キャスティングでリアリティが加わった「悪い夏」

悪い夏
https://www.amazon.co.jp/dp/B0F88STHZJ
リアリティがないゆえにジェットコースターのように楽しめる。そんな原作に、キャスティングによるリアリティを与えたのが映画「悪い夏」だ。
市役所の生活福祉課に勤める佐々木守は、同僚の宮田から「職場の先輩・高野が生活保護受給者の女性に肉体関係を強要しているようだ」と相談を受ける。しぶしぶ真相究明を手伝うことになった佐々木は、当事者であるシングルマザー・愛美のもとを訪ねる。高野との関係を否定する愛美だったが、実は彼女はヤクザの金本とその愛人の莉華、手下の山田とともに、ある犯罪計画に手を染めようとしていた。それを知らずに愛美にひかれてしまう佐々木。悪夢のようなひと夏が始まる。
「クズとワルしか出てこない」と話題を呼んだ染井為人の同名小説を映画化した本作。北村匠海が真面目だが気弱な主人公を、河合優実が魅惑的なシングルマザーを演じているが、原作に感じていた「こんな気弱な男性がギャルっぽいシンママを好きになるだろうか?」という疑問がここで払しょくされた。暗くてうつろな目の2人、これならあり得る!
人物像も原作から少し変わっており、佐々木と、愛美の娘・美空の関わりが増えることで、原作よりも少しだけ希望が光るラストにつながっている。原作では叙述で説明されていたところを表情や振る舞いで表現した愛美役の河合優実や、映画ではカットされた役の背景を感じさせる金本役の窪田正孝もいい。金本に関しては、自分の女が刺されたときにちゃんと心配するという意外さもまたいい。
ラストの大混乱で、佐々木の窮地を救ったものが「アレ」だったのがグッとくる。「クズとワルしか出てこない」のは確かだが、誰も根っからの「クズ」で「ワル」ではないのだ。原作よりほんの少し温かいラストは、ひよったのではなく、そんな人間の矛盾をリアルに描いた結果だと思う。
リアリティがないゆえにジェットコースターのように楽しめる。そんな原作に、キャスティングによるリアリティを与えたのが映画「悪い夏」だ。
市役所の生活福祉課に勤める佐々木守は、同僚の宮田から「職場の先輩・高野が生活保護受給者の女性に肉体関係を強要しているようだ」と相談を受ける。しぶしぶ真相究明を手伝うことになった佐々木は、当事者であるシングルマザー・愛美のもとを訪ねる。高野との関係を否定する愛美だったが、実は彼女はヤクザの金本とその愛人の莉華、手下の山田とともに、ある犯罪計画に手を染めようとしていた。それを知らずに愛美にひかれてしまう佐々木。悪夢のようなひと夏が始まる。
「クズとワルしか出てこない」と話題を呼んだ染井為人の同名小説を映画化した本作。北村匠海が真面目だが気弱な主人公を、河合優実が魅惑的なシングルマザーを演じているが、原作に感じていた「こんな気弱な男性がギャルっぽいシンママを好きになるだろうか?」という疑問がここで払しょくされた。暗くてうつろな目の2人、これならあり得る!
人物像も原作から少し変わっており、佐々木と、愛美の娘・美空の関わりが増えることで、原作よりも少しだけ希望が光るラストにつながっている。原作では叙述で説明されていたところを表情や振る舞いで表現した愛美役の河合優実や、映画ではカットされた役の背景を感じさせる金本役の窪田正孝もいい。金本に関しては、自分の女が刺されたときにちゃんと心配するという意外さもまたいい。
ラストの大混乱で、佐々木の窮地を救ったものが「アレ」だったのがグッとくる。「クズとワルしか出てこない」のは確かだが、誰も根っからの「クズ」で「ワル」ではないのだ。原作よりほんの少し温かいラストは、ひよったのではなく、そんな人間の矛盾をリアルに描いた結果だと思う。
クズ男とのフォークダンス「もっと超越した所へ。」

もっと超越した所へ。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0B7BN61TT (Amazon Prime Video)
https://fod.fujitv.co.jp/title/g9kh/g9kh120001/ (FOD)
https://video.unext.jp/title/SID0079499 (U-NEXT)
異能の劇作家・根本宗子が、「映像化不可能」といわれた伝説の舞台を自ら映画化。クズ男を引き寄せてしまう4人の女性の恋愛模様を描いた恋愛バトル作品が「もっと超越したところへ。」だ。
2020年。デザイナー・真知子、元子役のバラエティタレント・鈴、彼氏に染まる金髪ギャル・美和、風俗嬢・七瀬。彼女たちは“クズ男”と付き合っていた。真知子はライブ配信者の怜人と、鈴はあざとかわいい男子の富と、美和はフリーター・泰造と、七瀬は元子役・慎太郎と。
それぞれの彼氏に不満を感じつつも、それなりに幸せな日々を過ごす彼女たち。しかし、男たちはどんどん増長し、ついに別れの時が訪れる。彼女たちが下す決断とは?
