予備知識ゼロで文句なしに面白い!映画『グランツーリスモ』が再現した「ゲームと現実のリアリティ」

花森 リド

王道スポ根物語

GTアカデミーの地区選抜を勝ち抜き、育成メンバー入りしたヤンを待ち構えていたのは、モータースポーツのタフな現実でした。

知識やテクニックが備わっていても、肉体はまだレーサーじゃない。そして、死ぬかもしれない極限のレースで勝ち抜くメンタルの強さもまだない。なにより「どうせゲーマーだろ?」とレーシングチームのメンバーや他のレーサーから徹底的にナメられる。

ここから王道スポ根映画の世界へ一気になだれ込みます。だから観る側は何も心配しなくて大丈夫。たとえモータースポーツを一切知らなくても「何から何までテカテカに光ってる金ピカのランボルギーニに乗ってる、ちょっと傲慢な御曹司系レーサー」が現れたら、「あっ、ヤンのライバル!」とわかります。

そして王道のスポ根に必要なのは「指導者」。ヤンを導くナイスな大人たちを名優が演じています。頼もしくて人間くさくて大好き。

1人目は、オーランド・ブルーム演じるダニー・ムーア。GTアカデミーの発起人であるダニーは、イギリスの日産のマーケティングディレクター。ポリフォニー・デジタルが生み出したグランツーリスモのリアリティに惚れ込んで、GTアカデミーをノリノリで推進しているけれど、ちゃんとマーケターとしての仕事も忘れないリアリストです。

そしてもう1人はデヴィッド・ハーバー(「ヘルボーイ」や「ストレンジャー・シングス 未知の世界」でおなじみ)演じるチーフ・エンジニアのジャック・ソルター。かつて「ル・マン」を走った元プロレーサーのジャックと、グランツーリスモの中でならル・マンやニュルンベルクのコースを何千回と走ってきたのに現実では未知のものに取り囲まれるヤンの心のつながりに、ウルッとくる。

そんな「ハンコン開封の儀」から「ル・マンで入賞」までの爆速スポ根ストーリーを、監督のニール・ブロムカンプが一切ダレることなく描き切ります。

ニール・ブロムカンプやっぱり最高

本作でメガホンを取ったニール・ブロムカンプは、『第9地区』や『チャッピー』などの「ちょっとヘンテコなんだけど非常にリアルで忘れられないSF映画」で知られています。今までのブロムカンプ作品では「ニール・ブロムカンプ最新作!!」などとポスターでも全面的に宣伝されていた気がしますが、今回はそこまで大きくフィーチャーされていません。

でもスクリーンに見入っているうちに「こんなにダレなくて、レースが鬼のように速くてブッ飛びそうな映画、どこの誰が作ったんだ?」と気になってしょうがない。で、スタッフクレジットでババーンと出るブロムカンプの名前を見て「納得!」となるわけです。

いわれてみれば、レーシングカーのパーツを全部見せちゃうぜといわんばかりのマシン的表現や(これはグランツーリスモもそうです)、思わず金属の味がしてきそうな描写は、ブロムカンプのこれまでの映画に通じるものがあります。そして「これ、どうやって撮ったの?」とメイキングが気になるところもブロムカンプ作品らしい。

そう、こんなレースシーン、どうやって撮ったんだ? と圧倒されるのです。レーシングカーの中からも外からもブッ飛ばしてる。私がグランツーリスモをプレイして時速300kmで脳の奥がシーンと静かになるのと同じ体験を、映画館でも味わいました。

ということで、配給元のソニー・ピクチャーズが公開しているメイキング動画を紹介します。「リアルドライビングシミュレーターの映画をリアルに撮る」べく、本当にレーシングカーの中と外から撮ってます。

Behind the Scenes: How Gran Turismo captured real racing using the VENICE 2
「実話でもフィクションでも映画は面白かったらそれでいい」と私は思いがちですが、今回、そんなちょっと冷めた映画との距離を埋めてくれたのが、「グランツーリスモ」で遊んできた自分のゲーム体験でした。

「私もヤンと同じグランツーリスモで遊んでるよ! リアルだよねえ」って思うと、現実とスクリーンの境界があいまいになる。それこそがゲーム原作映画のチャーミングなリアリティなのかもしれません。しかも映画『グランツーリスモ』のストーリーが実話なのが、とってもうれしくなりますね。
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花森 リド

ライター・コラムニスト
主にゲーム、マンガ、書籍、映画、ガジェットに関する記事をよく書く。講談社「今日のおすすめ」、日経BP「日経トレンディネット」「日経クロステック(xTECH)」、「Engadget 日本版」、「映画秘宝」などで執筆。
X:@LidoHanamori

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