「✕ 推し活」50代コラムニスト、ペンライトを振り清竜人25に酔いしれ、チェキ撮影に並ぶ:河崎環のタマキ✕(カケル)

河崎 環

Specialイベント映画・音楽

これはアートの一形態である

意地悪なコンプラ的見方をするなら「一夫多妻制だなどとケシカラン!」なんて野暮くささの極みみたいなことを言いたくなりそうだけど、全然そんなんじゃないもんね。わかったうえで、あえてそういうキワキワで表現を楽しむ、これは全肯定感と博愛の音楽であるのだ。

会場にはサイン入りのツアーポスターが飾られていた。愛しい

この2020年代に何がアウトで何がセーフか。アイドル表現や音楽性のどこが魅力的で、それは現代の音楽シーンにどういう意味や風景をもたらすか。これは、音楽家として15年選手のシンガーソングライターであり、プロデューサーの清竜人が、音楽からビジュアルブランディングのディテールに至るまで緻密にそれを織り上げた、アイドルグループというジャンルを借りたアートなのである。

これまでの15年間にわたる濃厚なソロ活動の中でも、エモーショナルなラブバラードやシアトリカル(劇場的)な作品作りを、もともと得意領域としてきた清竜人が、アイドルという仕組みを巧みに使ってラブソングに実体を与えて展開しているのだ。

ソロからグループになることで見え方が点や線から「面」になり、男声と複数の女声で主旋律が重奏的になり、男女の恋愛感情が双方から歌われることで歌詞の世界観が立体的になる。そして男女の恋愛のさまざまな瞬間を切り取った歌詞は、たわいのないラブソングのようでいて、必ずハッピーエンドに着地する。そこに陳腐な「一夫多妻制やハーレムを名乗るとは、男尊女卑でケシカラン!」なんて感想の入り込む余地は1ミクロンもない。

なぜかって。

一夫多妻制とかハーレムという言い方がジョークであることは、私のようなニワカ中のニワカにも一瞬で理解できるくらい明らかだからだ。

グループ内での「夫人たち」と「竜人くん」の関係性が、「もーう、仕方ないな、竜人くんは!」と圧倒的に夫人たち優位であること。彼女たちに個性のバラエティはあるが、比較や序列は絶対に生まれず、「誰がいちばん竜人くんに愛されているか」などという議論も起こらないこと。竜人くんに平等に全肯定され、無条件に愛され愛し返すことによって彼女たちの自己肯定感が絶対的に担保されていること。そして何よりも、このハーレムの中心であるはずの竜人くんが、「自分で始めたことなのに夫人たちからチヤホヤされることに慣れず、終始照れまくってしまっていること」。

ハーレムというより、大人の共通理解と合意共有と呼吸で成立したユートピア(理想郷)・プレイ。これはもはや音楽の形で行われる現代社会のセラピーなのである。

野太い声で「りゅーじんくーん!」のコール

何も比べない。それぞれ誰もが無条件に愛され、愛し返す。「そういうテイで、全員がただハッピーな恋愛のあり方を切り取って、音楽にした」のが清 竜人25なのではないか。

SNSアップOKのアナウンスもあり、動画を撮りまくるワタクシたち

したがって、ライブに足を運んだファンは、全メンバーから発せられ、客席へと注がれる愛のシャワーを受け、多幸感に全身を浸す。それぞれの推しメンバーに対して推し色のペンライトを振り、歓声を上げるファンたちだが、男性ファンが野太い声で「りゅーじんくーん!」とコールするのも特徴的だ。清竜人を中心とした愛のハーレムを、私たちは擬似体験しにライブへ行く。彼らはこのグループの本質を正しく理解しているのである。

7月に再結成した清 竜人25だが、実は前身となる同名のアイドルグループがあり、2014年から2017年まで約3年にわたる活動ののち、人気絶頂の中で解散している。旧25の夫人たちはツイッター(当時)を利用してオーディションで選抜された、音楽活動中やアイドル志望の「素人」であったのに対し、現25の夫人たちはアイドルグループとして活動実績のあるプロばかりを、清竜人がアイドルの音楽プロデュース活動をする中でスカウトして揃えたのだという。

現25はスタートの時点で歌唱や表現力、ダンスなど、音楽性もタレント性も既にメジャーのクオリティであるゆえに、この「一夫多妻制という奇天烈な“テイ”の」アイドルプロジェクトは、キモくもイヤらしくもならずに、プロのアート表現として整って成立しているのだ。