「~~してあげる」のような、ふとした発言に引っかかったり、何気ない仕草から透ける価値観に不安をあおられたりと、「あるある!」と叫びたくなるキャラクターの造形が本作の魅力だ。また「2020年のコロナ禍」を通じてそれぞれの考え方、受け止め方の違いをあぶり出しているのも、とてもリアルだ。
舞台の持つエネルギーは保ちながら、舞台では表現しづらい細かな感情表現を、クローズアップやカット割り、音響などでより分かりやすく描き出しているのが映画ならではの魅力だ。4人の女性の複雑な恋愛感情のニュアンス、「ムカつくクズ野郎」なだけではない、4人のクズ男たちの不思議な魅力が丁寧に描かれている。
オムニバスドラマのように見えていた4組のカップルのつながりが見えてくると、面倒くさい感情とキレッキレの本音により一層感情移入できる。超越できなかったかつての恋と、その先の「もっと超越したところ」の違いとは? 彼女たちが、クズたちが、何か大きな成長をしてその差が生まれたわけではない。その様子を眺めていると「恋愛は、結局のところ本人たちにしかわからない」……そんなことに改めて気づく。
https://fod.fujitv.co.jp/title/g9kh/g9kh120001/ (FOD)
https://video.unext.jp/title/SID0079499 (U-NEXT)
異能の劇作家・根本宗子が、「映像化不可能」といわれた伝説の舞台を自ら映画化。クズ男を引き寄せてしまう4人の女性の恋愛模様を描いた恋愛バトル作品が「もっと超越したところへ。」だ。
2020年。デザイナー・真知子、元子役のバラエティタレント・鈴、彼氏に染まる金髪ギャル・美和、風俗嬢・七瀬。彼女たちは“クズ男”と付き合っていた。真知子はライブ配信者の怜人と、鈴はあざとかわいい男子の富と、美和はフリーター・泰造と、七瀬は元子役・慎太郎と。
それぞれの彼氏に不満を感じつつも、それなりに幸せな日々を過ごす彼女たち。しかし、男たちはどんどん増長し、ついに別れの時が訪れる。彼女たちが下す決断とは?
「~~してあげる」のような、ふとした発言に引っかかったり、何気ない仕草から透ける価値観に不安をあおられたりと、「あるある!」と叫びたくなるキャラクターの造形が本作の魅力だ。また「2020年のコロナ禍」を通じてそれぞれの考え方、受け止め方の違いをあぶり出しているのも、とてもリアルだ。
舞台の持つエネルギーは保ちながら、舞台では表現しづらい細かな感情表現を、クローズアップやカット割り、音響などでより分かりやすく描き出しているのが映画ならではの魅力だ。4人の女性の複雑な恋愛感情のニュアンス、「ムカつくクズ野郎」なだけではない、4人のクズ男たちの不思議な魅力が丁寧に描かれている。
オムニバスドラマのように見えていた4組のカップルのつながりが見えてくると、面倒くさい感情とキレッキレの本音により一層感情移入できる。超越できなかったかつての恋と、その先の「もっと超越したところ」の違いとは? 彼女たちが、クズたちが、何か大きな成長をしてその差が生まれたわけではない。その様子を眺めていると「恋愛は、結局のところ本人たちにしかわからない」……そんなことに改めて気づく。
映画と小説の同時進行「マッチング」

マッチング
https://www.amazon.co.jp/dp/B0D1VWKS8Y
小説と映画を同時制作、という異例の手法で制作されたのが「マッチング」。原作でもなく、ノベライズでもない小説版と映画版。オリジナルストーリーを映像とテキストで二度楽しめる。
ウェディングプランナーとして働く恋愛に奥手な輪花は、同僚の尚美に勧められてマッチングアプリに登録。マッチした相手・吐夢と会う約束をするも、現れたのはプロフィールとは別人のような陰気な男だった。吐夢は輪花のストーカーと化し、恐怖を感じた輪花は取引先であるマッチングアプリ運営会社のプログラマー・影山に助けを求める。
同じ頃、“アプリ婚”した夫婦を狙った連続殺人事件が起こり、輪花がプランナーとして関わったカップルが惨殺される。そして輪花の周りにも不穏な気配が……。
正直言って、序盤はありきたりなサイコスリラーだな、と思っていたがとんでもなかった。怪しいなあ、と感じていた人はそのまま怪しかったが、さらに上を行くどんでん返しがいくつも用意されている。さらに、マッチングアプリが題材と思いきや、それはあくまで舞台装置で、物語の前半に様々な伏線が仕掛けられていたことを知る。
