世界中の地震学者が2023年9月、9日もの長期間にわたる謎の地震波を観測しました。その震源は北欧・グリーンランド東部のフィヨルド地帯であることはわかりましたが、その震動は通常の地震で記録されるようなにぎやかな波形ではなく、揺れのピークとピークの間隔が92秒もある、人間には感じ取ることができないほどゆったりとした揺れでした。
そして1年が過ぎた2024年9月12日、科学誌『Sicence』に、数日間の長きにわたり記録された震動現象がどのようにして起こったのかを研究した結果が報告されました。
そして1年が過ぎた2024年9月12日、科学誌『Sicence』に、数日間の長きにわたり記録された震動現象がどのようにして起こったのかを研究した結果が報告されました。
震動の発生源(出典:The Seismic Record /Angela Carrillo‐Ponce et al./ doi:0.1785/0320240013)
世界中の科学者が困惑した謎の震動
世界中の科学者らがこの震動に気付いた当時、カリフォルニア大学サンディエゴ校スクリップス海洋研究所の地震学者で、津波を含む自然災害の研究者であるカール・エベリング氏は、「地球の北部のいくつかの観測所で、これまでに見たことのない、非常に奇妙な信号」を確認しました。
この謎の震動の原因を究明しようと、地震学者から海洋学者、さらにはデンマーク軍など世界15カ国68人の研究者が調査に乗り出しました。そして研究者らがオンラインチャットで議論を交わしているさなか、グリーンランドでフィールドワークを行っていた別の研究者らが、ある人里離れたフィヨルドで津波が発生したとの情報を共有し、調査に加わりました。
この謎の震動の原因を究明しようと、地震学者から海洋学者、さらにはデンマーク軍など世界15カ国68人の研究者が調査に乗り出しました。そして研究者らがオンラインチャットで議論を交わしているさなか、グリーンランドでフィールドワークを行っていた別の研究者らが、ある人里離れたフィヨルドで津波が発生したとの情報を共有し、調査に加わりました。
ディクソン・フィヨルド(出典:Stephen Hicks/Google Earth)
研究者らは、地震データを分析し、揺れの発生源がグリーンランドの東部にあるディクソン・フィヨルドだったことを突き止めました。さらに震動が起こる前後の衛星写真や、デンマーク軍が撮影した航空写真を集めて比較していったところ、震動が発生した頃に撮影された衛星画像には、フィヨルドの峡谷の一部にダストが舞い上がったようなもやがかかっていることが確認されました。
温暖化が氷河を溶かし、フィヨルド地帯の海に崩落
研究報告によると、気候変動による温暖化が原因でグリーンランドの山麓の氷河が溶けて不安定になり、エンパイア・ステート・ビル25棟分に相当する氷や岩など2500万立法メートル相当が海になだれ込んだことが、問題の震動の発端となっていました。
またグリーンランド東部のフィヨルドを航行するクルーズ船が、この震動が収まって間もなく、エラ島と呼ばれる小さな島で、デンマーク軍の訓練や科学者らの研究に使われる施設が波によって破壊されているのを発見していました。これは、海に崩落した大量の氷河や岩によって押しのけられた海水が、非常に高い巨大津波のようになり、この狭いフィヨルドの岸に押し寄せたせいだと考えられます。
またグリーンランド東部のフィヨルドを航行するクルーズ船が、この震動が収まって間もなく、エラ島と呼ばれる小さな島で、デンマーク軍の訓練や科学者らの研究に使われる施設が波によって破壊されているのを発見していました。これは、海に崩落した大量の氷河や岩によって押しのけられた海水が、非常に高い巨大津波のようになり、この狭いフィヨルドの岸に押し寄せたせいだと考えられます。
ディクソン・フィヨルドで発生した地滑りの3日後に撮影された現場の映像
via www.youtube.com
そしてこの巨大津波は、観測された地震波に含まれる長い周期の振動波と共振していました。これは浴槽やコップの中で水が前後に跳ねかえるのと同じように、湖などの水がゆっくりと揺さぶられる「静振(seiche)」と呼ばれる現象だったことも判明。この静振が、9日間も続いた謎の震動の正体でした。
ディクソン・フィヨルドで発生した地滑りの3日後に撮影された現場の映像(上空から)
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波が海抜200mの地点まで到達
幸いにもエラ島は無人島で、破壊された施設も普段は無人だったため、けが人などの報告はありませんでした。ただ、施設の損害は約20万ドル(約2900万円)に上ったとのことです。また、謎の揺れの前後を比較する航空写真によって、エラ島では静振による波が海抜200メートルの位置まで到達していたことが、その痕跡から判明しました。
崩落した場所の前後比較。崩落後(写真右)は背後の稜線が大きく変わっている(出典:Søren Rysgaard, Danish Army)
一般的な津波は、ある程度陸地から離れた地下で発生した地震によって引き起こされます。そして周囲に何もない外洋では波は四方八方に分散し、通常なら数時間で消滅します。
しかし今回のケースでは、震源の役割となった氷河の崩落と地滑りが、グリーンランドの内陸約200キロメートルの場所で発生しました。そして細く枝分かれする水路状に入り組んだフィヨルド地形が、地滑りで発生した巨大な波のエネルギーを消散させることができなかったと、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの研究者スティーブン・ヒックス博士は説明しています。
しかし今回のケースでは、震源の役割となった氷河の崩落と地滑りが、グリーンランドの内陸約200キロメートルの場所で発生しました。そして細く枝分かれする水路状に入り組んだフィヨルド地形が、地滑りで発生した巨大な波のエネルギーを消散させることができなかったと、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの研究者スティーブン・ヒックス博士は説明しています。
ディクソン・フィヨルドで発生した振動による地震波が地球全体に広がっていく様子
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デンマーク・グリーンランド地質調査所(GEUS)の地質学者兼上級研究員で、この研究の筆頭著者であるクリスチャン・スベェネブィ博士は、9日間にもわたって震動が起こる現象は過去に観測されたことがなかったと述べています。ただ、グリーンランドでは巨大な地滑りが増加しており、気候変動による温暖化で地球の極域の氷が溶け続けるにつれて、今回のような大規模で破壊的な地滑りが増加する可能性があるとし「気候変動(による温暖化)が地球上のさまざまな現象を変化させ、異常な現象を引き起こす可能性がある」と述べました。
Munenori Taniguchi
ライター。ガジェット全般、宇宙、科学、音楽、モータースポーツetc.、電気・ネットワーク技術者。
実績媒体:TechnoEdge、Gadget Gate、Engadget日本版、Autoblog日本版、Forbes JAPAN他
Twitter:@mu_taniguchi