あらゆるジャンルの音楽を聴き続けてきた大人のリスナーとしては、初めて出会った時点の25がこのプロクオリティだったから、強烈な恋に落ちてしまったという実感がある。清竜人がソロ活動をソニーミュージックへとレーベル移籍した時のインタビューで、あらためて自分の強みとは「上質なポップス」を作る力なのだと認識したと語っている。まさにその上質なポップスがこういった形態で提供されていることに、ファンとして「すごくいいと思います、聴きます」と賛意を署名したい、そんな気分なのだ。

やだ、ときめく(トゥンク)

多幸感のシャワーとなるライブに初参戦した私は、生まれて初めて慣れないペンラを振って、苦笑しっぱなしだった。どの曲でどう振るのか、周りの古参ファンたちの動きを観察しながら真似するのだけれど、「そうか、ここはリズムに合わせて小刻みに横振りね」「あ、これはただの縦振りなのではなくて、手を前へ長く伸ばすプロセス込みでリズムを取るのか」と、いちいち勉強になる。力が入りすぎてうっかりスイッチを押してしまい、6色ある点灯カラーを慌ててカチカチ変えながら元の色(竜人くんの推し色は赤)に戻すという場面も何度かあって、恥ずかしさに身悶えしたりした。

そしてライブ終演後は、いよいよ先行グッズ販売で守備よく手に入れた、「チェキ撮影券」の出番である。

実は当日の午前中、私は「そんなチェキ券なんて本当に買うの、私? こんなニワカなのに、他の古参ファンたちに混じってそんなことしていいの? さすがにそれはやりすぎでは……」と自宅で悩んでいた。それを友人たちのチャットグループで告白したところ、やはりミュージシャンの推し活を趣味とする1人が、

「3500円で推しとチェキが撮れるなんて、絶対買いです。そんなチャンスは今しかありません。これを逃したら、今後は値段が上がるか、接触時間が短くなるかのどちらかです。それに本人とお話しして隣に立ってみると、一層(推す気持ちが)深まりますよ」

と、決然とした口調で背中を押してくれた。うんわかった、そうねそうよね、推しは推せる時に推せ、チャンスは逃すな、よね!!

果たして私は人生初のアイドルライブで、人生初のチェキを竜人くんの真隣で撮らせてもらったのである。100人近くが並ぶ列で、自分のターンがやってきた時の高揚感ったら、まさしく恋愛のそれだ。

河崎「よろしくお願いします!」
竜人「あ、よろしく〜(クス)」
河崎「あのっ、ファーストテイクがバズった日からずっと、1カ月以上毎日聴いててっ! もうこーんな感じに(手で崖から落ちるジェスチャー)ハマっちゃってっ!」
竜人「(耳を寄せて)うん、うん。あ、ホント? (微笑)」
撮影係のスタッフさん「撮りますよー!」
河崎「あっ、と、撮らなきゃ!」
(竜人くんと河崎で片手ずつハートを作る指先が勢いで触れる。河崎はときめき過ぎてキュン死するが即蘇生し、なんでもなさそうな表情を作る)
河崎「ありがとうございました! 私、生まれて初めてペンラ振りました!」
竜人「あ、そうなの? ありがと。また来てね(微笑)」
河崎「(トゥンク)ありがとうございます……」

どうだ、いいだろうチェキ

また来るよ、来るに決まってるじゃん!(号泣)

ああ、本物の竜人くんはめっちゃ抑制の効いたイケボで、ひたすら受容の姿勢で、優しかった。もう音楽性がどうとか社会文化的な意味とか、なんやら難しいこと、どうでもええわ。竜人くんの多幸感マジックにかかった50代コラムニスト、またペンラを振りに行くのだ、竜人くんの擬似夫人になるのだ、と豊洲の運河に向かって強い意志で約束した夜であった(つづく……のだろうか)。

案外に学習能力が高いタマキ、百均で推しグッズが売っているのも把握し、押しを持ち歩くという正しい使い方も習得

竜人くんと表参道のカルティエイルミネーションを見に行ったの(大妄想)

30 件

河崎 環

コラムニスト・立教大学社会学部兼任講師
1973年京都生まれ神奈川育ち。慶應義塾大学総合政策学部卒。子育て、政治経済、時事、カルチャーなど多岐に渡る分野で記事・コラム連載執筆を続ける。欧州2カ国(スイス、英国)での暮らしを経て帰国後、Webメディア、新聞雑誌、企業オウンドメディア、政府広報誌などに多数寄稿。ワイドショーなどのコメンテーターも務める。2022年よりTOKYO MX番組審議会委員。社会人女子と高校生男子の母。著書に『女子の生き様は顔に出る』(プレジデント社)など。

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