小説はほぼ同じ筋書きだが、映像で表現できることは映画で、テキストで表現できることは小説で、という割り振りがしっかり行われているように思う。登場人物の微細な感情変化を演技で表現し、原作小説では描ききれない部分を補完している。観比べ、読み比べることで「マッチング」は完全な形になるだろう。
小説と映画を同時制作、という異例の手法で制作されたのが「マッチング」。原作でもなく、ノベライズでもない小説版と映画版。オリジナルストーリーを映像とテキストで二度楽しめる。
ウェディングプランナーとして働く恋愛に奥手な輪花は、同僚の尚美に勧められてマッチングアプリに登録。マッチした相手・吐夢と会う約束をするも、現れたのはプロフィールとは別人のような陰気な男だった。吐夢は輪花のストーカーと化し、恐怖を感じた輪花は取引先であるマッチングアプリ運営会社のプログラマー・影山に助けを求める。
同じ頃、“アプリ婚”した夫婦を狙った連続殺人事件が起こり、輪花がプランナーとして関わったカップルが惨殺される。そして輪花の周りにも不穏な気配が……。
正直言って、序盤はありきたりなサイコスリラーだな、と思っていたがとんでもなかった。怪しいなあ、と感じていた人はそのまま怪しかったが、さらに上を行くどんでん返しがいくつも用意されている。さらに、マッチングアプリが題材と思いきや、それはあくまで舞台装置で、物語の前半に様々な伏線が仕掛けられていたことを知る。
小説はほぼ同じ筋書きだが、映像で表現できることは映画で、テキストで表現できることは小説で、という割り振りがしっかり行われているように思う。登場人物の微細な感情変化を演技で表現し、原作小説では描ききれない部分を補完している。観比べ、読み比べることで「マッチング」は完全な形になるだろう。
マンガで表現できない”歌声”の勝利「カラオケ行こ!」

カラオケ行こ!
https://www.amazon.co.jp/dp/B0CWGRTNHD (Amazon Prime Video)
https://fod.fujitv.co.jp/title/315s/ (FOD)
https://www.hulu.jp/lets-go-karaoke (Hulu)
https://www.netflix.com/jp/title/81761777 (Netflix)
https://video.unext.jp/title/SID0100186 (U-NEXT)
マンガや小説の中で「素晴らしい歌声」とあっても、多くの場合、読む者の想像力に任せるしかない。そんな中、原作マンガの物語を成立させるためにドンピシャの歌声を実写版へ持ってきたのが「カラオケ行こ!」だ
合唱部部長の岡聡実は、ある日見知らぬヤクザの成田狂児に突然カラオケに誘われ、歌のレッスンを頼まれる。組のカラオケ大会で最下位になった者に課される罰ゲームを回避するため、何が何でも上達しなければならないというのだ。狂児の勝負曲はX JAPANの「紅」。聡実は嫌々ながらも狂児に歌唱指導を行うのだが、いつしかふたりの関係には変化が……。
合唱部部長の中学生とヤクザが織りなす歌を通じた友情物語。ほとんどファンタジーといってもよい設定だが、どこかとぼけた面白さに変声期の少年の繊細な心理描写が同居することで独特のテイストが生まれている。綾野剛演じる狂児も、齋藤潤演じる聡実も、原作にあまりビジュアルを寄せていないのに、なぜかマンガから抜け出てきたように見えるのが不思議だ。
「歌」を実際の声と動きで表現できるのは実写ならでは。「中学生に歌の指導を頼むほど切羽詰まっているが、歌いたいのは難曲とされる『紅』」という下手なのかうまいのか絶妙にわからない狂児の歌唱力について、マンガを読んで想像を膨らませるのも楽しいが、何パターンもの「紅」を熱唱する綾野剛を堪能できるのは実写の強みだ。
そして聡実の歌う「紅」は本作のキモともいえる部分だ。完璧に歌いこなしているわけではないのに、そこにいる組員たち(と観客)の心に刺さる魅力がある。冒頭で狂児が聡実に歌唱指導を頼んだことにも説得力が生まれた。撮影時期は本人も声変わり中だったと聞いているが、この映画は年若い俳優の二度と訪れない一瞬のきらめきを閉じ込めた1本……という見方もできそうだ。
https://fod.fujitv.co.jp/title/315s/ (FOD)
https://www.hulu.jp/lets-go-karaoke (Hulu)
