ナノサテライトIoTの現在と課題
こうして整備された軌道上のナノサテライト・ネットワークに、地上にあるIoT機器が接続するようになるわけだ。それにより、従来の携帯電話用の基地局ネットワークではカバーできなかったエリアでもIoT機器の設置・活用が可能になり、これまで未開拓だった場所でさまざまなアプリケーションが実現されることになる。また携帯電話ネットワークやWi-Fiといった通常の地上波無線技術では難しい、国単位・大陸単位という極めて広い範囲の全域を対象としたサービスも提供可能になる。
例えば通信会社のイリジウムは、66基の低軌道衛星によるネットワークを構築しており、世界のあらゆる場所で航行中・飛行中の船舶や航空機と接続できる。いうなれば、リコーの「@Remote」サービスを海や空の上にまで広げるようなものだ。また英国のLacuna Space(ラクーナ・スペース)は、240基の衛星によるネットワーク構築を目指しており、世界中のあらゆる場所で、5分に1回というペースで地上の機器との通信が可能な通信網を実現するとしている。これにより、例えば遠隔地を通るパイプラインなど、重要インフラのメンテナンスも効率化されるとしている。
例えば通信会社のイリジウムは、66基の低軌道衛星によるネットワークを構築しており、世界のあらゆる場所で航行中・飛行中の船舶や航空機と接続できる。いうなれば、リコーの「@Remote」サービスを海や空の上にまで広げるようなものだ。また英国のLacuna Space(ラクーナ・スペース)は、240基の衛星によるネットワーク構築を目指しており、世界中のあらゆる場所で、5分に1回というペースで地上の機器との通信が可能な通信網を実現するとしている。これにより、例えば遠隔地を通るパイプラインなど、重要インフラのメンテナンスも効率化されるとしている。
Connecting IoT devices everywhere!
Lacuna Space社のデモンストレーション動画
via www.youtube.com
またオーストラリアのMyriota(ミリオタ)は、25基の超小型衛星によるIoTネットワーク構築を目指しており、90分に1回という間隔でデータ収集が可能になるという。このプラットフォームを利用して実現されるサービスの1つが、絶滅危惧種を追跡するというものだ。Myriotaは野生生物にも装着可能で、10年間の稼働が可能な電池を搭載したトラッキング用端末を安価で提供。それを絶滅危惧種に装着することで、極めて広い範囲で行動や生態を追跡したり、あるいは死亡を確認(トラッキング端末が移動していないことで)するというわけである。
このように、既にナノサテライトIoTに基づくさまざまなアプリケーションやサービスが実現されている。しかしそれらを定着させ、より普及させるためには、いくつかの課題が残されている。
その1つは衛星の寿命だ。ナノサテライトは名前の通り極めて小さいということもあって、寿命は2年程度と比較的短い。特に通信網の整備の場合、高性能で高価な人工衛星を数基打ち上げ、長期的な運用をするという思想ではなく、一定の性能しか持たない安価な衛星を大量に打ち上げ、トータルで運用するという思想であるため、ある程度の故障や事故は前提となっている。
とはいえ故障や事故の許容にも限界がある。既に実績を出している企業でも、ナノサテライト運用をめぐる失敗に関するニュースは珍しくない。例えばSpaceXが2022年2月3日に打ち上げたスターリンク用衛星49基のうち、実に40基が1週間も経たないうちに大気圏に再突入した、あるいは再突入すると見られる(当然ながら、再突入した衛星は燃えてなくなってしまう)。これは地磁気嵐という現象が原因と考えられるそうだが、ある種の「使い捨て」前提のナノサテライトとはいえ、まだまだその打ち上げと長期的な維持を成功させるノウハウは開発途上なのである。
一方で宇宙ゴミの問題が深刻化しており、その対応も必要だ。宇宙ゴミ問題とは、宇宙空間に使われなくなった人工衛星などの「ゴミ」が散乱することで、使用中の人工衛星や宇宙ステーション などに衝突して破壊してしまったり、人命を危険にさらしたりするというものだ。例えばNASAは衛星の寿命が来たら自動的に軌道を外すか、他の宇宙船で回収する計画を進め、宇宙ゴミ化を防ぐ対応をしている。とはいえ宇宙空間を漂うゴミを効率的に回収する技術はまだ開発できておらず、ナノサテライトの流行が、宇宙ゴミの問題に拍車をかけるかもしれない。
