.NVIDIA AI Enterprise
5.Slurm


GMOインターネットグループは、本サービスを通じて、生成AI分野やハイパフォーマンス・コンピューティング(HPC)分野に取り組む企業や研究機関に対し、高水準な計算環境を提供し、国内AI産業の発展に貢献していきます。また、国内のデータ主権を重視したソブリンクラウドによるサービス提供を進め、セキュリティと利便性を両立したソリューションを提供していく方針とのことです。

米中貿易摩擦や各国間のサイバー攻撃など、国際的な政治情勢がめまぐるしく変化する中で、特定の国や地域の法律や規制に準拠し、その国や地域内にデータが保管・処理されるソブリンクラウドの重要性が高まっています。

海外クラウドサービスの利用はデータが海外に流出するリスクや、外国の法執行機関によるアクセスを受けるリスクがあります。ソブリンクラウドは、これらのリスクを低減し、より高いセキュリティを実現します。金融や医療など規制の厳しい業界では、ソブリンクラウド上にGPUクラウド環境を構築することで、規制に準拠したAI開発を行うことができます。

医療画像の解析や新薬開発のためのシミュレーションなど、大量のデータを処理する必要がある医療分野において、GPUクラウドの高速な計算能力が生かされます。また、個人情報保護の観点から、ソブリンクラウドのセキュリティが重要となります。

金融分野においても、リスク管理や不正検知のためのモデル構築など、GPUクラウドの高速な計算能力が求められます。また、顧客情報の保護という観点から、ソブリンクラウドのセキュリティが不可欠です。製品設計の最適化や、生産ラインの効率化のためのシミュレーションなど、製造業においても、GPUクラウドの高速な計算能力が活かされます。また、知的財産保護の観点から、ソブリンクラウドのセキュリティ機能が重要となります。

国内にデータが保管・処理されるソブリンクラウドとしてのGPUクラウドサービスは、今後のAI開発やデータ分析において、ますます重要な役割を果たしていくのではないでしょうか。

安蔵 靖志

Techジャーナリスト/家電エバンジェリスト
家電製品協会認定 家電製品総合アドバイザー(プラチナグレード)、スマートマスター。AllAbout デジタル・家電ガイド。ビジネス・IT系出版社を経てフリーに。デジタル家電や生活家電に関連する記事を執筆するほか、家電のスペシャリストとしてテレビやラジオ、新聞、雑誌など多数のメディアに出演。KBCラジオ「キャイ~ンの家電ソムリエ」にレギュラー出演するほか、ラジオ番組の家電製品紹介コーナーの商品リサーチ・構成にも携わっている。

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