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https://video.unext.jp/title/SID0100186 (U-NEXT)
マンガや小説の中で「素晴らしい歌声」とあっても、多くの場合、読む者の想像力に任せるしかない。そんな中、原作マンガの物語を成立させるためにドンピシャの歌声を実写版へ持ってきたのが「カラオケ行こ!」だ
合唱部部長の岡聡実は、ある日見知らぬヤクザの成田狂児に突然カラオケに誘われ、歌のレッスンを頼まれる。組のカラオケ大会で最下位になった者に課される罰ゲームを回避するため、何が何でも上達しなければならないというのだ。狂児の勝負曲はX JAPANの「紅」。聡実は嫌々ながらも狂児に歌唱指導を行うのだが、いつしかふたりの関係には変化が……。
合唱部部長の中学生とヤクザが織りなす歌を通じた友情物語。ほとんどファンタジーといってもよい設定だが、どこかとぼけた面白さに変声期の少年の繊細な心理描写が同居することで独特のテイストが生まれている。綾野剛演じる狂児も、齋藤潤演じる聡実も、原作にあまりビジュアルを寄せていないのに、なぜかマンガから抜け出てきたように見えるのが不思議だ。
「歌」を実際の声と動きで表現できるのは実写ならでは。「中学生に歌の指導を頼むほど切羽詰まっているが、歌いたいのは難曲とされる『紅』」という下手なのかうまいのか絶妙にわからない狂児の歌唱力について、マンガを読んで想像を膨らませるのも楽しいが、何パターンもの「紅」を熱唱する綾野剛を堪能できるのは実写の強みだ。
そして聡実の歌う「紅」は本作のキモともいえる部分だ。完璧に歌いこなしているわけではないのに、そこにいる組員たち(と観客)の心に刺さる魅力がある。冒頭で狂児が聡実に歌唱指導を頼んだことにも説得力が生まれた。撮影時期は本人も声変わり中だったと聞いているが、この映画は年若い俳優の二度と訪れない一瞬のきらめきを閉じ込めた1本……という見方もできそうだ。
キャラのブレない実写化の大成功例「凪のお暇」

凪のお暇
https://www.amazon.co.jp/dp/B08CD3YKK4 (Amazon Prime Video)
https://www.hulu.jp/nagis-long-vacation (Hulu)
https://video.unext.jp/title/SID0050398 (U-NEXT)
原作が完結していない作品が実写化されると「ラストはどう締めくくるつもり?」といつも思う。同名コミックを原作とするTVドラマ「凪のお暇」もそうだった。しかし、よくある失敗作と異なるのは、映像化から数年たち完結した原作でも、主人公の凪がドラマ版とほぼ同じ決断をしていたことだ。
凪は、都内にある家電メーカーで働く28歳。いつも人の顔色を伺いながら周囲に合わせることで、日々何事もなく過ごすことを目標にしている。しかし、場の空気を読みすぎて他人に合わせて無理をした結果、過呼吸で倒れてしまう。「空気は読むものじゃない、吸って吐くものだ!」人生のリセットを決意した凪は会社を辞め、住んでいたマンションも解約し、彼氏もその他の人間関係も打ち捨て、コンプレックスだった天然パーマもそのままに、幸せになるため、人生の再生を図ろうとする――。
気弱でおとなしく、自分の意見を言えない凪に秘められた魅力を黒木華の絶妙な演技により存分に表現した本作。「空気を読みすぎて、結果軽んじられてしまう」、あるあるな悩みは実写のリアリティで切実に描写されていた。放送前は「配役が逆では?」と言われていた高橋一生演じる慎二と中村倫也演じるゴンのハマり具合も素晴らしかった。
凪のように「すべてをリセットしたい」人も、一見悩みなどなくうまく生きているように見える人も、みな不器用なりに自分を変えようと歩みを進める様子に励まされる。つまづいたり転んだり、助けたり助けられたり。根っからの嫌なヤツはいないファンタジーのような優しい世界なのに、それぞれが抱える悩みはリアルという塩梅もよかった。
放送時点でマンガが完結していなかったため、ドラマの後半はオリジナルな展開になる。基本的な凪の選択は数年後に完結した原作と同じだが、ドラマのほうがよりスッキリと整理された結末だ。原作のさまざまな可能性を残した「1人の人間として、それぞれの人生は続く」と予感させるエンディングにも捨てがたい良さがあるので、ぜひ読み比べ・見比べてみてほしい。
特に最後のラブホ鰯ナイトはしみた!(なにを言ってるの?と思った人は12巻を読んで!!)
