『AI・機械の手足となる労働者』が描く、AIが管理する未来の労働

小林 啓倫

AIテクノロジー

デジタル工場ってなんだ!?

かつての工場内労働を思わせる労働が復活していると述べたアルテンリートだが、それは古い工場内労働の単なる復活ではなく、「工場の変革、増殖、そして一般化」が起きているのだと指摘する。

いまやデジタル技術によって、物理的な工場という空間を超えて、作業者を工場的な管理の下に置くことが可能になった。その結果、労働力として期待できる潜在的なマンパワーは世界中に広がり、多種多様なバックグラウンドを持つ人びとを同じ作業へ従事させられるようになっている。

またそこに参加する労働者も、1つの仕事に縛られるのではなく、さまざまな依頼(それは単発もしくは短期間の雇用や作業であることが多い)を掛け持ちして稼ぐことが可能になった。そしてこうした変化は、労働の社会的分業とその地理、そして階層と社会的闘争のあり方をも再構築している。

このような「デジタル工場」という新しい現象を分析し、理解することで、現代のデジタル資本主義の姿を正しく把握できるのだとアルテンリートは主張している。

デジタル工場を加速させた「パンデミック」と「AI」

本書の出版は2022年1月であり、調査や分析は2010年代の状況に基づいたものも含まれているが、その後の社会の流れは、デジタル工場を抑制するというより、さらに促進しつつあるといえるだろう。

その要因の1つは、本書の第7章でも触れられている、新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックだ。COVID-19の世界的な流行は、人と面と向かって会うことなく、オンライン上で作業を完結させる環境や文化の整備を促し、第4章で取り上げられているクラウドワークにとって大きな追い風となった。

またオンラインで買い物し、自宅に届けてもらうという行為もパンデミックによってより一般的なものとなり、それに伴って第2章で取り上げられているラストワンマイルの需要が増加している。パンデミックが終息したいま、これらの傾向が続くかどうかは定かではないが、少なくともデジタル工場の普及を阻害するものではない。

そしてもう1つが、AI(人工知能)ブームである。AIは1950年代から研究が続けられているが、2010年代に登場したディープラーニング(深層学習)などの新しい開発手法により、「第3次AIブーム」と呼ばれるほどAI研究・開発が盛り上がりを見せている。それをさらに過熱させているのが、2022年末にOpenAIがリリースしたウェブサービス「ChatGPT」をはじめとする、生成AIと呼ばれる新しいタイプのAIだ。

AI開発で拡大するデジタル工場

生成AIは自然言語(人びとが日常で使用する言葉や表現)で操作でき、同じく自然言語で反応を返してくれるという特徴を持ち、ますます多くの人びとが日常的にAIを利用するようになっている。こうした状況から、第3次AIブームから間髪入れず、いまや第4次AIブームが起きつつあると主張する研究者もいる。

こうした高度なAIの開発には、多くの人手が必要になる。AIに学習させるために、大量の高品質なデータを準備しなければならず、また開発されたモデルの評価や改善(AIが返してきた回答を採点する、より良い答えを教えるなど)も行わなければならない。それには膨大な数の作業者が必要であり、本書でも取り上げられているように、多くのAI開発企業はクラウドワークに活路を見出している。AIに対する需要と、それに応えようとする企業間の競争の激化は、AI開発というデジタル工場で働く作業員の増加をさらに促すだろう。

そう考えると、2020年代も後半を迎えようとしているいま、デジタル工場の姿と課題を正しく認識することが急務といえるのではないだろうか。

かつてクラウドワーク・プラットフォームを通じた単発の仕事をこなすことは「ギグエコノミー」などと呼ばれ、無邪気にもてはやされた時期があった。「ギグ」とはもともと音楽業界の用語で、単発の契約で演奏することを指し、それが転じてギグのように単発の仕事を請け負う形式の経済活動をこう呼ぶようになった。私たちはこの新しい現象の全貌をつかむに至っていないのが現状だ。本書がそのための一歩となることを、訳者として心から期待している。
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小林 啓倫

経営コンサルタント
1973年東京都生まれ、獨協大学外国語学部卒、筑波大学大学院修士課程修了。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米バブソン大学にてMBAを取得。その後外資系コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業などで活動。著書に『FinTechが変える!金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』(朝日新聞出版)、『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『ソーシャル物理学』(アレックス・ペントランド著、草思社)、『シンギュラリティ大学が教える 飛躍する方法』(サリム・イスマイル著、日経BP)など多数。

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