教えて、Windows 11（機能編）：27年の執筆歴を持つテクニカルライター・笠原一輝さんに聞く

2021.10.5

質問：「新しくできるようになったこと」はずばり何ですか？

笠原：既に述べてきたUXなどの強化を除けば、基本的に「新しくできるようになったこと」はありません。多くはWindows 10の弱点の改良や機能強化です。むしろWindows OSは「下位互換性」が最大の特徴であるので、ユーザーにとってはそれこそが重要ですから。

個人的にうれしい進化はBluetoothのオーディオ機能として新しくAACに対応したことです。AACはAppleのiOSなどで標準で使われているBluetoothオーディオのコーデック。WindowsではaptXという高音質コーデックに対応していましたが、最新のBluetoothヘッドホン（例えばソニーのWF-1000XM4、WH-1000XM4など）ではaptXが非対応になっていました。AACに対応したことでそれらの人気のワイヤレスヘッドフォンでも高音質で再生できるようになったことはとてもうれしいです。

編集部：Windows 10からの乗り換えが気になる読者は「乗り換え編」もご覧ください。

質問：笠原さんが気になる機能は？

笠原：Windows 11で地味に便利だと感じた機能は、外部ディスプレー接続時のウインドウの自動再配置機能です。ノートPCに外部ディスプレーを接続している場合、通常大きい外部ディスプレーにブラウザーやAdobe Acrobatなどの資料を表示するツールを表示しておき、ノートPCのディスプレー側にWordなどの文章作成ツールを置いて文章を作成するという使い方が一般的でしょう。その状態で外部ディスプレーを切り離すとブラウザーやAdobe AcrobatなどのツールはノートPC側のディスプレーへ強制的に移動させられてしまいます（ここまではWindows 10などでも同様）。

Windows 11では、その状態でもう一度外部ディスプレーにつなぎ直した場合、外部ディスプレーに表示していたアプリケーションは、元のディスプレーに先ほどの表示のまま再配置されます。デスクの上で外部ディスプレーに接続して使っていて、会議室に行くときにノートPCだけ持って行く場合、会議室のプロジェクタなどに投影する際、以前ならユーザーが自分自身で再配置する必要がありましたが、Windows 11ではその必要がないので快適です。

質問：覚えたら便利な機能は？

Windowsキー＋Gで表示されるXbox Game Bar、録画ボタンを押すとアプリケーションの動作が録画される。会議の記録を取りたいときなどに便利

笠原：これはWindows 11の新機能ではありませんが「Xbox Game Bar」という機能を覚えておくといいでしょう。もともとはゲームアプリのためのツール群を操作するUIですが、画面を録画する機能が用意されているんですね。この録画機能はゲームだけでなく、TeamsやZoom、さらにはWebブラウザーなどにも利用可能になっているので、それらのアプリを利用したビデオ会議を録画できるんです。

利用するにはキーボードの「Windowsキー」と「Gキー」を同時に押して録画ボタンを押すだけ。オーディオが記録できない場合には「設定」を示す歯車のアイコンを押し、「キャプチャー中」のタブを選び「録音するオーディオ」から「すべて」を選んでおくと、オーディオも含めて録画できます。

なお、ウインドウサイズを変更すると録画が終了してしまいます。会議中にウインドウサイズを変更したり、最大化したりしないように注意しましょう。録画データは「PC」-「ビデオ」-「キャプチャ」の順で探していくと、録画したアプリケーションの名前と日付のファイル名で保存されています。

質問：存在感の薄いXbox Game Barに何か変化がありましたか？

笠原：変化はありませんが、上記の通りTeamsやZoomなどのビデオ会議に録画するのにXbox Game Barは非常に有益です。これから存在感はどんどん増して行くと思いますよ。

質問：Microsoftストアってあんまり知らなかったんですが……

笠原：一見すると地味ですが重要な強化ポイントがWindowsの「Microsoftストア」です。macOSにおけるMac App Storeに該当するアップストアです。

これまでは従来型のWindowsアプリ（Win32アプリケーションなどと呼ばれている）と、Windows 8/10世代で導入した新しいタイプのアプリ（UWPと呼ばれている）の2つが混在していました。Windows 10のアップストアではこのうち後者（UWP）のみが基本的に配布可能でしたが、従来型のアプリを提供しているほとんどのアプリ提供元はUWPを利用していませんでした。

結果として、魅力的なアプリがそろわず、そのためにユーザーが利用しない状況が続き、ユーザーが増えないためアプリ提供元も魅力的なアプリを提供しないという負のスパイラルに入ってしまっていたのです。

Windows 11のアップストアになる「Microsoftストア」では、Windows 10の時代には提供されていなかったAdobeの定番クリエイターツール「Creative Cloud」が提供される予定など、提供アプリが増える予定（写真提供：Microsoft）

そこで、Windows 11のMicrosoftストアではWin32アプリケーションも配布できるようにし、かつアプリ提供元がユーザーに課金したい場合、アプリ提供元のシステムを利用するときには手数料を無料にしました。Microsoftの課金システムを利用する場合でも手数料を業界最低水準まで引き下げたのです。

これによりAdobeなどこれまでMicrosoftストアを利用してこなかったアプリベンダもMicrosoftストアの利用を表明しています。Windows 10の時代とは状況が大きく変わるでしょう。

質問：Androidアプリが動くっていうけど、ほんと？

将来のMicrosoftストアにはAndroidの「Amazon Appstore」が利用可能になる予定（写真提供：Microsoft）

笠原：本当です。Windows 11には、仮想化技術を活用してAndroid OSを動かせるようになっています。既にWindows 10でもLinuxがWindowsの上で動作していました（Windows Subsystem for Linuxと呼ばれている）が、Windows 11ではその仕組みを活用してAndroid OSを動かしているのです（Windows Subsystem for Androidと呼ばれる）。

このWindows Subsystem for Androidは完全なAndroid OSですが、Googleの認証が必要なGoogle Play Storeは搭載していません。ストア機能はAmazonが提供するアプリストアになります。

なお、Androidの機能は公開当初の10月5日時点では利用できません。ベータテスターの利用が年内に始まる予定で、一般ユーザーの利用開始は来年になる見通しです。

質問：あの青い花みたいなのは何ですか？バラですか？だとしたらどういう意味ですか？

あの青い花みたいなもの

笠原：バラだと思いますが、意味があるかはわかりません。ちなみに青いバラは遺伝子組み換えによって初めて実現したバラです。花言葉は「attaining the impossible（不可能を成し遂げる）」。Windows 11でこれまで不可能だったことを成し遂げる――そんな願いをかけたのかも!? なお、歴代のWindowsの壁紙はMicrosoftの従業員が撮影した画像を利用しています。有名なところではWindows XPの草原の壁紙、あれもMicrosoftの従業員が撮影した画像です。このバラの写真ももしかしたらそうかもしれませんね。

乗り換え編はこちら。

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笠原一輝

ライター
1994年よりテクニカルライターとして活動を開始。90年代はPC雑誌でライターとして、2000年代からはPC WatchなどのWeb媒体を中心に記者、ライターとして記事を寄稿している。海外のカンファレンス、コンベンションを取材する取材活動を1997年から20年以上続けており、主な分野はPC、半導体などで、近年はAIといった分野での執筆が増えている。