「“ちゃんと”面白かった」と言われがちなゲーム原作映画
9月15日に公開された映画『グランツーリスモ』を見た人に「どうだった?」と感想を尋ねると、全員が「いやー、“ちゃんと”面白かった! 最高っ!」と言います。そう、最高でした。IMAXのバカでっかいスクリーンで見て大正解。
『トップガン マーヴェリック』を見たあとの満ち足りた気持ちを思い出しました。堂々たる王道スポ根爆速エンタメ(そして劇場を出たあと街の風景がゆーっくりに感じたのも一緒)。
映画『グランツーリスモ』、『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』と、2023年はゲームを原作とした映画が豊作です。
ところで、「ちゃんと」とはどういう意味なのでしょう。いや、何を隠そう私も内心「ああ、よかった。良い映画だ」とホッとして、すぐに「いったい何を勝手に心配していたんだ?」と首をかしげたわけです。『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』でも「“ちゃんと”マリオだし、楽しかった」って思っちゃった。ほんと、「ちゃんと」って何?
これはゲームを原作とする映画についてまわる宿命なのかもしれません。
史実や小説、それからマンガを原作とする映画だって「ここが原作と違う! リスペクトがない!」とファンから言われちゃうことはありますが、ゲームの場合はもっと根深い制約があります。それは、ゲームは「プレイヤーが遊ぶ」ことによって完成する作品であるという点です。
スクリーンを前に「自分のゲーム体験と、この映画は違う」と思ってしまうことは、少しさみしくて生々しい違和感を残します。
そして、そのゲームで遊んだことがない人からすれば、そんなゲーマーのノスタルジーに付き合う義理はないのです。ゲームしに来てるんじゃなくて、映画を見に来てるんだから。でも、「じゃあなんでプレイヤー不在の、ゲームを原作にした映画を撮るの!?」 ……と、堂々巡りをしてしまう。それがゲーマーであり、映画も好きな私にとってのゲーム原作映画です。制約が多く、注文をつける人も多く、とにかく評価のハードルが高い。
で、映画『グランツーリスモ』の原作は、“リアルドライビングシミュレーター”として初代PlayStationから最新のPlayStation 5までずっと愛されている「グランツーリスモ」シリーズです。私も下手くそながら遊んでいます。レースに没頭して時速300kmに近づくと、自分が光の粒に変わるようで心地よいゲームです(最新作の「グランツーリスモ7」では最近“救急車”が実装されました)。
『トップガン マーヴェリック』を見たあとの満ち足りた気持ちを思い出しました。堂々たる王道スポ根爆速エンタメ(そして劇場を出たあと街の風景がゆーっくりに感じたのも一緒)。
映画『グランツーリスモ』、『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』と、2023年はゲームを原作とした映画が豊作です。
ところで、「ちゃんと」とはどういう意味なのでしょう。いや、何を隠そう私も内心「ああ、よかった。良い映画だ」とホッとして、すぐに「いったい何を勝手に心配していたんだ?」と首をかしげたわけです。『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』でも「“ちゃんと”マリオだし、楽しかった」って思っちゃった。ほんと、「ちゃんと」って何?
これはゲームを原作とする映画についてまわる宿命なのかもしれません。
史実や小説、それからマンガを原作とする映画だって「ここが原作と違う! リスペクトがない!」とファンから言われちゃうことはありますが、ゲームの場合はもっと根深い制約があります。それは、ゲームは「プレイヤーが遊ぶ」ことによって完成する作品であるという点です。
スクリーンを前に「自分のゲーム体験と、この映画は違う」と思ってしまうことは、少しさみしくて生々しい違和感を残します。
そして、そのゲームで遊んだことがない人からすれば、そんなゲーマーのノスタルジーに付き合う義理はないのです。ゲームしに来てるんじゃなくて、映画を見に来てるんだから。でも、「じゃあなんでプレイヤー不在の、ゲームを原作にした映画を撮るの!?」 ……と、堂々巡りをしてしまう。それがゲーマーであり、映画も好きな私にとってのゲーム原作映画です。制約が多く、注文をつける人も多く、とにかく評価のハードルが高い。
で、映画『グランツーリスモ』の原作は、“リアルドライビングシミュレーター”として初代PlayStationから最新のPlayStation 5までずっと愛されている「グランツーリスモ」シリーズです。私も下手くそながら遊んでいます。レースに没頭して時速300kmに近づくと、自分が光の粒に変わるようで心地よいゲームです(最新作の「グランツーリスモ7」では最近“救急車”が実装されました)。
箱崎ジャンクションで救急車と記念撮影。緊急車両に道を譲っているのは目下お気に入りのR32 GT-R V・spec Ⅱ’94とポロ GTI’14
さあどうなるか……と、ドキドキしながら前情報を一切仕入れず見てみることに。そしたら「つべこべ言わず面白い」し、「ゲームのことも好きになっちゃう」、理想的なゲーム原作映画でした。そして、まさに“リアルドライビングシミュレーター”の物語。劇場でも光の粒になってきました。
まず「ハンコン」を買います