さらにナノサテライトでは、さまざまな気象条件や地形で接続を維持するために、安全で信頼性の高い広帯域の通信回線を提供することも重要になる。そのためナノサテライト・ネットワークを運用する各社は、異なる周波数の利用や、通信システムの帯域幅と堅牢性を向上させるスキームの開発に取り組んでいる。このようにナノサテライトを活用するためには、通信網の構築といった目的に合わせた技術やノウハウの開発が、まだまだ必要なのである。
前述の通り、いまやIoTはIoE(Internet of Everything)IoEと表すほどの広がりを見せており、さまざまなモノの位置や状態をデジタル情報として把握できるようになっている。しかしその情報を地球上のどこからでもやり取りできなければ、いくらモノ自体が情報処理能力を持ったとしても無駄になってしまう。その意味でナノサテライトIoTの普及は、本物の「あらゆるモノのネットワーク」を実現する一歩となるだろう。そしてケビン・アシュトンの予言通り、それは社会のあり方をさらに一変させるものになるはずだ。
このように、既にナノサテライトIoTに基づくさまざまなアプリケーションやサービスが実現されている。しかしそれらを定着させ、より普及させるためには、いくつかの課題が残されている。
その1つは衛星の寿命だ。ナノサテライトは名前の通り極めて小さいということもあって、寿命は2年程度と比較的短い。特に通信網の整備の場合、高性能で高価な人工衛星を数基打ち上げ、長期的な運用をするという思想ではなく、一定の性能しか持たない安価な衛星を大量に打ち上げ、トータルで運用するという思想であるため、ある程度の故障や事故は前提となっている。
とはいえ故障や事故の許容にも限界がある。既に実績を出している企業でも、ナノサテライト運用をめぐる失敗に関するニュースは珍しくない。例えばSpaceXが2022年2月3日に打ち上げたスターリンク用衛星49基のうち、実に40基が1週間も経たないうちに大気圏に再突入した、あるいは再突入すると見られる(当然ながら、再突入した衛星は燃えてなくなってしまう)。これは地磁気嵐という現象が原因と考えられるそうだが、ある種の「使い捨て」前提のナノサテライトとはいえ、まだまだその打ち上げと長期的な維持を成功させるノウハウは開発途上なのである。
一方で宇宙ゴミの問題が深刻化しており、その対応も必要だ。宇宙ゴミ問題とは、宇宙空間に使われなくなった人工衛星などの「ゴミ」が散乱することで、使用中の人工衛星や宇宙ステーション などに衝突して破壊してしまったり、人命を危険にさらしたりするというものだ。例えばNASAは衛星の寿命が来たら自動的に軌道を外すか、他の宇宙船で回収する計画を進め、宇宙ゴミ化を防ぐ対応をしている。とはいえ宇宙空間を漂うゴミを効率的に回収する技術はまだ開発できておらず、ナノサテライトの流行が、宇宙ゴミの問題に拍車をかけるかもしれない。
さらにナノサテライトでは、さまざまな気象条件や地形で接続を維持するために、安全で信頼性の高い広帯域の通信回線を提供することも重要になる。そのためナノサテライト・ネットワークを運用する各社は、異なる周波数の利用や、通信システムの帯域幅と堅牢性を向上させるスキームの開発に取り組んでいる。このようにナノサテライトを活用するためには、通信網の構築といった目的に合わせた技術やノウハウの開発が、まだまだ必要なのである。
前述の通り、いまやIoTはIoE(Internet of Everything)IoEと表すほどの広がりを見せており、さまざまなモノの位置や状態をデジタル情報として把握できるようになっている。しかしその情報を地球上のどこからでもやり取りできなければ、いくらモノ自体が情報処理能力を持ったとしても無駄になってしまう。その意味でナノサテライトIoTの普及は、本物の「あらゆるモノのネットワーク」を実現する一歩となるだろう。そしてケビン・アシュトンの予言通り、それは社会のあり方をさらに一変させるものになるはずだ。
小林 啓倫
経営コンサルタント
1973年東京都生まれ、獨協大学外国語学部卒、筑波大学大学院修士課程修了。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米バブソン大学にてMBAを取得。その後外資系コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業などで活動。著書に『FinTechが変える!金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』(朝日新聞出版)、『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『ソーシャル物理学』(アレックス・ペントランド著、草思社)、『シンギュラリティ大学が教える 飛躍する方法』(サリム・イスマイル著、日経BP)など多数。