おとなしい女と思いきや、凪が実はかなり芯のある“おもしれー女”であることをはじめ、キャラクターの根幹の部分を大切にしたからこその、キャラのぶれない納得の実写化が実現した良い例だと思う。
https://www.hulu.jp/nagis-long-vacation (Hulu)
https://video.unext.jp/title/SID0050398 (U-NEXT)
原作が完結していない作品が実写化されると「ラストはどう締めくくるつもり?」といつも思う。同名コミックを原作とするTVドラマ「凪のお暇」もそうだった。しかし、よくある失敗作と異なるのは、映像化から数年たち完結した原作でも、主人公の凪がドラマ版とほぼ同じ決断をしていたことだ。
凪は、都内にある家電メーカーで働く28歳。いつも人の顔色を伺いながら周囲に合わせることで、日々何事もなく過ごすことを目標にしている。しかし、場の空気を読みすぎて他人に合わせて無理をした結果、過呼吸で倒れてしまう。「空気は読むものじゃない、吸って吐くものだ!」人生のリセットを決意した凪は会社を辞め、住んでいたマンションも解約し、彼氏もその他の人間関係も打ち捨て、コンプレックスだった天然パーマもそのままに、幸せになるため、人生の再生を図ろうとする――。
気弱でおとなしく、自分の意見を言えない凪に秘められた魅力を黒木華の絶妙な演技により存分に表現した本作。「空気を読みすぎて、結果軽んじられてしまう」、あるあるな悩みは実写のリアリティで切実に描写されていた。放送前は「配役が逆では?」と言われていた高橋一生演じる慎二と中村倫也演じるゴンのハマり具合も素晴らしかった。
凪のように「すべてをリセットしたい」人も、一見悩みなどなくうまく生きているように見える人も、みな不器用なりに自分を変えようと歩みを進める様子に励まされる。つまづいたり転んだり、助けたり助けられたり。根っからの嫌なヤツはいないファンタジーのような優しい世界なのに、それぞれが抱える悩みはリアルという塩梅もよかった。
放送時点でマンガが完結していなかったため、ドラマの後半はオリジナルな展開になる。基本的な凪の選択は数年後に完結した原作と同じだが、ドラマのほうがよりスッキリと整理された結末だ。原作のさまざまな可能性を残した「1人の人間として、それぞれの人生は続く」と予感させるエンディングにも捨てがたい良さがあるので、ぜひ読み比べ・見比べてみてほしい。
特に最後のラブホ鰯ナイトはしみた!(なにを言ってるの?と思った人は12巻を読んで!!)
おとなしい女と思いきや、凪が実はかなり芯のある“おもしれー女”であることをはじめ、キャラクターの根幹の部分を大切にしたからこその、キャラのぶれない納得の実写化が実現した良い例だと思う。
おわりに
「改変することが問題じゃない。原作への理解と敬意がないことが問題だ」……そう言いたくなる実写化も多い中、ここで紹介した9本は原作へのリスペクトを持ちつつ、「映像ならでは」の表現を追求し、新たな魅力を創造している。観た後に原作を読むのもよし、原作の新しい解釈として映像を楽しむもよし……。どちらにしても深い満足を得られるはずだ。

中野 亜希
ライター・コラムニスト
大学卒業後、ブログをきっかけにライターに。会社員として勤務する傍らブックレビューや美容コラム、各種ガジェットに関する記事執筆は2000本以上。趣味は読書、料理、美容、写真撮影など。
X:@752019