映画『グランツーリスモ』のストーリーは実話を基にして、2008年から始まった「GTアカデミー by 日産×プレイステーション」(以下、GTアカデミー)の挑戦と成功を描いています。
このGTアカデミーの活動が面白いんです。「めちゃくちゃグランツーリスモが上手な人間は、現実のプロレーサーになれるんじゃない?」という仮説に真正面から取り組むべく、グランツーリスモの大会で優勝したトッププレイヤーを、本物のプロレーサーとして育成し世界中のレースに送り出してきました(GTアカデミーは2016年に終了しています)。
そんなの無茶だろ!って思います? 無茶苦茶なチャレンジだったと思いますよ。
でもね、全然うまくないゲーマーの私でも、“リアルドライビングシミュレーター”ことグランツーリスモで遊ぶと、その生々しさにギョッとするんです。たとえば、普通自動車免許を取るとき。車種によって運転の手応えやエンジン音が違うことに気がついて「ハッ! グランツーリスモと一緒!」とニヤっとして教習が楽しくなったり。あと、教官から「遠くを見て!」と指導されたあとにグランツーリスモで遊ぶと、他のクルマと一切ぶつからずにスーッと走れたり(ぶつからずにクリーンに走ると報酬が1.5倍増えて感動)。現実の世界とグランツーリスモの世界が互いに作用しているようでした。
だから、現実の世界とグランツーリスモの世界が混じり合うGTアカデミーは非常に魅力的かつ「あり得る話」なんです。このGTアカデミーで2011年に優勝し、プロレーサーとなった人物が、映画『グランツーリスモ』の主人公、ヤン・マーデンボローです(マーデンボロー本人も本作のスタントに参加しています)。
このGTアカデミーの活動が面白いんです。「めちゃくちゃグランツーリスモが上手な人間は、現実のプロレーサーになれるんじゃない?」という仮説に真正面から取り組むべく、グランツーリスモの大会で優勝したトッププレイヤーを、本物のプロレーサーとして育成し世界中のレースに送り出してきました(GTアカデミーは2016年に終了しています)。
そんなの無茶だろ!って思います? 無茶苦茶なチャレンジだったと思いますよ。
でもね、全然うまくないゲーマーの私でも、“リアルドライビングシミュレーター”ことグランツーリスモで遊ぶと、その生々しさにギョッとするんです。たとえば、普通自動車免許を取るとき。車種によって運転の手応えやエンジン音が違うことに気がついて「ハッ! グランツーリスモと一緒!」とニヤっとして教習が楽しくなったり。あと、教官から「遠くを見て!」と指導されたあとにグランツーリスモで遊ぶと、他のクルマと一切ぶつからずにスーッと走れたり(ぶつからずにクリーンに走ると報酬が1.5倍増えて感動)。現実の世界とグランツーリスモの世界が互いに作用しているようでした。
だから、現実の世界とグランツーリスモの世界が混じり合うGTアカデミーは非常に魅力的かつ「あり得る話」なんです。このGTアカデミーで2011年に優勝し、プロレーサーとなった人物が、映画『グランツーリスモ』の主人公、ヤン・マーデンボローです(マーデンボロー本人も本作のスタントに参加しています)。
映画は、大学生のヤンがバイト代をがんばって貯めて「ハンコン(ハンドル型コントローラー)」を買うところから始まります。「My new gear……(ネットスラングで、新しい楽器やガジェットを手に入れた人がおもむろに口ずさむ愉快な言葉)」と言わんばかりに開封するヤン。
そう、グランツーリスモにどっっっっっっぷりハマる人は、ハンコンを手にします。ここでゲーマーは「わかる、わかる」と腕組みをし、同時に非ゲーマーとともに「最初の1歩、めっちゃ小さく始まるね?」とドキドキするわけです。
でもそれがいいんです。バイトしてハンコン買ってる庶民的な大学生が、実はグランツーリスモが超絶うまくて、レースが大好きで、ゲーム上では実在のクルマを駆って世界中のサーキットを何千回と走ってる。どんなコースラインを取れば勝てるかも知ってる。でも彼は「現実では」レーサーじゃない。
子どものころからプロレーサーに憧れているけれど、モータースポーツに興じるようなお金はない。コネもない。しかも家族は「ゲームばっかしないで現実を見ろ。そうだ、外でサッカーしようぜ!」なんて言ってくる! リアル!
そんな彼に、プロレーサーへのチャンスが与えられたら……?
そう、グランツーリスモにどっっっっっっぷりハマる人は、ハンコンを手にします。ここでゲーマーは「わかる、わかる」と腕組みをし、同時に非ゲーマーとともに「最初の1歩、めっちゃ小さく始まるね?」とドキドキするわけです。
でもそれがいいんです。バイトしてハンコン買ってる庶民的な大学生が、実はグランツーリスモが超絶うまくて、レースが大好きで、ゲーム上では実在のクルマを駆って世界中のサーキットを何千回と走ってる。どんなコースラインを取れば勝てるかも知ってる。でも彼は「現実では」レーサーじゃない。
子どものころからプロレーサーに憧れているけれど、モータースポーツに興じるようなお金はない。コネもない。しかも家族は「ゲームばっかしないで現実を見ろ。そうだ、外でサッカーしようぜ!」なんて言ってくる! リアル!
そんな彼に、プロレーサーへのチャンスが与えられたら……?
花森 リド
ライター・コラムニスト
主にゲーム、マンガ、書籍、映画、ガジェットに関する記事をよく書く。講談社「今日のおすすめ」、日経BP「日経トレンディネット」「日経クロステック(xTECH)」、「Engadget 日本版」、「映画秘宝」などで執筆。
X:@LidoHanamori